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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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鶏をむしっている場合ではなかった

「聖女様、鶏の血抜きやなんかはこちらでやっときますから!」

「そんなこた聖女様にさせらんねえ!」

「ええー、ちょっとやってみたかったのに。本での予習はバッチリですよ」

「あんた様が何でもおできになるのは分かった、だがお客様、いや恩人様に血なんか触らせられるわけねえだろう!! お育ちがいいのに変な病気もらったらどうすんだ。慣れた人間に任せておくんなせえ」


 鍛錬に来ていた料理人の男性達はそう言って、私が仕留めた鶏を全て回収していった。


 変な病気、まあそうか。こっちの世界では、衛生管理を徹底した家畜なんてのはほぼほぼいまい。半分くらい野放しで飼っている家々から買い取っているならなおさらだ。野鳥からもらう鳥インフルエンザなどを始め、家畜といえど野生動物並みに菌やウィルスを持っている可能性もあるってことか。確かに、そんなのは客に触らせられないかもしれない。


「羽とかむしってみたかったな…」

「ミカ、気持ちは解りますが、彼らにも職務というものがありますから」


 母方の実家に動物の死骸を投げ込むイタズラをしていたらしいザコルにもたしなめられた。


「さて、じゃあ何から手をつけていこうかな。ソロバン塾を見ながら計画立てるか」


 抱えている仕事の整理が必要だ。確かに鶏をむしっている場合ではなかった。




 まずは造花作りの内職問題だ。

 勝手に始めておいて何だが、私が街に降りて何かする機会は限られるし、周りの手を借りつつさっさと体制を整えてしまわないといけない。ハギレの買取、布のカットなどの事前作業に、実際に内職する子供達への手順指導、賃金の支払い。この辺りの行程には必ず大人の監督が必要になる。お金や刃物の管理は子供だけに任せられないからだ。


「ミカ様。少しよろしいでしょうか」

「ララさん、ルルさん。どうしました?」

「私達。奥様からミカ様の造花作りを手伝うように言われてるんです。街に物件を借りたから、そこでしばらく住み込みで働いてくれないかって」

「今の住処よりもこの子爵邸にも近い一軒家を借り切ってくださったみたい。他の縫い物の仕事なんかはもう片付けてきましたから、いつでもそちらに移って仕事を始められます。何をすればいいか、教えていただけないでしょうか」


 なんということでしょう。もうザラミーアおかあさまが物件と管理人兼監督者の手配を済ませておいてくれたではありませんか。

 ララルルは普段、縫い物で生計を立てているらしいし、今回の仕事にはうってつけの人材である。


 ザラミーアはこの二組の母子達を子爵邸に住まわせたがっていたが、彼女達の方はまだ覚悟がつかずというか、子爵家の世話になりきることに遠慮や抵抗があったようだった。そこに変な女の登場である。変な女は物件を借りて変なことを始めたいと言い出した。仕事を頼みたいという理由ならば、彼女達も快く子爵邸の近くに住んでくれるかもしれない。


「ふむ、大成功ということですね」


 仕事自体は短期のものになるが、彼女達が物件が気に入るようなら、そのまま住み続けさせることも視野に入れているだろう。


「大成功?」

「いえ、こちらの話です。では、今からその辺りの話を詰めましょう。鶏むしってる場合じゃありませんでしたね」

「鶏むし…っ」

「ソロバン塾で借りてる部屋がありますから、同じ部屋か隣の部屋あたりを借りて話をしましょうか」

「ゴーシ、行くわよー」

「はぁーい!」

「リコも行くわよー、ミカ様とお話しするからー」

「やぁだ、もっとあしょぶ、ゆきがっしぇんしるのぉー!!」


 やだやだやだやだ、と雪の上をゴロゴロする二歳児。


「はあ…。申し訳ありません、先に行っていていただけますか」


 母親のルルは能面みたいな顔でそう言った。吹き出しそうになって耐える。

 ハタから見ている分には面白いが、毎日相手をしている親御さんの苦労がその能面に凝縮されている気がした。


「じゃあ、そうだなあ…。リコー! ミーカは蜂蜜牛乳作ろっかなぁー」

「あちみつにゅーにゅー!?」


 無事スイーツに釣られてくれた二歳児がバビュンとやってきた。





「あちみつにゅーにゅ!」

「リコ、はちみつぎゅうにゅうだろ」

「あちみつにゅーにゅ」

「はーちーみーつーぎゅーにゅー、だ」

「あーちーみーちゅー、にゅーにゅー?」

「なおってねえし」

「あはは、おもしろいね、僕もにゅーにゅってよぶよ、かわいいもの。リコはだいせいかい!」

「リコ、だいしぇーかい!?」

「そう、だいしぇーかい!」

「おい甘やかしすぎんなよイリヤ」

「だって、かわいいはせいぎなんだよ。マヨおばさまも言ってたもの!」


 きゅーん。


「ねえ叫んでいいですか氷姫様叫んでいいですよね氷姫様」

「気持ちは解りますが自重してください。イリヤくんが照れちゃいますから」

「ええーっ今すぐかわいいって叫びたい…!!」


 面白お姉さんはソロバン教室についてきた。


「マヨ様、いつもイリヤを可愛がってくださってありがとうございます」

「いーえ、むしろあんな天使を産んでくださってありがとうございますミリナ様! 王都にいた頃はイアン様の手前、あまり頻繁には会えませんでしたけれど、こうして毎日顔を見られるなんて幸せすぎて…! しかも天使増えちゃった、もう私は叫ぶしかない」

「廊下で叫ばないでくださいなマヨ様」


 今日の面白お姉さんは子供達の親衛隊をするらしい。

 ジーロとサンドとロットは内緒話でもあるのか、連れ立ってどこかへ行った。イタズラの打ち合わせでもするのかもしれない。カズが後ろをこっそりつけて行ったのも見た。


 私の方は、午後は焼き鳥パーティーした後、ミリナと穴熊を連れて魔獣舎に行こうと勝手に算段している。忙しくなりそうだ。




つづく

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