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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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あなたの優秀な弟を褒めてはくれませんか

「つぎ、サゴシのばんだよ!」

「うーん、じゃあ、これをこう」

「あーっ、まってまって」


 いつの間にか、サゴシとイリヤはボードゲームで遊んでいた。

 サゴシはイリヤの『待った』を快く聞いてやりながら、私の方を見てにやりと笑った。


「姫様ー、テイラー勢はミリナ様に肩入れするってことでいいんですよね? そんで将来的にサカシータの内政にガッツリ干渉していく予定みたいな。やー悪いお人だなあー姫様はー」

「サゴちゃんてば滅多なこと言わないでくれる。下僕の分際でミリナ様を利用しようだなんて魔獣達に知られたら大目玉だよ。安心してくださいねミリナ様。私、敬愛するお姉様に相応しいポストが用意できればそれだけで満足なので」


 カッ、ミリナはエメラルド色の瞳を見開いた。


「ミカ様はいい加減に損得という概念を持ってくださいませ! サゴシさんの言う通りであった方がいっそ安心いたします!!」

「やだなー、私だって損得勘定くらいしますよ」

「姐さんの場合、その損得勘定の中に自分が一切入ってねーのが問題だけどな…」

「エビーさんの言う通りよ! あなた様自身の得はどこにあるというの!?」

「ええー、得だらけなのに…」


 私としては滞在中ずっとお姉様のしもべごっこができるだけでかなりのご褒美になるのだが、どうしてそれが伝わらないんだろう。


「ミカに得をさせたいのであればぜひ当主を引き受けてください姉上」

「ザコル様まで本気で言っていらっしゃるの!? 私、女ですし、元は外の人間なのですよ!?」

「仕方ありません。内部にどうかしている人間しかいない以上、外部からまともな方をお迎えするしかないのです。それから、我が領は実質女性が治めているようなものです。女帝の後継を務められるとしたらもはや姉上を置いて他にありません」

「マヨ様が、マヨ様がいらっしゃいます…!!」

「マヨ義姉上はミリナ姉上の一派に入りたいと言っています」

「あああああああ」


 ミリナが乱心した。


「ミリナ様。ご一服なさってはいかがでしょう。今、新しい紅茶をお淹れいたします」

「タイタさん、私もお手伝いするわ…!」


 ついにミリナもセーフティゾーンの価値を見出した。SAN値を削られたらセーフティゾーン。大事なことなので覚えておいた方がいい。


 ふう。熱い紅茶をすすったミリナは、いくばくか落ち着きを取り戻した。


「…ゆっくり、そう、冷静になるのよ私、冷静になって考えましょう。冷静に、冷静に、冷静ににれいせいにれいせいに…………って、一体どういうこと!? どうして私が当主候補という話になるの!? 冗談でしょう!?」


 そしてまたすぐに乱心した。


「この里を守ると堂々とおっしゃってたじゃないですか。あれはもう実質当主宣言ですよね」

「違いますッ! あれはただ、畏れ多くも番犬たる皆様の末席に加えていただくことを目標に掲げたつもりで…!」

「末席などとご冗談を。この里は既にミリナ姉上の支配下です。その気になれば国を更地にできるだけの力を手にしたお方の上座になど、誰も座れません」

「ザコル様! あなたも『最終兵器』のお一人でしょう! その気になれば国を更地にできるのはあなたの方ではないの!! コマちゃんだってそう言っていたわ!」

「僕は現在テイラー伯セオドア様の犬であり、そのセオドア様のご命令によりミカの指示下に入っています。そのミカがあなたの一派を築くというのなら僕もそれに従うまでです。ああそうだ、ジーロ兄様とロット兄様は懐柔しておきました。姉上の治世を心待ちにしているはずです。どうですか。あなたの優秀な弟を褒めてはくれませんか、姉上」


 ぱたぱた。ザコルに揺れる尻尾の幻影が見える。かわいい。


「うっ、その目を、その目をやめてくださいな…! あなたこそこの領を実質支配しているようなものでしょう、シータイやカリューの方々はもちろん、お兄様達だってみんなあなたの味方、富のテイラー伯爵様の後ろ盾に加え、第一王子殿下やカリー公爵様にも伝手をお持ちだわ。実力だけでなく、政治的な面でもあなた以上にトップが相応しい方なんていないはずよ!!」

「でも僕は当主なんかしたくありません」

「それが本音ね!? だからってどうして私を推すような真似をなさるのよ!!」

「僕では周りを支配しすぎてしまいます。どうやら、そういう能力者であるようなので」

「えっ」


 ミリナが驚いて固まる。


「ミカが魔獣から聞いて、最近知ったのです。元々感情の起伏が少ないタチで、人との関わりも避けていたせいか今まで気付けませんでした。ミカの側にいれば中和してもらえることが判っていますが、潜在的にはかなり強い力を秘めているようなのです。トップには相応しくない、というか据えるのは危険です。ほら、どうかしているでしょう?」


 ぐう、ミリナが何も言えなくなった。


「ジーロ兄様はツルギ山とそこに根付く文化を守るのに命をかけていて、とてもではないが領全体を任されることはできないと言っています。ロット兄様に任せるのだけは僕も不安です。サンド兄様は……正直よく分かりませんが」


 カッ、ミリナはエメラルド色の瞳を見開いた。


「そ、そうよサンド様よ! サンド様だって魔獣達に慕われているわ! 世話しかできない私と違って召喚もできるし、お優しくて人としての器も大きいわ! 絶対に私なんかより当主に相応しいはず! いいですか皆さん! 私はサンド様を当主候補に推します! 街からお戻りになったら早速お話しさせていただきますから!」


 おおー…。パチパチパチ…。

 盛り上がっているところに水を差すのも何かと思い、私達は曖昧な拍手を彼女に贈った。




つづく

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