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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ちょくちょく堕とされかけていますが

 商会女子達は、卒業証書をもらった後もせっかくだからと涙を拭いて反復練習に励み始めた。なんと模範的な生徒だろうか。正直、彼女達も執務メイド達もミリナやイリヤもザコルにエビタイも良い生徒すぎて、教える方は超イージーモードだった。


 新しい塾生達を見渡す。サカシータ一族に共通することだが、ソロバンのことは父親が作った珍妙な楽器だと思っている節があり、さっきからチャカチャカといい音がしている。

 ……スパルタで教えてもついてこられないことも想定に入れた方がいいな。


 ちなみに、ミリナはミリューが迎えに来たので、魔獣舎の様子を見に飛んでいった。イーリアも連れて。


「イーリア様も、古参の子達に会いたかったですよねえ。良かったなあ…」


 そうつぶやくと、オーレンとサンドとマヨが互いに目を合わせて微笑む。


「君って本当にいい子だよねえ…。リアに変なことされてないかい?」

「ちょくちょく堕とされかけていますが、ザコルが止めてくれるので大丈夫ですよ」

「ちょくちょく堕とされかけているんだね…。すまないね、うちの妻が」

「いえ。私はいいんですが…」


 ミリナはイーリアと二人で行かせて大丈夫だったんだろうか…。魔獣達もいるので滅多なことはない、とは思うが。


「氷姫殿はやはり根っからの聖女だな。あの母の幸せを心から願えるとは。シュウやロットにも聞いたが、随分を無茶な振りもされたらしいじゃないか」


 母には息子としていびられた記憶しかない、と言っていたサンドである。


「いいえ、散々無茶を聞いていただいたのはこちらの方ですよ。イーリア様こそ私に一言も二言も言いたいことがあるはずです。それでもああして、会うたびに心から歓迎してくださるんですから。女帝というか聖母のようなお方ですよね」


 サンドは考えるように腕を組んだ。


「ふむ。どうやら俺達息子とは違う景色が見えているらしいな…」

「嫁サイドから見たリア様は半分聖母様で間違いないわよ」


 マヨは私の視点に共感してくれ、ふふ、と穏やかに笑った。




「だーんちょ、ウチもソロバンよく分かんないけどぉ、絶対そうじゃないと思うんですよぉ。ケタ多過ぎみたいになっちゃってる気がするしぃ」


 端から全ての珠を上げて「こうでしょ!」と言っているオネエにギャルが突っ込む。


「違うの!? ていうかこのタマちっちゃくて弾きにくいわね!? 枠ごと割りそうだわ!!」

「あは、だんちょー不器用でかわいー」


 いーこいーこ。


「ロット、君には僕が使っているのと同じソロバンを貸すよ。何台か珠を大きめに作ってもらったんだ」


 オーレンが取り出したのは、子供の手習いに使われる大きさより、ずっと大きくてがっしりしたソロバンだった。よく使い込まれてもいて、博物館にでも置いてありそうな風格だ。


「ロット兄様、ソロバンを始める前に足し算と引き算について簡単にさらいましょう。ゴーシも一緒に聴きますか」

「はっ、はいザコルおじさま!」


 ザコルが教鞭を取る。ドングリ先生って幼児達に呼ばれてた頃が既に懐かしいな。ガットやミワ達は元気にしているだろうか。


「お前も聞いてこいマヨ」

「はーい」

「どれ、俺も聴くか」

「ジーロ兄様は必要ないでしょう」


 視界の端では、タイタがイリヤについて教えている。イリヤは二桁の計算もやっとできるようになったというレベルだ。七歳という年齢と一週間という期間を考えれば、目覚ましい成果である。





 新塾生達の初日は、足し算引き算の概念のおさらいと、ソロバンの造りの説明などで終わった。手作りの足し算・引き算九九の一覧を配り、なるべく覚えてくるようにと伝えて解散である。


 教室には、私達テイラー勢とオーレン、子供達だけが残った。子供達はタイタをボードゲームに誘っている。

 エビーは仕込みがあるとか何とか言って部屋を出ていき、ザコルが嬉しそうに見送っていた。


「ミリナ様とララルル様達、帰ってこないですねえ。そりゃそうか」


 物件の下見など行き帰りも含めたら半日仕事だ。魔獣舎はミリュータクシーでドアtoドアだが。


「あの数の魔獣達の世話となれば、普通に時間がかかると思うよ。使用人も手伝いに行っているとはいえね」

「オーレン様。そういうものですか」


 普通の動物と違う魔獣達の世話というのがどういうものなのか、実際のところよく判っていない私である。


「魔獣の世話について、質問させていただいてもいいですか?」

「もちろん。いくらでもどうぞ」

「では…」



 魔獣の世話、それはまず水や食べ物の調達から始まるらしい。

 従来方針として、人間達は彼ら魔獣に食べ物を用意してきた。魔獣達は食べ物に微弱に含まれる魔力を身体に取り込む形で生きてきたのだ。ただ、ミイに聞いた話では魔力が補給できさえすれば食べ物にこだわる必要はないらしい。それでも彼らは人間の用意する食べ物が気に入っているそうなので、方針を変える予定はないそうだ。食糧費はバカにならなさそうだが…。


 純粋な魔力と違って実体のあるものを食べれば、魔獣でも排泄はすることになる。知能が高い彼らなので、一度躾ければ、というか説明して納得してくれればトイレも使ってくれるそうだが、あの数、しかも大型魔獣も含まれるとなればそれなりの量にはなるだろう。それらの片付け、各部屋の掃除などに加え、ミリナは一匹一匹ブラッシングしたり、訓練に付き合うなどの手もかけている。


「ミリナさんはよく一人で世話をしていたと思うよ。他の世話係はみんなイアンが辞めさせてしまったようだし、サンドやマヨさんが手伝うのですら、後でイアンに叱られるからと彼女自身が断っていたらしいんだ。排泄物なんかの処理は魔法陣技師の仕事ではないと言ってね。そんなことはないし、サンド達もコソコソは手伝っていたそうだけれど…。ザコル、彼らは戦場ではどうしていたんだい」


「戦場では第一王子殿下が配下に命じて必要なものを用意させていました。王宮での世話も、彼らに与える食事代は国庫から賄われていたはずですが……召喚されたばかりのミリューがミリナ姉上に魔力を分けてもらい凌いだという話を聞くに、横領などされていた可能性もあるのでは?」


「ああ。それはサンドも怪しく思っていたようだけれどね、イアンを追求しようとすると、イリヤやミリナさんを人質に取るから強く出られなかった、と聞いているよ」


「………………」


「君が、彼らを救ってやりたかったと思う気持ちは理解している。でも、君のせいじゃない。だからそんな顔をしないでくれ」


 オーレンは、どこか悔しそうに黙ったザコルの肩を叩いた。




つづく

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