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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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すっかり利口に躾けられやがって!

 では用意があるので、とジーロも退室していくと、サンドが入れ替わりのように私の前に来た。


「氷姫殿。俺とマヨは午後、中央の街に出かけるぞ!」

「? はい。いってらっしゃいませ?」


 なんで私に宣言するんだろう、と思いつつ曖昧に頷く。


「くくっ。不思議そうな顔だな。俺もなぜかは知らんが、うちの兄弟は氷姫殿に予定を報告する義務があるようなのでな。従ったまでだ」

「そんな義務はないんですが?」


 クスクス、ミリナや執務メイド達が笑っている。マヨもぴょこっと私の前に顔を出した。


「氷姫様、何か欲しいものはありませんか? 私達、街には詳しいですよ!」

「欲しいものですか、今は特に」

「そう遠慮するな氷姫殿。菓子や林檎でもいいぞ」

「それ、喜ぶのザコル様じゃないの」


 ふふっ、ピッタ達も吹き出した。


「ありがとうございますサンド様。でも、お菓子や林檎はシータイでたくさん持たされましたので」


 私の寝室の一角には、たくさんというか、山のように積まれたお土産類があった。


 生林檎はもちろん、ポレック爺さんの干し林檎、元ザハリファンからもらった砂糖菓子、ピッタ達やシータイ町民達からもらったクッキーや携帯食糧、穴熊達から追加でもらった干し肉、林檎以外のドライフルーツ類、チーズ、ワイン、などなど。もはやこの冬の間に食べ切れるかどうかという量である。


「はっ、そうだ、そうだった…!」

「サンド様?」


 私は急に口元を覆って取り乱すフリをする人を見上げる。


「シータイは『林檎の産地』ではないか!! 貴殿、林檎がザコルの好物だと知っていたんじゃないのか!?」

「あ、はい。すみません、知ってました。ついでに蜂蜜牛乳や甘いもの全般が好物ということも…」


「くそおおおお」


 サンドが床に膝をついた。尋常でない悔しがり方をする兄をザコルがつつく。


「サンド兄様、ミカは魔法で林檎を煮林檎にしたり、氷菓にしたりしてくれるんです。こちらの騎士エビーもアップルパイを作ってくれます。二人の林檎料理は絶品なんですよね、イリヤ」

「はい! ミカさまもエビーもてんさいなんです!」


 声をかけられたイリヤは一も二もなく賛同した。


「くそおおおお、よかったなお前達!!」

「はいよかったです。サンド兄様にも一つ礼を」

「礼だと!? 俺に!?」

「はい。礼です。サンド兄様が庭で育てて持ってきてくださる林檎は、王都で食べた物で唯一美味しいと思えるものでした。僕はこれでも毎秋の『消息確認』を楽しみにしていたんです。ありがとうございました、兄様」

「くそおおおお、急に泣かせにくるんじゃない!!」


 …兄に会いたくて楽しみにしていたというより、兄が持ってくる林檎を楽しみにしていたと聞こえたが、まあ、ツッコむまい。


「サンド兄様、よければ燻製肉の塊とチーズを買ってきてくれませんか。ミカとエビーが美味しいものを作ってくれると思います」

「わあ、こんどはなにをつくってくれるんでしょうか!」

「よおおおおし、山ほど買ってきてやる!」

「ほどほどの量でお願いします。ミカが市井のものを買い占めると民が困るだろうと言うので」

「すっかり利口に躾けられやがって! 行くぞマヨ!!」

「えっ、まだ氷姫様の希望聞いてないんだけど!?」


 部屋を飛び出そうとするサンドをマヨが止めた。


「あ、じゃあ毛糸をお願いします。昨日使い切ってしまって」

「毛糸を?」

「番手はこれと同じもの、色は無染色なら何でもいいです。お金はお支払いしますので、店が困らない程度に買えるだけ」


 私がヒョイと出した毛糸玉をマヨが手に取る。


「承知いたしました。これ、見本にお借りしてもいいでしょうか」

「はいどうぞ。万が一品薄になっていたら購入しなくて構いません」


 真冬で物が少なくなっている領都ソメーバミャーコ、通称中央の街だが、毛糸は品薄になってはいない。前に購入した時に確認済みだ。ザコルが注文した燻製肉や乳製品類も、野菜や果物に比べればずっと低価格で市場にあふれている印象だった。


「街の者達の生活にまで心を砕いてくださり、ありがとうございます。氷姫様」


 マヨは元使用人らしい所作で丁寧に腰を折った。


「いえ、私は上げ膳据え膳の立場ですから…」


 ススッ。私とマヨの間に二人入ってきた。


「ルーシ、ティス?」

「お話中失礼いたします。私達はシータイで作られた編み物作品を預かり、チッカで委託販売している商会の者になります」


 女子二人もマヨと同じく丁寧に腰を折った。


「毛糸ならばこちらで買い上げさせていただきます。ミカ様はもう一銭もお出しにならないでください」

「ええー」

「といいますか今『昨日使い切った』と聴こえましたが空耳でしょうか」


 ぎくー。


「昨日は魔力切れでお休みだったはず。どうして、毛糸を使い切るようなことがあり得たのでしょうか」

「まさか羊のようで羊じゃない少し羊っぽいものをお編みに…?」


 ぎくぎくー。


 ガタ、ピッタとユーカとカモミも席を立った。エビーがあちゃーという顔をしている。


「その反応!! 仕事をしないでくださいとあれほど申しましたのに!!」

「まだ毛糸の在庫はあったはずです!! アレを何体編んだら使い切ることなどできるんですか!!」

「まあまあまあ。ミカさんにも事情があって…」

『どういうことですかタイタ様!!』


 女子達は止めようとしたエビーをスルーし、うちの執事…じゃなかった、私達の中では一番常識人のようで常識人じゃない少し常識人っぽい騎士を問い詰め始めた。



 かくかくしかじか。

 タイタがうまく説明してくれている間、羊っぽいものとは何だと問うサンドにザコルが高速で編みぐるみを編み上げてみせたり、これがチッカで大ブームなのだと教えたり。


 サンドとマヨは羊っぽい編みぐるみを手に、二人で大爆笑しながら部屋を出ていった。




つづく

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