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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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聖女様ミカ様お助けを

 ララはジーロに頭ポンポンされた後、何かこらえるかのように胸を押さえて深呼吸を繰り返していた。ちょっとドキドキしちゃったのかもしれない。


「…はっ、そうだわ、動揺してる場合じゃなかった! ミリナ様、ロット様、先程は勢いで口答えしてしまい……っ」


 とん、ロットはそう言いかけたララの口元に人差し指を当てた。

 やっと落ち着いたらしいララは「ヒュ」と喉を鳴らし、再び胸の前で手にギュッと力を込めた。


「気にすんなって言ってんでしょ? ミリ姉も気にしてないわよ。ね?」

「ええ、気持ちは痛いほどよく解りますもの。私ももしイリヤが壊したのなら、同じように言ったと思うわ」

「そっ、そうです、よね、あ、ありが」

「ああ、でもそーねえ」


 にい。ロットが口の端を上げる。ララが「へっ」と肩を上げた。


「あたし、前々から遠慮なく言い合えるような『妹』が欲しかったのよねえ。アンタがこれからも勢いでズケズケ言ってくれるって言うんなら許してあげるわ」


 にーっこり。極上スマイル。


「ひょ…っ」

「ねえ、いいでしょ? ララ」

「ひょぇぇ…!」


 蠱惑的な笑みのままぐいぐいゆくロットに、ララが涙目になった。


「兄様」


 ぽん、ザコルがロットの肩に手を置いて止める。


「何よザコル」

「兄様のかんばせはそれなりに人を惹きつけますので、お気をつけください」

「惹きつけるだとか、アンタにだけは言われたくないわ」

「僕には変な力があるだけです」


 へなへな、ララは雪の上に座り込み、両手で顔を覆った。


「推し一族怖い推し一族怖い推し一族怖い」


 ぶつぶつぶつぶつ。


「大丈夫ですか、ララ。僕が部屋まで運びましょうか?」

「ひょええええだだだ大丈夫ですそんなことされたら心臓止まって死んじゃううううう」

「しぬ? かーちゃん、マジにだいじょーぶかよ」


 ゴーシは自分も泣いていたのも忘れ、動揺しきりの母の顔を心配そうにのぞき込む。


「ははは、お前の母上は面白いなゴーシ。俺にもズケズケ言ってみろ妹よ」

「割り込まないでちょうだいジロ兄、アタシの妹するのが先なんだから」

「いいじゃないか、お前の妹は俺の妹だ。さあ」

「お兄様って呼んでもいいのよ? さあ」

『さあ、どっちからいく?』

「ひいいいいいいどっちも顔がいいいいいいいい!!」


 ロットとジーロという女帝の血を引く顔面凶器に迫られ、悲鳴を上げるララ。ゴーシはいつもの発作かとばかりに遠い目をした。


 この状況タイトルでもつけるとしたら、さしずめ『推しの子供を産んだら捨てられましたが、推しの兄弟からの溺愛が止まりません』かな。


「ふふっ」

「何笑ってんだ姐さん、止めてやらなくていーのかよ」


 一人で笑っていたらツッコミ担当に見つかった。


「いや、なんか面白いなと思って」

「面白くないですヤバいですオタクの心臓が保ちません聖女様ミカ様お助けをおおおおお」


 なりふり構わなくなったララが私に縋りにきた。


「え、私がかわいがっていいんですか? やったあ」

「ひょ…っ」

「ミカ様ったら、私を堕としたと思えば次はララ様なの? 妬けてしまうわ」

「ひょぇ!?」

「あー、ララ様ぁ? 先輩の嫁は誰だ選手権に参加するならウチを通してもらわないとぉー」

「ひょぇぇ!?」


 私の半ば本気の言葉に動揺したかと思えば、ミリナの据わった目に跳び上がり、カズの闇深すぎる目に後ずさりする。感情ジェットコースターだな。


「ミリナ様、ついに堕とされたっつう自覚あったんだな…」


 ツッコミ担当は独りごちる。


 タイタがススッとララに近寄り、一礼する。


「ララ殿、ご心労お察し申し上げます。ここはひとまずこの俺をセーフティゾーンと見立て、背中に隠れられてはいかがでしょう」

「セセ、セーフティゾーン!? 何ですかそれ!?」

「ララさま! こうしてタイタのうしろにかくれるとおちつくんですよ!」


 イリヤがタイタの後ろで手招きしている。


「よく分かりませんがぜひともそうさせていただきますっ」


 ララは、ぴゃっとセーフティゾーンに逃げ込んだ。





「ミーカ!」

「あ、リコだ。何してたの?」

「ねてた」

「そっかお昼寝してたんだね。おはよう」

「はあよ」


 二歳児かわいい。私は駆けてきたリコを迷わず抱き上げた。


「ゴーシが壁壊したって聞いたから来てみれば…。ララは一体どうしたのよ、何があったらそんな動揺の仕方できるのよ」


 リコの母親であるルルは、動きがブレブレのままタイタの背後で息を潜める片割れに眉を顰めた。


「あら、妹がもう一人来たわよ」

「きっとあちらも面白いだろう。何せ双子だしな」

「へっ」


 逃げてー、と言う間もなく、ロットとジーロはルルをからかいにいった。


「ルルまで翻弄しようとするのはやめてください兄様方」


 ザコルは止めに行ったというよりは火に油を注ぎにいった。


「あなんま、あなんま」

「あなんま?」

「もしかしてぇ、穴熊、って言いたいんじゃないですかぁ」

「そーかも。さすが師範、子供慣れしてるね」

「あなんま、いっぱぁい、いゆ」

「うんうんそっか、あなぐまいっぱいいるねー、リコ」

「えー、今のめっちゃかわいー! ねーもっかいやってよぉ、『いっぱぁい』って」


 リコはギャルのリクエスト通り、手振りで『いっぱぁい』を表現した。あまりの可愛らしさに、きゃー、と私はカズと二人で盛り上がる。



 聖女様ミカ様お助けをおおおお、と叫び声が聴こえる。

 きっと今日のセーフティゾーンは盛況だろう。




つづく

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