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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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うちの兄弟はどいつもこいつもどうかしている、俺も含めて。

姫ポジ騎士おさらい回です。

2/21 午後、ちょい修正しました。

「あたし、仕事するわ!!」

「おお、その意気だぞロット」


 パチパチ、急に拳を握って宣言するロットに、ジーロが拍手を贈る。


「えーつまんなぁーい」

「借りまみれの人生なんてもうゴメンなのよ!! ていうか色々精算して堂々とカズのお世話がしたいのよ!!」

「だから世話はウチがするって言ってんのにぃ。今日こそはお風呂に…」

「お風呂だけはダメよこのバカ娘!! ミカ、あたしビットんとこ行ってくるわ」

「あ、はい。いってらっしゃい」

「一人で行くんですかぁ?」

「んなわけないでしょアンタも行くのよついて来なさいよカズ!!」

「はぁーい」


 バタバタ、オネエとギャルは騒々しく部屋を出ていった。




 シーン、部屋に急な静寂が訪れる。




「…ふふっ、ちゃんと連れていくんだ」


 私がそうこぼせば、女性達がつられたようにクスクス笑う。


「昨日は朝から姿が見えないだけでかなり焦っていらっしゃいましたもんね」


 昨日のギャルは、メイドに偽装して鍛錬に参加しながらロットを観察するという、高度かつトリッキーなストーカー技を披露していた。


「…エビー、なぜロット殿はやる気を出されたのだろうか」


 タイタは心底不可解そうな顔をしている。


「ふはっ、タイさんからそーいう質問されんの久しぶりすね」

「すまない、今のはどうしても解らなくてな」



 テイラー騎士タイタは人心に疎い、いや、疎かった、と過去形で語るべきか。


 原因は長年にわたる騎士団内での人間関係トラブルだ。

 彼は元貴族出身だが、ある意味で『育ちが良すぎた』がゆえに、人の悪意に鈍感で、厚意を装って繰り返される罵倒や侮辱を、真摯に受け止めすぎてしまった。その結果、自分自身のことも含め、人の感情を読むことに自信をなくし、自分が『鈍い』『察しが悪い』人間であると思い込むようにもなってしまったのだ。

 つまり、彼の『鈍さ』は先天的な性格もあるが、後天的な要因が大きかった。


 元々の彼は謙虚で努力家、資質にも恵まれた、極めて優れた騎士だ。かつては王族の近侍候補として厳しい紳士教育を課せられ、その立ち振る舞いは群を抜いて洗練されている。また、類稀なる『完全記憶』の持ち主でもあり、これまでも彼の記憶力には随分と助けられてきた。


 能力の高さはもちろん穏やかな人柄を知るにつけ、私達はみんなこのタイタが大好きになった。とかく側にいると心が安定するので『セーフティゾーン』とも呼ばれている。


 深緑の猟犬やサカシータ一族の熱狂的なファンであり、たまに我を忘れることはまたさて置くとして…。


 皆が彼を頼りにし、自分を卑下してくれるなと願った結果、今ではある程度自信を持って人の気持ちに寄り添ってくれるようになった。いっそ紳士の極地というか気遣いの権化みたいになって、敏腕執事のような立ち回りを見せてくれることもままある。


 ちなみに、タイタに悪意を浴びせた元凶で、私を王弟に売ろうとしていた元テイラー騎士は引っ捕えてみんなで尋問した。最後の詰めはタイタに譲ったが、ザコルもエビーも私も、そいつをどうやってギッタンギッタンにするかで頭がいっぱいだった。


 我らテイラー勢の『姫ポジ』タイタに狼藉を働いたのだ。そんな可愛らしい報復くらいは許してもらえるだろう。




「ロット姐さんはさ、極度のツンデレっつーか、天邪鬼なんすよ。やれって言われても言い訳とか意地とかが邪魔してできねーけど、逆に全部世話してやるって言われると不安になってやる気になるっつーか。そんな感じっす」

「そうか、なるほど…?」


 真面目で素直なタイタは余計に解らなくなったようだ。これは先天後天関係なく、性格的に理解が難しいのかもしれない。


「ほう、あれが『天邪鬼』ですか」


 同じく真面目で素直なザコルは珍しい生き物の実物でも見たかようなリアクションである。


「ホッタ殿にテイラーの騎士殿よ、うちの天邪鬼が迷惑をかけているようだな」

「いーえジーロ様。ロット様もミカさんやザコル殿の前じゃ割と素直なんで、特に迷惑はしてねーすよ。今は」

「今は、か。初対面では迷惑どころの話でなかったようだからなあ…」

「なんだなんだ、面白そうな話か」

「何も面白くないぞサンド。うちの兄弟はどいつもこいつもどうかしている、俺も含めて。という話でしかない」


 面白そうなラノベタイトルである。読みたい。


「ホッタ殿、午後はどうするんだ、ゆっくりするのか」

「はい。ミリナ様とお茶会の予定ですよ」

「そうか。俺は、終わらなかった掃除に手をつけようと思っている」

「お掃除、ですか」


 この子爵邸の地下にある遺構で見つかった『澱み』は、ジーロが初めての魔法で浄化したことにより、一部がさっぱりと消失してしまった。


 変質ではなく、消失だ。

 私としては、澱み…長年の放置で毒化? した闇の力みたいなものを浄化することで、何か他の純粋な魔力にでも変わると考えていたのだが…。まさか、まるで『無かったこと』になるとは。浄化とは改めて恐ろしい力である。


 私はミイから、タイタにはその浄化の力を使える『神徒』の素質があると聞いていた。ジーロからも同じような魔力の片鱗を感じたので、試しに勧めてみたら思いの外強力な魔法が使えてしまった。結果、ジーロはいきなり力を使い果たして昏倒に至った。


「ジーロ様。片付けは毎日少しずつするのがコツですよ。忘れないでくださいね」

「ああ。心遣い痛み入る」


 一部が消失したとはいえ『澱み』はまだまだ質量を保っている。全てを浄化しようとして、うっかり力を全開放などすることのないように。と釘を刺せば、ジーロは心得たとばかりに頷いた。




つづく

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