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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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社会人の基本だろう?

「ありがとう、ありがとう…」


 礼を言いながら涙を流すミリナの背中をさすりながら、私は神経を周囲に巡らせる。


 あの時、消えかけていた気配。今はしっかりこの場にある。それ以外の気配にも『熱』を感じる。みんな、生きている。


 じわりと私の目頭も熱くなった。と同時に、自分の魔力がじわりと溶け出し、気配達の方へと向かっていくのが判る。これだ。今まで意識していなかった感覚をやっと掴むことができた。


 おそらく、コマが『無意識下の譲渡』と呼んでいた現象だ。コマが魔力を必要としていることを聞いてから、私は彼の存在を認識するたびに意識せず魔力を渡そうとしていたらしい。私が魔力を枯渇させかけた時は、私に認識されないようコマが気配を消してくれたりして……


「…もしかして、昨日、みんなが静かにしてたのは私のため?」

「ミカ様?」


 ミイ。ミイミイ…

 そう。ミイ達見ると、ミカはいつも魔力流してくれる。少しずつでも、数が増えたから危ない。


 そういえば、昨日はミイとミリューがちょこちょこと様子見に来たくらいで、魔力搾取で弱っていた個体を含む他の魔獣達は、この魔獣舎に引っ込んだまま出てこなかった。

 大型や飛行型の子達が本気で大声を出したり空を飛んだりすれば、子爵邸にいる私にも音が届き、姿を遠目に見ることもあっただろう。その瞬間、私は彼らの存在を認識し、距離があっても魔力を送ろうとしたかもしれない。


 しかし、ミイの話では昨日の朝の時点で私の魔力は回復していたということだった。それにおそらくだが、この『無意識下の譲渡』くらいでは大した魔力量をあげられないのではと思う。それでも、一度は倒れかけた私のため、気配を押し殺して一日過ごしてくれたのだ。



「優しいなあ…」

「優しい…? あの、ミカ様? 今、何かなさっていますか? どことなくあたたかい感じが…」


 ぎゅ、とミリナの腕に力が入る。


「ミリナ様って魔力の気配的なものに敏感ですよねえ。もしや特殊能力持ちですか? あ、ダイヤモンドダストじゃないのでご安心ください」

「何を安心しろと!? ダイヤモンドダストじゃなかったら一体何を、ほらもう止めて…っ」


 ぎゅううう。


「うふふ熱烈ですねえミリナ様」

「止めてくださいと言っているのに…!」


 ぎゅうぎゅうバシバシバシ。


「ふへへへへ」


 ミリナは私をぎゅうぎゅうと締めて背中を叩いている、つもりのようだが、ザコルの締め上げに比べたらマッサージにもならない優しさである。


「姫様ぁ…」


 ズズ。亡霊のような気配が傍らに現れた。


「あっ、サゴシ」

「お楽しみのトコすいません。今すげー俺が生きにくくなってんですけど何してるんですか」

「えっ、わーごめんごめん大丈夫!? 指向性持たせたから大丈夫だと思ったのに! あの子達は!? 穴熊さんは!?」

「とっくに退避させました」


 べり。


『あっ』

「そろそろ離れてくださいミリナ姉上。ミカ、結局何をしていたんですか」

「そうですわ! 今、また広範囲に魔力の放出を…っ」


 どよ、人間達が顔色を変える。

 ふふん、私はポーズを決めてみせる。


「ダイヤモンドダストではありませんよ。今、無意識下の譲渡ってやつを意図的に行うことに成功したんです!」


 テッテレー。ミカは新しいスキルを獲得した!


