実は変人ではないのだろうか…?
うぉう。
「わ、穴熊隊長。今までどこにいたんですか」
ボソボソ…。
「えっ、朝イチで? もー、仕事が早いですねえ」
シシの身柄は既に確保されたらしい。朝イチで馬車に詰め込まれ、ドナドナされることが決定したとの報告を受けた。
「おい氷姫殿」
「あ、サンド様」
「次から次へと…」
「何か文句があるかザコル」
「いえ」
ふっ、後ろにいたエビーが小さく吹き、その隣のタイタも苦笑する。今夜の彼らは『お飾り』に徹すると言っていた。
「氷姫殿に言っておきたいことがあってな。実は、俺は変人なのだ」
「はあ、聞き及んでおります」
「だが貴殿、思ったよりも変人ぽくないな、などと思っているだろう」
「えっと…」
何の言いがかりだろうか。
「思っているだろう」
「そんなことは…」
そんなことは思ってない。正直、妻であるマヨの方がずっと変だなんて思ってない。
サンドは感性こそユニークなものを持っているようだが、人付き合いもそつなくこなしていそうというか、何よりクソ上司…じゃなかった、ハラスメント気質な上司のもとで何年も王宮勤めができるだけの器を持っている。ただの変人にできる所業じゃないとか全然思ってない。
「思っているだろう」
「ええっと、その髪型似合ってますね?」
私は、ザコルがセットしたカッコいい編み込みヘアの方に話題を移すことにした。
「ああ。鏡で見たが俺も気に入っている。マヨに散髪を任せると必ずあの鉢をひっくり返したような髪型にされるのでな…。面白いと思っていたが、流石に飽きてきたところだ」
この人、マヨによってあのおかっぱ頭にされていたのか…。やっぱりマヨの方が変だな。
「一体何の話をしにきたのですか、サンド兄様」
「いや。家族の中で散々変人扱いされてきた俺だが、久しぶりに帰ってきて思うのだ。正直、俺以外の家族の方がずっと変わっているのではと」
「はあ」
「女見知りが過ぎる父に、逆に女を侍らせすぎて王都を出禁になった母、泥団子のような風体で兄弟の婚儀に臨む兄に、一人称が『あたし』である弟、真面目だと思っていた年子の弟もよく考えてみたらトンネル狂だった。極めつけはお前だ。お前に関する面白いエピソードは語るに語り尽くせない。これは王都にいる時から思っていたことだ」
「はあ」
「俺は、実は変人ではないのだろうか…?」
「はあ、やっと気づいたのですか? 正直、マヨ義姉上の方がよほど変わっていると思います」
がーん。サンドの表情が絶望に染まる。
「くっ、聖女に関わると己のアイデンティティを覆される、という噂はまことであったか…!!」
何だその噂は。私が人格改造を行なっているような言いがかりはよしてほしい。
「いえ、兄様は以前から」
「やめろ、俺の積み上げてきたものを揺るがそうとするな。俺は変人でいたいんだ!!」
「まあ、僕も不審者でいたいので気持ちは解りますが」
私も変態お姉さんでいたいので気持ちは解る。
「うーん、サンド様が変わった方だというのは確かではないでしょうか」
「本当か氷姫殿!!」
ぱあ、サンドは顔を輝かせた。
「ええ、変人でありたいと思っていること自体が変ですし、あの野生でいたいというジーロ様でさえ、サンド様ほど変人のつもりはないとおっしゃってましたし」
「ジロ兄がか!! それは説得力があるな!!」
「イリヤくんも、サンド様はいつも変なお面をかぶって遊びにきてくれるんだって、楽しそうに話してましたよ」
「そうかそうか!! 子供はいつでも正直だものな!!」
変なのはサンド本人ではなくお面の方では、などという野暮な一言は添えない。
「ああよかった。俺はやはり変でいい、今など無職無官、まさに変だ」
うんうん。安心安心。
「そういうわけで、俺もお前らの『イタズラ』に加担させていただく。ではな」
「えっ、それはどういう」
シュバ。サンドは人波に消えた。
「せーんぱい」
ひょこ。サカシータ騎士団の団服を着たボンキュッボンなギャルが現れた。
「あれっ、カズ、ドレスは?」
「肩凝ったから脱ぎましたぁ」
相変わらずの自由さである。そういえば、椅子席に彼女の姿はなかった気がする。
「先輩、よくそんな鎧みたいな服着てられますねぇ。乙女ゲーの主人公なんですかぁ」
「違う、と思うけど、私はテイラー邸でアメリアからスパルタ教育を受けていたおかげで、ちょっぴりドレス慣れしているのだよ」
「ふーん。で、ウチも『イタズラ』参加するんでぇ、今度ロット様がコソコソ相談に来たら呼んでくださーい」
「えっ、バレ」
シュバ。ギャルは人波にきえた。
「氷姫様」
「マヨさ」
「私も暇だから参加しまーす」
「えっ」
シュバ。マヨは私の反応さえ待たずに消えた。
「姫様ー」
「何サゴちゃん」
「ちょっと話しかけてみただけでーす」
「は?」
シュバ。忍者は跳び上がって消えた。
つづく




