どうしてそう外道なことを思いつくのだ
「それにしても、魔力を抑制させた状態? で、魔獣が何年も耐えられるものかしら…。私も、彼らが魔力を必要としていることは最近知ったのでよく分かりませんが、邪教徒達はどうやって世話をしているのでしょうか」
「そこは僕も疑問だ。一応、魔獣達も僕らと同じものを食べて生きていけるはずだけれど」
ミリナとオーレンが顔を見合わせている。
ミイミイミイ…
そのへんのものにも魔力含まれてる。食べて魔力取り出してる。
「その辺りのものにも魔力は含まれている、だから食べて魔力を取り出している、とミイが言っています」
かつてコマも同じことを言っていた。しかし自然界から栄養素として得られる魔力は微々たるもので、相当な量を食べないと満たせないことも聞いている。だから、私の魔力がこもった食べ物は『うまい』とも。
「もしや、魔力さえ摂れたら食べ物はいらないのかな」
ミイミイミイ…
ミイは人間の食べ物好き。気に入った。
くうんくうん…
ナラもあったかい牛乳好き。
「ふふっ、食いしん坊だねえ。また何かご馳走するね」
ほっこりした空気が流れてしまったが、話を戻さなければならない。
やっとだ。やっと踏み込める時が来たのだから。
「邪教……ラースラ教は、彼らが神として崇めている魔獣の番として私を迎えようとしているらしいのですが」
「つがい? つがいとは、伴侶という意味ですか?」
「はい。その神とされる魔獣がどんな魔獣なのかは判らないんですが、その魔獣の仔を渡り人の女に孕ませ、新しい神を産ませることが最終目標のようなのです。それも、これまでの調査や尋問によって判っています」
「……っ」
ミリナは今度こそ絶句した。
「何なのよ、それ……」
「まさしく『邪教』だな。魔獣と人の女を無理矢理娶せようなど、どうしてそう外道なことを思いつくのだ」
ロットとジーロもドン引きだ。私のことを心底魔獣だと思っているミイ達はキョトンとした顔をしているが。
「あー、それでウチが男だってガセ流してくれてたんだぁ…」
カズがポツリとつぶやく。
「父様っ、ガセっていうか、領外にはカズが男だって誤認させるように動くって言ってたの、これが原因なの…!?」
ロットは腕の中のカズをギュッと抱きしめたまま、父親に詰め寄った。
「いや。邪教に限った話じゃない。ロットには前にも話したと思うけれど、渡り人の、特に女の子は狙われやすいんだ。理由は、その子供が強力な魔法士として生まれる可能性が高いから。どういうわけか、父親が渡り人であるよりも、母親が渡り人である方が魔法士としての適性が受け継がれやすいらしくてね。渡り人に関する知識が失われつつある昨今のオースト国じゃ、うちみたいな古い家か、王家でもなければ知らない事実だけれど、他国では知られている可能性も否定できないし、現にミカさんを渡せと王家から圧力があったと、セオドア君…テイラー伯からも聞いていて」
「えっ、その圧力があったのって、いつの話ですか?」
「君がこっちに召喚されてきてまもなくのことだろう。君は知らなかったかい?」
「ええと、はい。第二王子殿下がテイラー邸に乗り込んでくるまでは、邸でずっとゆっくり過ごしていました。王家へは渡り人が現れた旨だけ報告してあるから、社交シーズンになったら挨拶に行こうとだけ……。そっか、私、最初から守られていたんですね?」
私は隣のザコルを見上げた。
「王家がというか、早い段階で王弟殿下に目をつけられていたのは知っています」
「…ああ、それは私に言いづらいですね。まあ、当然か」
セオドアは、私の召喚に関わった可能性のある人間として王弟を挙げていたが、あくまでもアメリアへの嫌がらせだろうと私には話していた。王弟が私を妃か何かにしようとしている、と聞いたのは旅に出てからだ。
「話を戻したいと思います。私を魔獣の番にと考えているらしいラースラ教ですが、彼らにとっての神たる魔獣は、その拘束されている魔獣とは別にいるんじゃないかとも思っているんです。拘束している『獣』への態度が、とても『神』を扱う態度とは思えなくって」
タイタの尋問によれば、邪教徒の女は世話していた獣を『穢らわしい』とまで言っていたそうだ。待遇はともかく、神に向かって穢らわしいなどという言葉は出ないだろう。
「少なくとも、その神? とされる魔獣と、ひどい目に遭っているユニコーン風の魔獣、その二匹が邪教に捕らわれているのはほぼ確定かと。その他にもいるだろうというのは推察に過ぎません。ちなみに、サギラ侯爵令息、フィリオ様がサギラ領内で見たのは一角獣風の見た目だったと伺っています」
「もしかしたら、その虐げられている子はサギラに?」
ミリナがギュッと拳を握る。
「可能性は高いですね。ただテイラーの第二騎士団長によれば、魔獣の目撃例が一番多いのは王都周辺だそうなのです。丁度、第二騎士団長、ハコネ兄さんとザッシュお兄様が王都の方に行きましたから、そっちの調査は任せましょう。今頃現地の同志達にでも話を聞いていると思います。そういえば、ゴウはザッシュ様といるんですか?」
ゴウはサンドの従を名乗る硬派な黒狐風の魔獣である。ザッシュについて行ったのは把握していたが、サンドと一度合流したようなので、王都を脱出した魔獣達とともにこっちに来ているかと思っていたのだ。だが、ここにゴウの姿はない。
グウグウ…
サンドがゴウに命じた。兄弟を守ってくれと。
「…そっか。そうなんですね玄武様。ふふっ、サンド様も、弟思いのいいお兄様ですよね」
グウ。
どこか満足げに頷く玄武だ。この玄武、ミリナやサンドを子や孫とでも思っている節がある気がする。
「ゴウがついてるなら安心ですね。仮に魔獣を見つけたとしたら、人間に代わって交渉もしてくれるでしょうから」
ちら。私はミリナの顔を伺う。ミリナはハッとしたような顔をした。
つづく




