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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ぐうかわでございますね

 雪や氷のついた樹林群を抜け、雪道に落としていた目線を上に上げれば、一瞬、崖かと見紛うほどの巨大な建造物が目に飛び込んでくる。


『ここが魔獣舎…!!』


 私とタイタが同時に声を上げる。


「でっけえ…!! これ、子爵邸よりも広いんじゃないすか?」

「ああ、大型の子達も羽を伸ばせるようにね。うちじゃ、人間よりも魔獣の方が待遇が良かったのさ。はは」


 オーレンはエビーの問いに冗談めかして答えたが、建物の立派さを見ればその言葉が偽りないものだと解る。当時、国境防衛戦の要は魔獣達だったはず。代々のサカシータ家当主は、人と同じかそれ以上に魔獣達を大事にしたのだろう。


「この石壁、子爵邸よりも古いですか?」

「いいや、建てられた年代は同じくらいなんだ。でも、邸の方は息子達が定期的に壊して直しているせいで、こっちより新しく見えるかもね。まあ、うちの一族の子供より、魔獣達の方がよほど大人しかったって証拠だよね、代々…」


 代々、サカシータっ子は建物の新陳代謝に欠かせない存在であるらしい。イリヤやゴーシが壁を壊すたびに、使用人達も穴熊も嬉しそうにしてるもんな…。


「子供はこの魔獣舎に勝手に近づくなと厳命されていたからなあ。壊しようがなかった」

「あたし、ここに魔獣がいた頃のことなんてほとんど覚えてないわ」


 ジーロやロットにとっては、家の近くにあっても馴染みのない建物という印象しかないらしい。


「僕は覚えていますよ。召喚の儀に一度だけ立ち会ったことも」

「えっ、そんなことあったかしら?」

「よく覚えているねザコル。確かにここで行われた最後の儀式には子供達も同席させたけど、末の双子はまだ三歳か四歳かそこらじゃなかったっけ」

「はい。ジーロ兄様がよく見えるようにと、僕とザハリを順番に抱き上げてくれたのも覚えています」


 お兄ちゃんに抱っこされる幼児ザコル…!


「ぐうかわ」

「ええ、ぐうかわでございますね」


 うんうん、タイタと頷き合う。


「まあまあ。その頃からお優しいお兄様だったのですね、ジーロ様は」


 ミリナが微笑ましそうに目を細める。


「俺は別に優しくないぞ姉上よ。ザコルはやはり記憶力がいいな。俺は十二か十三だったはずだがあまり覚えていないぞ」

「ジーロ兄様は僕達に限らず、常に弟の世話を焼いていましたから。印象にないだけでは?」

「そうかもな。末の双子よりも五男と六男と七男の素行が悪くてなあ。双子の世話はむしろ後回しにしがちだったかもしれん」

「あっは、だんちょー悪ガキだったんだぁ」

「う、うるさいわねっ、そんな前のこと全然覚えちゃないわよっ」


 ミイ!


 ドロン、とばかりにエビーの頭上に白リスが現れる。


「お、ミイちゃん。今日はずっとこっちにいたんだな」


 ミイミイ! ミイ!

 お前達、来るの待ってた! 遅い!


「来るのが遅いって怒ってますよお、早く中入れてもらいましょーや」


 相変わらず魔獣とノリで通じている陽キャのエビー殿である。






 子爵様のおなーりー。とばかりに、魔獣舎の鉄扉が開く。両脇に立っていたサカシータ騎士二人が一礼した。


 門扉から建物まではまた距離があり、みんなで雪道をザクザクと歩く。


 ここまで結構な時間歩いてきた。建物自体は子爵邸からも見えていたのですぐ裏手にあるくらいに思っていたのだが、どうやら錯覚を起こしていたらしい。理由はシンプル、想像以上に巨大な建造物だったから、以上だ。


 ミリナもいるのに馬ゾリを用意せず徒歩を選んだのは、オーレンが私と話す機会を作りたかったからだろう。

 話の内容はショッキングだったというか私という人間の謎がまた一つ増えてしまったが、オーレンのこれまでのはっきりしない態度の理由も少し分かって、どこかスッキリした気持ちにもなっていた。


 日本出身の渡り人を自称しているくせに、母親が山の民? とかいう謎すぎるプロフィールを持つ女である。敢えて黙って隠していたとすれば怪しすぎるし、何を目的にテイラー伯や自分の息子に取り入っているのかと疑念を持っても仕方ない。


 オーレンはひとまず、親については何も知らなかった、という私の主張を信じてくれるつもりのようである。



「エビー君はそのミイと相性がいいようだね」


 ニコニコ、オーレンがエビーとミイのコンビを微笑ましげに眺めている。人間と魔獣が仲良くしているのが嬉しいのだろうか。


「へへっ、ミイちゃん魔界の森の賢者っつうお偉いさんらしーんで、俺やタイさんのこと子分かなんかだと思ってんすよ」


 ミイミイミイ!

 お前ミカの子分だろ!


 ミイがペチペチとエビーの頭を叩く。


「エビー、主人を違えるなとお怒りのご様子だぞ」

「タイさんもノリでコトバ解るようになったんすか?」

「ミイ殿には何度も危ない局面を助けていただいているからな。どのようなお考えをする方なのか、少しずつ解ってきたといういうのが正しいだろう。序列には厳しいお方だ」


 ミイミイ!

 赤毛わかってる!


「ふふ、ミイったらお友達ができて嬉しそうねえ」


 ミイ、ミイミイ! ミイミイミイ!

 そう、ともだち! ママ、ともだちと遊ぶと喜ぶ!


 どうやら、ミリナを喜ばせたいという意図もあって、積極的に『ともだち付き合い』をしているらしい。


「魔獣にも友達という概念はあるの?」


 私がそうミイに問いかけると、ミイは「うーん」とばかりに首をひねった。


 ミイミイ、ミイミイ…

 ともだち、魔界にはない概念。従うと決めた人間以外で敵じゃない人間、みんな『ともだち』。それ以外に呼びようがない。違う?


「ううん、違わないと思うよ。人間もどこからどこまでの付き合いを友達と呼ぶのか、はっきり決めてるわけじゃないから。家族や恋人、主従以外の関係で、雑談したり、笑い合ったりできる相手は大体友達で合ってる」


 ミイミイ! ミイミイ。

 流石ミカ! 人間にも詳しい。


「私が人間に詳しいのは私が人間だからだよ? ねえ、聞いてる?」


 くす、とオーレンが笑う。


「魔獣に好かれる人間って、素直でおおらかな性格の人が多いんだよ。テイラーから来た二人は明るくていい子だから気に入られているんだろう。僕はすぐいじけたり泣いたり落ち込んだりするから、よく魔獣達に怒られてたんだ」


 ミイミイ…

 ミイ達は分かりやすい人間が好きなだけ。人間、分かりにくいのが多いから。あのでっかいのは分かりやすいって、ゲンブは言ってた。


「ミイによれば、オーレン様は玄武様に素直な人だと思われていたようですよ」

「えっ、本当かい?」

「裏表のない、まっすぐな人が好きってことだね、ミイ」


 ミイ!


 白リスは、エビーの頭上で一回転してみせた。




つづく

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