あなたと一緒なら
「一体何なの…」
特に意味が分からないのは最後の忍者である。
「はは、ミカ殿のご人望は高まる一方でございますね」
「そういう問題かなあ…」
「何でみんな姐さんに言いにくるんすかね」
「ホントそれ」
みんなイタズラがしたいのは分かったが、イタズラの首謀者はロットなのだからロットに言ってほしい。
会場のどこかから音楽が聴こえ始めた。楽器のできる人が呼ばれているらしい。
「せいじょさまぁー」
「今度はゴーシくんだ。ふふっ王子様ルックかっこいいね、ずっと見てられるなぁー」
「せいじょさま、おれのかおがすきなだけでしょ?」
「バレてる」
俺の顔が好きなだけでしょ。それはそれでなかなかのパワーワードだが、真実である。
「ねえねえダンスできるんでしょ、おどってみせてよ。ザコルおじさまといっしょに」
「えっ」
王子様ルックのミニザコルの言葉に、大人ザコルがぴゃっとなった。かわ…。
「タイタさんはミリナさまとおどって!」
「ゴーシ様、俺がお誘い申し上げては失礼に当たりませんか」
「ほかにおどれるオトコがいないからいーんだって! つか、おれがみたいんだ、じょーずだってきいたし!」
「そーいうことよ、早く来なさいよアンタ達っ」
ぬん、ゴーシの後ろからマッチョオネエ、もといロットが現れた。
「出たよ、イタズラ首謀者」
「やぁだ、ちゃんと黙ってなさいよエビー」
「いでっ」
ロットがエビーを軽くはたく。エビーのダメージは軽くなさそうだが。
「ロット様、こっちはちゃんと黙ってましたけどバレまくってますよ。さっきから続々と参加希望者が」
「まあまあいいじゃない。それよりこの子ザコルにそっくりね!? かわいいわ!! ザコル、アンタこんなにかわいかったかしら!?」
「ザハリの子ですよ…。それにゴーシはララに似ているからかわいいのです」
「まー、表情豊かで素直なとこは母親似よね。愛嬌あるっていうか」
「もーっ、おれのことはいーの! はやくおどって!」
ぐいぐい。ちょっと照れたらしいゴーシはザコルやタイタの背を押し始めた。
「ゴーシはどうしてそんなにダンスが見たいんですか」
「できたらモテそーだから!」
「なるほど」
「まー、女に興味があるなんて将来有望ね。剣も教えてやるから明日早起きしなさいよアンタ」
「え、まじ? やったあ! ぜったいおきます!! よろしくおねがいします、きしだんちょーさま!!」
ぺこり、にこーっ。
「…っ、何この子やっぱかわいいわ!! うちの双子とは大違いよ!!」
「そう言っているでしょう、このゴーシはララの子だからかわいいのです」
なんか屈強な人達がかわいいかわいい連呼してるな…。
「ほら、イリヤ。いっしょに踊りましょう。母様、これでも少しは踊れるのよ」
「ふぇっ、はずかしいから僕はいいよぅ」
「イリヤ様。では俺がミリナ様をお誘い申し上げてよろしいでしょうか」
『ふぇっ!?』
揉めていたイリヤとミリナは同時に飛び上がった。
「おれがよんできた! ダンスうまいってきいたから!」
「あ、ああ、ゴーシさ…ゴーシが。そういうことなのね」
ちょっとドキドキしてしまったらしく、ミリナは気持ちを落ち着けるように胸を押さえた。
「じゃあ、お願いしようかしらタイタさん」
「ではお手を」
「だめっ」
タイタがミリナに手を差し出そうとすると、イリヤがシュバッと二人の間に割り込んだ。
「だめっ、母さまは僕とおどるの!!」
「あら、あんなに嫌がっていたのに」
「だめなの!! タイタはカッコいいからだめなの!!」
タイタとミリナは互いに顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「あらあら、母様の一番はいつだってイリヤなのに」
「どうやら、お二人の仲を引き裂くことは叶わない様子。残念ですが、俺は身を引かせていただきましょう」
「あっ、ごめんね、タイタ…」
しゅんとする少年の前に、カッコいい騎士がひざまずく。
「いいえ、謝られる必要はございません。イリヤ様の大事なお方をお守りしようとするお心意気、このタイタ感服いたしました。それに、カッコいいとお褒めいただいたこと、とても嬉しゅうございましたよ」
「…っ、僕、タイタがだいすきだよ! カッコよくて、やさしくって」
「俺もお優しいイリヤ様が大好きでございますとも」
ぎゅう、いーこいーこ。
どこかから控えめな拍手が聴こえると思ったら、私達の背後で同志村女子ーズとメイド達と、ついでにロットとゴーシが集まって小さく手を叩いていた。
「見たわねゴーシ。あれよあれ。あれができたら一発でモッテモテよ」
「うん、やっぱタイタさんはすげーや!」
「流石はタイ様。踊っても踊らなくても素敵だわ…」
「テイラーにはあんなに素晴らしい紳士がわんさかいるのかしら…」
紳士がわんさか…。
「まさか。タイ様が特別なだけですよ! あの方王都生まれですし!」
「おいおいテイラー生まれの俺への当てつけかあ? ピッタちゃんよう」
「は? 違いますけど。自意識過剰じゃないですかチャラ男様」
「言ったなコラ」
すん。エビーの目が据わった。
「そのドレス、似合ってんぜ」
「ふぇっ」
突然の褒めにピッタが飛び上がる。
「や、やめてくださいよこのチャラ男っ!!」
「お、この程度で動揺してんのか? モナの工作員殿も大したことねーなあ」
ぶち。
「言いやがりましたね…。いいでしょう、こっちは先代からみっちり仕込まれてるんです。わ・た・し・のリードで踊って差し上げましょうか、テイラーの騎士様」
「おお、望むとこだぜ。俺の華麗なステップ見せてやろーじゃねーの!」
ヒューッ、いいぞーっ、様子を見ていた周りがやんやし始めた。
エビーは確か社交ダンスなんか踊れなかったと思うのだが、もしやあの謎踊りで応戦するつもりだろうか。
「踊りましょうか」
私の目の前にも手が差し出され、一瞬ぱちくりとしてしまった。
「…踊らないんですか」
「踊ります!」
引こうとした手を咄嗟に掴む。
「ごめんなさい。ザコルから誘ってくれるのが珍しくてびっくりしちゃいました」
「しゅ、主賓のあなたが踊らないと皆が踊り始められませんから!」
ランプの光の中では判りづらいが、きっと赤面しているのだろう。彼は私の手を掴んだまま、プイとそっぽを向いた。
ザコルの手を取り、音楽に合わせてステップを踏む。
片手を離し、くるりと回ればフリルたっぷりのスカートが花開く。
彼の胸に引き戻されて見上げれば、その榛と焦茶のグラデーションの瞳に私が映る。
にこ、と笑えば、ほのかな微笑みが返ってくる。
あなたと一緒なら舞踏会も悪くないですね、と呟く彼に、私は幸せすぎて泣きたくなった。
つづく