「無意識下の譲渡? ああ…前に魔力を枯渇させかけていた時に言われたアレですか」

「そう、アレです。今、意識的に止めることもできました」

「コントロールできるようになったということですか」

「その通りです」

「それは素晴らしいですね」


 いーこいーこ。ふへ、師匠もやさしい。


「ちょっ、どういうことですかザコル様! ミカ様もご説明を!」


 言い募るミリナ。どやどや、他のメンバーも駆け寄ってくる。


「また何やらかしたのよこのおバカッ」

「まあまあ、ザコルは問題視していないようだし、大丈夫なのでは」

「ダメすよこのザコルの兄貴も基本ネジ飛んでんすから百パー信用しちゃなんねっす!!」

「おおそうか…。では何をしよったか異界娘ー」

「ミカ殿…我々が感知できない『無茶』を迂闊に行うのはおやめいただきますよう」


 ゴゴゴゴゴゴゴ…。


「ひぇ」


 みんなのやさしくないオーラに、思わずザコルの背中に引っ込む。ザコルへの信頼度が高いジーロは棒読みだが…。


 ぬん、すぐ側に大きな影ができる。


「困るなあ君……新しいことをするなら事前に言ってくれないと。社会人の基本だろう? ミカさん」

「ひゃい」


 ぴょこ、その後ろから後輩が出てくる。


「堀田せんぱぁい。ダメじゃないですかぁ。報告連絡相談はしろって先輩がウチに言ったんですよぉ?」

「ぴゃい」


 何だろう、この二人に迫られると会社で怒られている気持ちになる。ある意味、一番身がすくむような……


「皆、鎮まってください。このクソ姫は今、無意識に行なっていた『無茶』をコントロールできるようになったらしいのです」

『無意識の、無茶…?』


 人間達の顔に疑問符が浮かぶ。


「ということは、今までは無意識にも無茶をなさっていたという認識でよろしいので?」

「その認識で合っていると思います、タイタ。どうやら、無意識のまま魔力を分け与えてしまう癖があったようで。以前、コマにもそのようなことを指摘されていました」


「コマ殿が」

「コマさんが」

「コマちゃんが」

「男の娘ちゃんがぁ?」


 コマの名が出て、皆が顔を見合わせる。


「コマとは一体何者…」


 コマと面識のないジーロは疑問符を浮かべたままである。


「いや、だからって勝手に検証とかするのはダメだよっ、また倒れたりしたらどうするんだ!」

「そうですわ! ミカ様の『大丈夫』ほど信用ならないとおっしゃったのはザコル様でしょう!?」

「そ、そうよそうよ父様とミリ姉の言う通りよっ」


 意外とコンプラに厳しいサカシータ家当主に魔獣女王と騎士団長(謹慎中)が同調する。


 私は謝罪会見よろしく腰を折った。


「言葉足らずでご心配をおかけして申し訳ありません。今、ザコルさんから説明があった通りですが、どうやら私、魔力が必要と認識した相手に無意識で魔力を渡そうとする癖があったようで、魔獣達もそれを心配して昨日は存在感を出さないように気をつけてくれていたらしいんです。でも、今は私が魔力過多気味だったので、魔獣達が受け取ってくれるって…」


 キュルル、ルル。

 魔力過多、解消。


「あ、うん。魔力過多は治ったよ。ありがとう、魔力もらってくれて。また泣いちゃうとこだったから…」

「なんだ、魔力過多なら早く言ってくださいよお。その辺に氷像でも作っときゃよかったっしょ」

「ううん、せっかくならみんなにあげようと思って。あまり使わずに貯めてたんだ」


 今日、日中に作ったものといえば、蜂蜜牛乳とタレとネギスープくらいだ。今の魔力回復スピードからいうとあの程度ではとても解消できない。せめてお風呂五杯以上沸かしたりジャム千瓶作ったり薪一万本乾かすくらいしないと。


「言っときますけど、魔力過多我慢してんのだって『無茶』なんすからね? 解ってんすか?」


 ヒョコ、ヒョコ。各個室の暗がりから、魔獣達が顔を出す。


 くぅん!

 キュウ!

 キキィ!


「ナラ、トツ、ジョジー」


 ズザーッ。

 よく話す顔馴染みが突進してきて、目の前で急ブレーキをかける。


「みんな、ありがとね。私が無意識に魔力をやっちゃうから、ミリューが大丈夫だと確認するまで気配消しててくれたんでしょ。ミイから聞いたよ」


 キキィ、キキィ…

 ミカは己を簡単に溶かしてしまうです。みんな助かるけど、危ない行為。ミリナが悲しむから私達がさせない。


「己を簡単に溶かしてしまう、か…。ジョジーは相変わらず哲学的っていうか、詩的な表現をするね。うん。ミリナ様が悲しむのはよくないよね。みんなにも心配かけないように、ちゃんと自分で調整できるようにしていくから」


 キュウキュウ!

 ミカ元気になた!


 くぅんくぅん!

 ミカ魔力おいしいありがと!


「うん、元気になったよ、みんなも魔力食べてくれてありがとう。優しいね」


 彼ら以外の小中型モフモフ魔獣もやってきて私を取り囲む。これで毛だらけにならないところが普通のモフモフと違うところなんだよな…。この毛も魔力とかそういうものでできているんだろうか。



 ドシンドシン、バサバサ、大型の魔獣達も部屋から出てくる。

 今までの静寂が嘘のように、魔獣舎は一気に賑やかになった。




つづく

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