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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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仲間外れは嫌でしょう?

「おお、壮観だ! やはりついてきてよかった!」


 シンプルに魔獣が見たかったらしいジーロは、白い息とともに歓声を上げた。




 魔獣舎は天井近くにひさし付き・ガラス無しの大きな開口枠があり、換気ができるとともに自然光も入る仕組みになっている。日中はランプなどがなくても明るい分、室内の気温は外気温とほとんど差がない。つまるところ、かなり寒かった。


 魔獣達には、人間のような『体温』がない。ミイに聞いたところによれば、血ではなく魔力的なものを体に巡らせているからだそうだが、変温動物などの生態とも違い、寒暖に体調を左右されることが全く無いのだそうだ。


 経験則としてそれを知っていたサカシータの先祖も、この魔獣舎に暖炉を作るとか、保温性・密閉性を高めるなどという無駄な工夫はしなかった。簡単には崩れない丈夫さと、体の大きさに合わせた広さ、そして仲間意識の高い彼らが常に仲間の気配を感じられるよう、仕切りを最小限にしたほぼワンルームな間取り。魔獣達の生態をつぶさに観察し、彼らの快適を追求した結果がこの魔獣舎なのだ。


 ちなみに、世話にきた人間が泊まりがけになった時のため、暖炉と薪と毛布が用意された待機部屋もどこかにあるらしい。急に吹雪になってここで足止めなどされたら、生身の人間は凍死待ったなしである。




「いいですかミカ様。今日私が一緒にここへ来たのは、今日こそは魔獣達と一緒に感謝を申し上げようと思っていたからなんです。決してあなた様にさらなる魔力を注いでほしいとか負担を増やそうなんてことは考えていないのです。大体、一昨日倒れたばかりだというのにどうしてミカ様はもう、もう、もう…!!」


 メイド達によってモコモコに厚着させられたミリナがプンスカと拳を振っている。私も出がけに大きめの半纏を渡された。マージが仕立ててくれた雪国迷彩仕様のコートの上にさらに羽織る形となっている。正直動きやすいとは言い難いが背中は暖かい。


「まあまあ、魔力過多で早く魔力あげちまいたかっただけだと思いますよ、まあ言葉足らずなこのクソ姫が悪いんすけど」


「ミリナ様のお怒りごもっともでございます。しかし、魔力過多というもなかなかご負担の大きい状態でありまして、情緒不安定になる他、ひどくなりますと頭痛や吐き気など馬酔いのような症状にも苛まされるそうなのです。体調の悪さから多少衝動的になられても仕方ない部分もあるかと」


 エビタイのフォローともつかぬフォロー、というかただの補足に、ミリナはますます顔色を悪くした。


「頭痛や吐き気…!? 私、泣きやすくなるとしか聞いておりませんよ!?」


「シシ殿は、魔力過多を決して甘くみてはならないとおっしゃっております。何せ、我慢強さでは誰も敵わぬミカ殿がお心を乱すほどの強い症状なのです。おそらく、我々が思うよりずっとおつらいはずだと。ですので」


「どっ、どうしてそんな状態になるまで我慢をなさるの!? いくら魔獣達に魔力をあげたいからって敢えてそんな症状を我慢しながらあの雪道を歩いてきたなんて…!!」



 その後は、どうして魔力をばら撒いたか、ではなく、どうして魔力過多を我慢していたのか、を論点に懇々と説教を受けることになった。

 私は「はい申し訳ありません」を繰り返しながら、小中型の魔獣達と共に床に座ってミリナを見上げている。魔獣達もなんだか自分が怒られているような顔でしゅんとしている。


「ミリナ様、私が悪いのは重々承知の上なのですが、魔力をもらってくれたこの子達も気にしますので、今はその辺りで…」


 はっ、ミリナが魔獣達の様子に気づいて口をつぐむ。


「あ、じゃー次、ウチらにバトンタッチでおねしゃーす」

「へっ」

「覚悟なさいよミカ!」


 ミリナに代わり、魔獣達とは特にしがらみのないギャルとオネエが説教をし始めた。私は引き続き「はい申し訳ありません」と繰り返すことになった。




「父上。僕が立ち会ったあの時に喚ばれたのがあちらのスザクでしょう。ゲンブとスザクは、ミカが異世界の神の名だと言っていました」


 私が説教を受けていることには我関せずなザコルが、亀型魔獣の玄武と、鳥型というか羽毛恐竜っぽい朱雀の方を指し示している。


「その通りさ、カッコいいだろう? 青龍と白虎の名も誰かにつけたかったんだけどね、ちょうどいい子が来なくって。ああ、でもあのミリューは青龍の名に相応しいかな。いかにも青くて立派な竜だ」


