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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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限界オタクの才能がありすぎる

「ミリ姉、ミリ姉、これどう!? このリボンをこうやってつけて、ここはもっとフリフリにしてっ」

「まあ、きっとお似合いになるわよ。こちらのリボンはどうかしら? 生地のピンク色に合うと思うのですが」

「ああん素敵ねえ! 絶対かわいいわあ!」

「あっは、めちゃめちゃブリブリじゃん。それ、ウチが着けるんですよねえ? ちょっと幼すぎません?」


 ロットとミリナがカズを囲み、縫い上がったエプロンをどう装飾するかああでもないこうでもないと議論している。既にフリルたっぷりの豪華仕様に見えるが…。というか縫うの早いな。



 私はというと、前から作っていた自分とミリナ用のエプロンの続きを縫っていた。

 角煮を作るという明確な目的があるため、あくまでも機能重視だ。汚れの目立ちにくい濃い灰色の生地をベースに、今回ユーカ達の用意してくれた生地の中からアクセントになりそうな深緑のチェック柄生地を選んでポケットや簡単なフリルを付けることにした。


「兄貴は何やってんすか。縫い物しねーんすか」

「やはり編み物ですか。羊でないもの、ではありませんね。かなり小さく細かいようですが」


 弟分の騎士達がザコルの手元を覗き込む。


「絹のレース糸とそれ専用のかぎ針があったので買いました。レースの編み方は前にユーカ達とアメリアお嬢様の侍女達から習いましたので」


 ザコルは以前、細番手のウール糸で精緻なレース編みのストールを作っていたことがあった。あれをシルクのもっと細い糸で再現してみるつもりのようである。創作意欲の塊か?


 ウールのストールは今もシータイの町長屋敷の公共編み物部屋というか、元食堂に飾ってあるはずだ。シータイの編み物上級者達が神作品だと言って毎日拝んでいた。


「しかし、流石に糸が細いだけありますね。十分以上編んでいますがまだ襟くらいの大きさにしかなりません」

「いや、はっや!! もう襟の大きさになったですか!? その番手で!?」

「これは襟ではなく、髪飾りにしましょうか。レースを使ったのを以前見たことがある気がします」


 ザコルは編みかけを私の頭にかざし、イメージが固まったのかシャカシャカと高速で編み始めた。早すぎて手元が見えないのは定期である。

 ペイッ、私の前にヘッドドレス的なものが投げ置かれたと思ったら、ザコルはすぐ次のものを編み始めた。



「じゃじゃーん、かんせーい」


 紐を首にかけ、キュ、と腰紐を結ぶ。


「ミカ殿! もしやそれは『謎服』仕様で…!?」

「ふふふ、お分かりいただけただろうか」

「いや、作ってる時から分かってただろ」


 エビーのツッコミに、茶番を演じていた私とタイタは苦笑する。


 濃い灰色の厚地生地といえば、ザコルが前に好んで着ていた『灰黒の謎服』なのだ。

 ザコルが王都の東門近くにある作業着屋で買い込んでいた、サイズ大きめ、ポケットいっぱい、丈夫で汚れの目立ちにくいダボついた作業服。ちなみにその小さな作業服屋はアロマ商会によって店ごと買収された。現在、店主の老夫婦は王都から逃れ、都外の支店で保護されているらしい。


「何よその地味ぃーなエプロンは。ポケットまで暗い深緑色じゃない。紳士服じゃあるまいし、ミカなんだからもっとかわいい色を着たらどうなのよっ!」


 ちっちっち。


「この色と厚みこそが至高なのです。もー、ユーカ達が出してくれた瞬間、あるだけ全部買いましたよ!」


 ロットは不満げだが、私は大満足である。


「これ、まさか『本物の灰黒』じゃねーだろな…。ドン・セージなら生地屋ごと買い占めてる可能性あるぞ」

「あるねー。本物ならもっと嬉しいけどね。顧客のニーズ解ってるわー」


 生地屋まで買収したかどうかは知らないが、本物の生地を仕入れるか似た布を探し出してユーカ達に持たせるくらいのことはしていそうである。大商会のドンはその辺り抜け目がない。


