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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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うちのピはセットのプロだからね

「置いてけぼりにしてごめんよ、ミカさん!」


 申し訳なさそうに両手をパンッと合わせたオーレンに、私はカーテシーで一礼した。


「お招きありがとうございますオーレン様。あの、なんで私だけ盛装なんですか? みんなほぼ普段着じゃないですか」

「すぐに分かるよ、もう少しだけ待ってくれるかい?」

「はい、それはもちろん…」

「俺も盛装だぞホッタ殿」

「ジーロ様はお風呂上がりにそれしか着るものがなかったんじゃないですか」

「はは、バレたか」


 ジーロのおちゃらけに、周りも弛緩したように笑う。

 見たところ、ここに集まっているのは邸に勤めている使用人や騎士、その家族とみられる人ばかりだ。


「堀田せんぱぁーい、見て見てー」


 わっさわっさわっさ。

 ボリュームのあるスカートをさばきながら、人波をかき分けてこちらへやってくる人がある。


「あっ、カズ、その格好!」

「ウチもドレス着せてもらったんですよぉー」


 元後輩のドレスはピンクのフリフリゴテゴテ、リボンもいっぱい。まるで、いにしえの乙女ゲームから抜け出してきたかのようなデザインだった。


「えー、超かわいいじゃん。似合ってるねー」

「ちょ、心こもってなくないですかー?」

「そんなことないよ似合ってる似合ってる。乙女ゲーの主人公みたい」

「あは、それ自分でも思いましたぁ、これからエンディングかよって。先輩の方は髪とかガチ夜会巻きでウケますね」

「うちのピはセットのプロだからね」

「ザコル様ぁ、ウチの髪もやってくださいよぉ。先輩とオソロにしたぁーい」

「はい。ミカがいいなら」


 ザコルは私をチラリと伺う。私はもちろん、と頷く。

 貴重な盛装仲間だ、ぜひオソロの夜会巻きにしてやってほしい。


「ザラミーア様。素敵なご衣装をお貸しくださり、ありがとうございます」

「ありがとーございまぁーす」


 二人で一礼した私達に、ザラミーアはにっこりと笑顔になった。


「着ていただけて私も嬉しいわ。古い意匠のドレスですけれど、可憐なあなた達が着るとまるでお人形さんみたいね、とってもかわいいわ」

「お褒めに預かり光栄です。サイズもぴったりで…あ、もしかして直してくださいましたか」


 ザラミーアは私達よりも少しだけ背が高い。それに、私とカズでは体型に差がある。主に胸部が。


「ええ、メイド達がね。でも少しスカート丈を詰めたくらいよ。上半身は紐で調整できるもの」

「なるほど」


 そういえばそうだ。胸は紐で調節できるとザコルも言っていた。なぜザコルがそんなことを言ったかといえば、彼はアメリアの指示で、『ドレスが着られる』体型の保持を条件に私の鍛錬メニューを管理しているからである。


「ねえミカ。これ、引くほどラブリーでしょ。母様がザラ母様に贈ったやつよ、貧乏子爵家のくせにこんなのいくらでもあるんだから!」


 どこか嬉しそうに話しかけてくるのはロットだ。


「生地は山の民から買い付けているし、仕立ては領内だ。無駄遣いではあるまい。大体、ザラミーアが美しいのがいかんのだ。私と違ってフリルやリボンが実によく似合う」

「そこは母様に同意よ。こんなのザラ母様にしか着こなせないと思ってたけど、カズもミカも本当によく似合ってるわねえ、かわいいわあ」

「ああ、この光景を見られただけで寿命が五十年は延びた気分だ!」

「んもう、年寄りくさいこと言わないでよ母様!」


 ぱしん、ロットがイーリアを軽くはたく。楽しそうだ。


 正直なところ、ザ・日本人の私達の顔かたちにこの中世西洋感満載なドレスが心底似合っているかというと微妙な気もするのだが、似合うと言ってくれているので素直に喜ぶことにする。


「ザコルよ、俺の髪も編んでくれんか。イリヤの手を借りられんかったのでな、適当に結んだだけなのだ」

「はい。では並んでくださいジーロ兄様。タイタ、すみませんが椅子をもう一脚持ってきてくれませんか」

「御意に」


 ザコルは、椅子に座らせたカズの髪を梳いて手早く編み上げる。あっという間に豪華な夜会巻きになった。


「鏡どうぞギャル様」

「ん、ありがとエビ君。わ、やっば、盛りまくりじゃん! イソスタ上げたいってか、動画撮りたかったぁ」


 手鏡をのぞき込んだカズがはしゃぐ。

 ザコルはその隣に座ったジーロの髪も梳き始めた。


「お前は手つきが優しいなあ」

「ジーロ兄様の髪は、野晒しにしすぎたせいで傷んでいますから。あまり強く梳いては切れてしまいます」


 ジーロの肩に大きなおさげを乗せ、ザコルはその隣に視線を移した。


「…………。どうして母上達まで並んでいるんですか」

「いいじゃないの、私の髪もミカと同じにしてちょうだいな、コリー」

「私の髪も適当に編め」

「はあ」


 仕方ない、という感じでザコルは母親達の髪にも櫛を入れた。


「へへっ、マジで床屋開く気すか兄貴」

「勘弁してください」


 そう言いつつも彼の手つきはなめらかだ。ザラミーアは私と同じ夜会巻きに、そしイーリアの方は大きなお団子に三つ編みを巻きつけたようなアップスタイルになった。女性らしくも凛々しい、女帝たる彼女に相応しい髪型である。


「いいなあ…。父様も髪が長かったら並んだのに」

「あたしも切らせるんじゃなかったわあ」


 英雄アカイシの番犬とその後継に指名された騎士団長(謹慎中)が揃ってぼやいている。


「だんちょーの髪はウチしか触っちゃダメだかんね?」

「はいはい、分かったわよ。伸びても並ばないわ。っていうか、だったらアンタの髪もあたしに整えさせなさいよっ!!」

「やだ。だんちょーこういうの下手そーだし。ね、似合ってる?」

「似合ってるに決まってるじゃない。さ、流石はあたしのカズねっ!」


 んふふ、とギャルは嬉しそうに笑った。


「俺も並んでやるぞザコル!」

「サンド兄様まで」


 サンドのおかっぱ頭が何か非常にカッコいい編み込みスタイルになった頃、道場の入り口がにわかに騒がしくなった。




つづく

ザコルに髪編ませてたら1話終わっちゃった

エンディングではないです。

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