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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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恩返しの正解

「そう緊張なさらなくて大丈夫ですよ、ミリナ様。ミイは別に、難しいことや無理難題を言っていたわけではないんです。ただ、自分達を使って何かしろと言われていました。ミリナ様の手柄を増やすために、って」



「私の手柄を、増やすため…? あの子が確かにそう言ったのですか?」

「はい。確かに」


 手柄…? ミリナはその言葉を何度も反芻し、首をひねった。


「その場で、それはミリナ様のご意向なのかとも確認しました。そしたら、ママは過保護、だから伝えなくていいと…」

「過保護ですって? あの子達の方がよほど私に過保護よ! 私に手柄だなんて、しかも私に内緒で…!」

「まあまあ、怒らないであげてくださいよ。ミリューから指示を受けていたそうです。不在の間、他の人間にミリナ様の素晴らしさを知らしめておくようにって」


 しかし一つ問題があった。

 他ならぬミリナ自身には他の人間を支配したり優位に立ちたいという欲がさらさらなく、待てど待てども自己アピールの一つさえする様子がない。魔獣達が彼女の代わりに威嚇してみせても、落ち着きなさい、おやめなさいと注意するだけ。他の人間に力を示すどころかへりくだってばかりいる。


 なので、新しく加わった下僕仲間(私)に水面下で動くよう頼みにきたものの、そんな新入り下僕にもミリナの意向に反することはできないと断られてしまった。


「私はとりあえず、ミリナ様のご意向を確認してからじゃないと勝手なことはできないよって断りました。ミリナ様を交えての話なら聞くよ、と」


 だが、ミイは『ママ、他の人間、下僕って言っただけで怒る』といじけていた。私やザコルがミリナの意識改革をしようと言葉を尽くしてもまるで成果はなかった。ミイが私を通訳にして意見を言ったところで、愛しのママに叱られるだけとあっては完全に手詰まりだ。


「ミカ様、大変ご迷惑をおかけいたしました。私、世話係のつもりでいたけれど、あの子達の考えることをちっとも解っていなかったのね…。でも、人様を下僕だなんてどうしても言えないわ。一体、どうするのが正解だったのかしら…」

「母さま…」


 魔獣達とのすれ違いが続き、落ち込む母をイリヤが気遣う。


「ミリナ様が間違っていたわけじゃないですよ。魔獣達の方も、恩返しの正解がやっと解ったところだと思います」

「恩返しの、正解?」


「我らが女王は『この里を守りたい』と宣言なさいました。女王は人を支配するよりも慈しむことを心から望んでいる、彼らもやっとそう理解できたんです。なのでこれからは『共に守る』ことに全力を注いでくれると思いますよ。それが、女王への恩返しになるのなら」


「………………」


 魔獣達は一貫して世話になったミリナへの奉公を模索している。彼らの思い描くミリナ王国、いや『ミリナ帝国』とは多少方向性が違ったとしても、ミリナの心からの願いであれば必ず聞き届けてくれるはずだ。



「ミリナ様。話は変わりますが、私が穴熊さん達の秘密を知らされた理由、ご存知ですか」

「…っ、いいえ。穴熊さん達がミカ様に明かしたがったのだとは聞きましたが」


 ミリナは目元を手元のナフキンで軽く押さえながら返事をした。


「実はですね、ザッシュお兄様のたくらみだったんです」

「ザッシュ様の?」

「シュウおじさまのたくらみ?」


 ミリナとその隣のイリヤも首を傾げる。


「そうなんです。彼が、アメリアと私を甘やかすために仕組んだことなんですよ」

「アメリア様とミカ様を甘やかすためですって? 穴熊さん達の望みを聞き届けるためでなく?」

「ええ、私達を甘やかすためです。高尚な理由は特にありません。穴熊さん達はともかく、ザッシュお兄様に関してはほんと、かわいいアメリアに寂しい思いをさせたくない、以上のことなんて考えてません。これは絶対です」