「概念グッズを作り出してしまうとは我ながら限界オタクだなあ」

「ミカ殿、大変図々しい申し出ではございますが、こちらの切れ端を一つお譲りいただけませんか」


 タイタが指し示したのは、いかにもゴミというか、灰黒生地の小さな切れ端であった。


「それはいいけど、何にするの?」

「ありがとうございます。お恥ずかしながら、懐に忍ばせたく…」


 ぽ、タイタは切れ端を持ってほんのり頬を染めた。恋人の写真か何かかな…。


「それなら、切れ端と言わずもっと大きくカットしたのあげるよ。布はまだまだあるし。なんなら何か縫ってあげようか。何がいいかなあ」


 同じく、いや私以上に限界オタクのタイタの願いである。できる限りのことはしてあげたい。


「そっ、そんな作っていただくなどとは恐れ多い!!」

「ハンカチにするには生地が厚すぎるしなあ。普通に巾着か何かにするか」


 シータイでドングリ投げが流行った時、タイタはよくドングリを布袋に詰めて渡してくれた。あの布袋に代わるものを作ってあげよう。


「聴いておられますかミカ殿、ミカ殿が手ずからお作りになったものをいただくなど身に余りすぎますので」

「いいなー、俺にも袋作ってくださいよお」

「エビー!?」

「いーよ、ドングリでも詰めたりして使ってよ。エビーにもあげるならタイタも受け取ってくれるよね」

「そっ、それは」


 一人を贔屓するのでは問題があるが、二人に日頃のお礼として渡すなら問題はないだろう。私は騎士二人のために、残った生地に鋏を入れた。


 シュタッ。天井から忍者が降ってきた。


「俺のは!?」

「はいはい、サゴちゃんの分も作るよ。後日になっちゃうかもだけどペータとメリーの分も作るからねー」


 穴熊達にも作りたいが、人数が多いので出立までに間に合うかどうか。間に合わせよう。そうしよう。



「みてみて! おれらのエプロンもできた!」


 深緑色のエプロンを着けた少年達に、わー、とみんなで拍手する。


「また深緑…」


 ロットが独りごちる。アロマ商会は顧客の趣味に全力忖度してくれる優良商会なので、灰黒生地以外の生地は深緑色が多めである。


 そんなロットの注文に応え、リボンを必死で縫い付けていたミリナがハッと立ち上がった。


「ララ様、ルル様、イリヤの分まで作ってくださったのですか」

「お気になさらないでください。お揃いにしたいとゴーシが言い出したものですから」

「くふふっ、ゴーシ兄さまとおそろい! ありがとうございます!」


 嬉しそうな天使にみんなの顔が和む。


「みて、せーじょさま。じぶんのエプロンのはしんとこ、じぶんでシシュウ入れたんだ」

「ぼくもいれました!」

「どれどれ、おお、ゴーシくんのは剣のマークだ。かっこいいねえ! ていうか上手! 流石はララさんの子だね」


 少年はへへっと照れたように笑った。かわいい。針を何本も折って大変だったとララが苦笑した。


「イリヤくんのは……これ、もしかして」


 丸いリングが付いた棒状のものと、楕円のボールのようなものを組み合わせたこのマークは……


「先生のなげナイフとドングリです!」

「わーやっぱり!! ドングリ先生のマークだあ!」


 この天使、天才か? 限界オタクの才能がありすぎる。


「いいなあいいなあ、私も推しのマーク考えて刺繍する! えーモチーフ何にしよう何にしよう! 焼き鳥かなあ!? ああああああ私、絵心ゼロだったよおおおお」

「落ち着けって。ヤキトリのマークって、それむしろ姐さんのマークだろ」

「確かに」


 すん。


「エビーの袋にはアップルパイの刺繍してあげるね」

「ふはっ、何だそれ」


 ツボに入ったらしく、エビーがヒーッと爆笑する。


「タイタのはオリヴァーが考えた猟犬マークっていうかファンの集い公式マークかなあ。でも猟犬マークは水害寄付返礼品のハンカチにめちゃくちゃ刺繍してるからなあ…。タイタオリジナルのマークも考えたい」

「それは……もちろん嬉しいのですが、刺繍までしていただいては、もったいなくてドングリなど詰められそうにありませんね」


 タイタは困ったように頭を掻いた。どうぞガシガシと使ってやって欲しい。


「俺のは!?」

「はいはい。サゴちゃんのマークも考えるよ。ティス、ちょっと助けて!」

「はいなんでしょう!」


 絵心のある女子、ティスがシュバっとやってきた。

 私は彼女がササッと考えてくれた図案にデザイン代を払い、手早く刺繍し始めた。




つづく

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