お前の隠し子か?
スッ、ザコルとイーリアの間に手が差し込まれる。
「やめんか。息子の相手にまで手を出そうとするんじゃない。シュウのも取ろうとしたらしいではないか。全く、いい加減にしておけよ」
間に入った人の顔を見たイーリアは、ぱちくりと瞳をまたたかせた。
「…誰だ、コイツは。そこそこの歳のようだが……おいオーレン。お前の隠し子か?」
「はああ!?」
いきなり疑惑を吹っ掛けられたオーレンは血相を変えた。
「そんなわけないだろう!? 君が産んだ息子だよ!! ほら、この男前、君にそっくりじゃないか!」
「はあ? 私に似ている? 冗談じゃない。コイツはお前に似ているんだ。見ろ、この頑強な岩を連想させる頬と顎の張り。私だってなれるものならこの顔になりたかった!」
「冗談じゃないはこっちのセリフだ! このキラッキラの金髪、綺麗な二重にスッと通った鼻筋、どこもかしこも君にそっくりだ! 僕だってこんな顔に産まれたかったさ!!」
「お、おい」
イーリアとオーレンはジーロの顔をつかみ、どこのパーツがいいだのと指差しで力説し始めた。
実の両親に顔面を褒めちぎられた三十四歳は赤面した。
「ああもうやめろ! 落ち着け!! 母上よ、俺だ、ジーロだ。あなたが二番目に産んだ子供だ、忘れたのか?」
「はあ? ジーロだと? アイツは家に寄り付かず山と同化していたはずだ。それに、子供の頃はこんなにオーレンと似ていなかった」
「ああ、そうだったかもな。この歳になって徐々に似てきたのだろう。そういうこともある」
そういうこともあるのか。歳を取ってから親に似始めるなんてことが。
「あなた方はお互いのお顔が大好きですものねえ」
ほほ、とザラミーアは笑いながら、二人からジーロを優しく引きはがす。
「ジーロさんはオーレンとリア様のいいところを取り合わせたようなお顔よ。私もこのお顔が大好き」
「おお、熱烈だなザラミーア。俺もザラミーアの全てが好きだぞ。今日は一緒に眠ろうか」
む、オーレンとイーリアの眉間に皺が寄る。
「ちょっとジーロ」
「貴様、私のザラから離れろ」
ゴゴゴゴゴ…。
「フン、母上のザラは俺のザラだ」
「意味の分からんことを言うな!」
「今しがた自分で言ったのだろうが…」
がく、ジーロが脱力したようになる。今夜の彼は、かつてザラミーアが用意した正装に身を包んでいる。相変わらず、兄弟の中では一人だけまともな貴族のように見える。初登場時の仙人ルックからはとても想像がつかない。
どよどよ。当主一族がいきなり修羅場を演じているせいで会場はどよめきに包まれていた。
「久しぶりに会うが相変わらずだなあ、母上は」
「ホントホント。到着早々やらかしすぎなんじゃないの」
事態を収拾させる気があるのかないのか、三男と六男が輪に入ってきた。
サンドは元・職服なのか、魔法陣技師っぽいローブを身にまとっている。ロットは特に何も考えていないのか、ザッシュに扮した時に着たサカシータ騎士団の制服の下だけを履いて、上は何でもない綿のシャツ一枚だ。相変わらず鎧以外のことには無頓着なオネエである。
「ロット、お前にだけはやらかしただのと言われる筋合いはない。大体、ミカが潤んだ目で私を見るのがいかんのだ。彼女に愛を乞われてあらがえる者がこの世にいるだろうか、いや、いるはずもない!」
反語だ。
「本当に何を言っちゃってんのかしらうちの母親は…」
「ああ、流石の俺も同意するしかない」
三男と六男は呆れすぎて言葉を失った。
「義母上、ミカは純粋に義母上の無事を喜んで涙してくれたんです。なんでもかんでも色恋に結びつけるなど、彼女に失礼だとは思わないんですか!」
「フン、相変わらずミカが絡むと饒舌になるな、ザコル」
ニヤリ。
「…っ、うるさいです!! 大体義母上は」
「ほらほら、ザコルも相手にするんじゃない」
「ジーロ兄様、ですが!」
「ああ解っているとも。悪い母上は兄様が叱っておいてやるからな、このザラミーアと一緒に」
ぎく。イーリアがほんの少しだけ肩を上げた。
「まあジーロさん、一緒に叱ってくださるの」
「もちろんだ。これからはあなたにばかり背負わせず、しっかりと寄り添うことを誓おう。春以降も邸に帰る時間は作っていかねばな」
「ツルギ山一筋のあなたにしては珍しいわね、どういう風の吹き回しかしら」
「俺も反省したのだ。あなたに負担をかけたこともそうだが、ツルギ山の警備も体制を見直す時が来ているのだろう。今までのように俺の存在ありきでは、何かあった時に全てを護りきれぬ可能性もある。それではただの独りよがりというものだ。ロットも戦う以外の仕事に向き合うことにしたようだしな、兄として手本を見せてやらねばなるまい」
「ご立派よ、ジーロさん」
イチャイチャイチャイチャ。
「〜〜っ、いい加減にザラから離れんかこの愚息が!!」
「そうだよ僕だってザラに褒めてもらいたいよずるいよジーロ!!」
「ザラミーアがこの俺に沿うてくれているのだ母上。褒められたくばもっと愛を贈れ父上。一方的に愛を乞うているだけでは手に入らんものもあるぞ」
はーっはっはっは!
ぐぬぬぬぬぬぬ…!
「で、これは一体何のパーティなんですかねえ…」
一人だけフリフリのドレスを着せられた私の一言に、愉快な一家は揃って動きを止めた。
つづく