 キュルウ…。

 じと、ミリューはオーレンの方に目線を向けた。


「ああ、大丈夫だよ、ミリナさんがつけた大事な名前を奪うようなことはしないし、貶す意図もない」


 オーレンは無神経なことを言ってすまない、とミリューに謝る。


「朱雀も、召喚した頃よりも随分と大きく成長したね。ザコルは一緒に戦場へ出たりしたのかい」


 キョエエエ!

 朱雀はそうひと鳴きしてオーレンの前にくちばしを差し出す。魔獣達に後ろめたい思いのあるオーレンは少し躊躇ったものの、朱雀の「撫でないの?」という純粋な瞳には勝てず、そっと手を置いてすべらせた。


「スザクとは、アカイシを越えたこともありますよ」

「アカイシを、だって?」


 顔色を変えた父親に、ザコルは何でもないような顔で頷いた。


「もちろん正式な任務としてです。王太子殿下とともに彼女に乗り、こっそりとかの国にお邪魔しました。北西の国境で小競り合いがあり、ガラクタ…ではなく、その土地に伝わる古い魔剣と引き換えに鎮圧を、との依頼でしたので」

「…そうか。そのついでに『イタズラ』してきたのかい? 君は」


 そんなオーレンのカマかけに、ふむ、とザコルが呟く。


「やはり、邸の中は内緒話に向かないようですね。行きは殿下やコマとともにスザクに乗ったのですが、僕だけ徒歩で帰ったんです。山中で特殊部隊に囲まれて危うく死にかけたりもしましたが、無事、義母上の実家に鳥の死骸を投げ込めるだけ投げ込んできました。楽しかったです」


「くっ、くふっ、君ってやつは」


 思わず吹き出した父親の顔をザコルがのぞき込む。


「父上」

「な、なんだい?」

「僕達と一緒に、新しいイタズラを考えませんか」

「えっ、一緒に? 僕が!?」


 思いがけない言葉に、オーレンが目を丸くする。


「だって、仲間外れは嫌でしょう?『父様』」


 …必殺、上目遣い。オーレンが固まる。

 朱雀が不思議そうな顔でオーレンの手をくちばしでつついていた。






「はは、油断したな父上よ」


 ジーロの呑気な声がドームに響く。


「ちょっとアンタ、父親相手にまでブチかますんじゃないわよ。もー、伝説の工作員っていうか伝説のハニートラッパーね」

「ザコリーナちゃんのことすか」


 ヒュン、かぎ針がエビーの方に飛ぶ。

 ザコルはコホンと咳払いした。


「せっかくなので、自覚した力を試してみているのです。身内ならば効きにくいだろうと思ったのですが、意外によく効きますね」


 ぎぎ、固まったオーレンが首だけを動かしてザコルの顔を見た。


「…おっ、親を実験台にするのはやめなさい!!」

「ロット兄様はいいのですか?」


 ふ、とザコルが笑ってみせる。オーレンとついでにロットも固まった。ロットは既に何度か実験台として遊ばれている。


「いやー、さっすが猟犬殿! 使いこなしてますねー」

「君の教え方がいいのですよサゴシ」

「ははは俺なんも教えてねー」


 忍者は乾いた笑いで応えた。


「なるほど、これが『支配しすぎる』という力なのねタイタさん、タイタさん?」


 ミリナは近くにいたタイタに話しかけたが反応がない。さっきの軽い舌なめずり付きの微笑はご負担が大きいですよね解ります。


「ちょお、野生の人うちのピぃゆーわくすんのやめてー? もー堀田先輩取っちゃってい?」

「ダメです」


 こんな極寒の中で何やってんだろうなーと思いつつ。

 私は退避していた穴熊を呼び戻した。イタズラはあっちのお兄さん達の主導なので放っておくとして、私はここに来た主目的でもある『コード・エム』の話を進めねばならない。




つづく

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