 ミリナはザコルの方に視線を移した。


「方便ではありません。ミカの言う通りです。シュウ兄様が本気で悪さをした結果なのです。我が兄ながら実にかわいらしい『悪さ』だとは思いませんか」

「かわいらしい!? 穴熊さん達の能力は、門外不出の機密だったはずでは…!? それを、まさか女性のために…っ」


 大真面目で常識人な女王は血相を変えた。


「ええ、お兄様にも困ったものですよね。私も、明かされた時は何で明かしたのかって穴熊さん達を問い詰めちゃいました。でも、私には翻訳能力があるから、彼らの能力を最大限に活かせるだろうって言うんです。あと、私が大人しくしているわけない、私を行かすよりマシだから私の代わりに外に行って手柄を立ててくる、手駒だから使え、信じている、オモシレー女だって、たたみかけるように言うんですよ。一体何なんですかね、オモシレー女って!」


 ぶふぁっ、黙っていたエビーが吹き出した。

 反対にミリナは気を落ち着けるようにコホンと咳払いする。


「穴熊さん達は、ミカ様と交流なさるようになってから随分と人前に出られるようになったと聞いております。ミカ様は穴熊さん達のファンを自称なさっているそうですね。そうした純粋な気持ちが彼らの心をほぐしたのではないかしら。土木工事や建築に関する話ができる婦女子も珍しいと、ザッシュ様も嬉しそうにおっしゃっていましたもの」


 そういうミリナこそ、危険な飛行訓練にさえ付き合ってくれる貴重な婦女子である。そんな献身が魔獣達の心をほぐしたと思うのだが、自分を客観視するって難しいんだな。


「そうですねえ、穴熊さん達は、私が彼らのありのままを尊重してくれたから、私になら話せると考えてくれたようです。まあ、そんなわけで、私はザッシュお兄様のたくらみはともかく、穴熊さん達の決意を無駄にしないために一つ、作戦を考えることにしました」


「作戦ですか。あの能力を使って?」


「はい。じゃないと、本当にアメリアと私の我が儘のためだけに貴重な能力を利用しているみたいな構図になりますので。それはザッシュお兄様だけでなく、テイラー勢としても外聞が非常によろしくありません」


「まあ。ふふっ、責任重大ですわね」


「ええそうなのです。で、それを知ったミイから、ミカは穴熊を使って何かするんだろう、ミイ達も使えと言われた次第なのです」


 ふむ、とザコルが頷く。


「なるほど。彼らはシュウ兄様に対抗しているわけですか」

「そうでしょうね、穴熊は彼の配下ですから」

「一体どういうことでしょう」


 ミリナは再び首を傾げた。


「他の当主候補に手柄を独り占めさせたくないのですよ。だから一枚噛ませろと言いにきたわけです」

「当主候補…?」


 ザコルの説明に、ミリナはさらに首をひねった。


「彼ら結構政治に長けてるとこあるんですよねえ。魔獣の中にも血統や身分による序列があるっぽいですし、単純な実力主義というわけでもないんだな、と」

「へー、意外すね。拳で語るってイメージだったのに」

「ミイには魔界の森の賢者っていう称号があるらしいよ。確かに物知りだもんな、って納得しちゃった」

「え、めちゃ大物ってことすか。やべー、俺ら賢者とダチらしーすよタイさん」

「はは、光栄なことだな」


 賢者とマブダチな騎士二人が和やかに笑う。


「あ、あのっ、当主候補って何のことでしょう、私、別にあのっ」

「ご心配要りませんよ。私達、ミリナ様一派ですから。手柄が偏って見えることのないよう、しっかり立ち回らせていただきます」

「へへっ、もう既にコード・エムとか言ってド派手にブチかましてんじゃねーすか」

「あれだけの大舞台を用意してみせられたのです。ミリュー殿も一安心なさったことでしょう。ミイ殿が彼女に叱られずに済むといいのですが」

「姉上、マヨ義姉上もミリナ姉上の一派に入りたいそうです。どうしますか。女帝のスパイである可能性は捨てきれませんので、ここは慎重になった方が」


「わ…っ、私の一派って一体何なのですか!?」


 頭を抱えたミリナが叫んだ。




つづく

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