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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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326/579

真っ白

「ミカ、ミカ」

「…………へ?」



 しばらく真っ白になったまま歩いていたらしい。追いついたザコルに肩を揺すられて我に帰る。


「父上」


 ザコルがオーレンを睨む。


「今の話が本当だとして、どうして今」

「違うんだ、ミカさん、ミリューに頼んで山の民の里に行くつもりのようなことを言っていただろう?」

「あ、ああ……そう、ですね。シリルくんとリラの顔を見て、ついでにハギレ布でも大量に買おうかと思って」

「君、ハギレを買うために魔獣に乗っていくつもりだったのかい…?」


 がく、オーレンが軽く脱力する。



 あれ、待てよ。峠の山犬、もとい前モナ男爵の妻で山の民出身のカオラが何か気になることを言っていたような。

 そうだ、あの戦勝の宴のさなか、イーリアが古き戦友の登場だとか言って、山犬夫妻が入場してきて……


「えっと、そうだ。カオラ…叔母さん、カオル、元気でよかった、子供達も無事で…………『カオリ』は、息災…かい…………」


 はい、お陰様で。母とは夏頃会いましたが、元気にしておりました。


 そうだ。シリル達の母親であるカオルは、そう返した気がする。

 確か、山の民特有の能力である『魔力視認』を受け継いだシシは、従姉妹であるカオラと婚約していた。であれば、カオラもそれなりに濃い血筋の人間であるはずだ。その姉の名が『カオリ』……?


「…………えっ」

「ミカ、大丈夫ですか。邸に戻って休みますか?」


 ふるふる、私は首を横に振る。後続の人々はワイワイと話しながらついてきている。多分私の様子に気づいていない。今引き返しなどしたら絶対に心配させる。


「ミカさん。自分のお母さんの名前は覚えているかい?」

「え、あ、はい。堀田香織です。香水の香という時に、機織りの織という字で。私の名前は、祖母の美津と、香織から一文字ずつ取ってつけられたらしいことは知ってます。はい」


 その名付け由来も、字面を見れば明らかだというだけで、祖母などから聞いたわけではないのだが。


「じゃあ、カオリ・ホッタというところまでは合っているんだ。でも、君はお母さんのことを名前以外ほとんど記憶していない。そういうことだね?」

「…そういうことです。あ、でも叔母さんが母のことを養子のくせに恩知らずとか、色々言って…」

「養子?」

「はい、母は、七歳の時に祖父母のところに来た養子らしいんです。だからお前もうちとは誰も血はつながってないんだって、なのにうちが身元を引き受けてやるんだから感謝しなさいって、よく叔母さんが」

「ミカ、その叔母という人物は僕が消しに行ってもいい人物ですか?」


 ゴォオオ。


「ちょちょ、待っていきなり入ってきて炎上し始めないで。叔母は決して悪い人ではないんです。奨学金…学費を借金するにも、新たに部屋を借りるにも保証人や定住所というのが必要になりましてね。家に一時でも住まわせ、保証人欄に名前を書いてくれただけでも非常に感謝しているといいますか」


 シュウウ。鎮火。


「なるほど。ミカの役に立ったのならいいんです」

「ザコルは何目線なんですか…?」


 私だって、叔母が自分を身内として愛してくれたなんて思ってはいない。叔母は母とも祖母とも折り合いが悪かった。その二人に育てられた私のことなんて一つもかわいくなかったろう。それこそ未成年の間、身元を引き受けてくれただけでも感謝するべきなのだ。もちろん、受け入れることを了承してくれた彼女の夫や息子、私の従兄弟達にも。


「ミカが家に入ってくれるんですよ。むしろその叔母一家は天に感謝するべきでは?」

「一体何を言ってるんですかねこの過保護軍団団長は」


 何の話だったっけ……。

 ぱん。オーレンが軽く手を叩く。


「よし、この話は終わりにしよう。君は何も知らなかった。山の民の方からもそんな話はされていないね?」

「はい。巫女か何かに祀り上げられそうにはなっていますが、誰かの身内に似ているだとかいう話はとんと」

「巫女か、そうだったね…」



 オーレンの鑑定通り、日本にいた私の母が、実はこの世界から日本への『逆渡り人』みたいな存在だったとして。

 まず、その彼女が日本からこっちの世界に戻っている可能性はあまり高くないのではないか。イーリアからは、召喚にしろ送還にしろ、成し遂げるには莫大な魔力が要ると聞いている。それこそ術者が魔力を使い果たして命を落とすくらいに。つまり行くにも帰るにも大変、ということである。


 母が養子だというなら、母の生みの親が逆渡り人であるという可能性も残っている。母が逆渡り人二世、そして私が三世みたいな感じだ。


 山の民の里で暮らしているらしい『カオリ』の娘であるカオル、つまりシリル達の母親は、どう見ても私と同じくらいの年齢に見えた。私を十歳まで育ててからこっちの世界に召喚か還送かされて、それから産んだとしたら辻褄が…………


「…あっちとこっちの時間軸はリンクしてるけど召喚時に数年から十数年の誤差が出るってイーリア様が言ってた。あああ矛盾しない!」

「ミカ、今は考えるのをやめましょう。邸に帰ってから少しずつ整理してはどうですか。僕も付き合いましょう」

「……そうする」


 頭ポンポン。


「いい子ですね。……父上。もう一度訊きますがどうしてそんな重要な話をこんな道端で」

「ごめんって。今のだけは確認しておきたかったんだ。この子と二人きりになるチャンスってそう多くないんだよ。邸では必ず妻達に詮索されるし、僕は隠し事が上手じゃない。 今は穴熊も先に行っているし、リアやザラの息がかかった使用人も近くにいない。だから」


 はああー。溜め息。


 ザコルは後ろをチラッと伺う。

 相変わらず後続の彼らは一定の距離を取りながらワイワイと騒いでいた。いや、騒いでいてくれているのかもしれない。サゴシ、ペータ、メリーの気配もしない。多分、あっちも聴こえないところまで下がってくれているのだ。それでいて、いつでも駆けつけられる距離でこちらを見守っている。



 …つくづく、私は恵まれている。こんなに過保護にしてもらったのは、祖母が元気だった頃以来だ。



 急に、自分の親が何だっていいような気がしてきた。私は私である。ザコルも以前言っていたじゃないか。ここにいない者に忖度する必要はない、目の前の話せる距離にいる人間の事でも考えた方がまだ意義があると。けだし名言では?


 ただ、今後山の民の里に行く時は気をつけることにしよう。何か触れてはいけない秘密に触れそうな気もするしな…。ちゃんと先触れを出してから行こう。あちらに思うところがあれば避けてくれるはずだ。よしそうしよう。


「オーレン様。教えてくれてありがとうございます。また能力についても詳しい話をしてくださると嬉しいです」

「そうだね、また散歩にでも出かけながらお話しようか」

「散歩。いいですね。日本の話もいっぱいしましょう」

「…うん、ありがとう、ミカさん」


 じわ、オーレンが瞳を潤ませた気がした。

 彼とは、故郷の話ができる貴重な仲である。ここに滞在している間、たくさん話をしようと心に決めた。




つづく

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