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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ウチのために一生ダメ男でいて?

「ちょっとぉ、ウチのピにちょっかいかけないでもらえますぅ?」

「ウチのピぃ!?」


 彼ピが跳び上がった。


「ああ、すみませんナカタ。先ほどあなたとロット兄様の手合わせに感動してしまって、つい世話を」


 圧をかけるカズを軽くあしらうザコルだ。微妙にニヤリとしている。いつも私にちょっかいをかけるカズへの意趣返しもあったのか。


「もー、野生の人は堀田先輩の世話だけしといてくださいよぉ。だんちょーはウチがジワジワダメ男にしてく予定なんだからぁ」

「ダメ男!? カズったらあたしを何てモノにしようとしてんのよ!」

「は? だんちょーにだけは言われたくないんですけど? ウチのこと散々ダメ子にしよーとしてたくせに」

「むぐ」


 うん、うん。エビーとタイタに加え、元々事情を知っていそうな執務メイド達、うっすら事情を知っている同志村女子たちが頷く。


 その様子をジーロやサンドやマヨは不思議そうに見ていた。彼らはまだ、ロットがどのようなストーカー行為に及んでいたか詳しく聞いていないのだろう。


「で、でもあたし、そんなつもり、なくて」

「ふーん、そんなつもり、なかったんだ。で?」

「申し訳ございません!!」


 ロットがカズの世話を何から何まで焼きたがり、執着をこじらせた結果、カズを同じ渡り人の『先輩(私)』に会わせたくなくて四六時中監視までするようになり、プレッシャーに耐えかねたカズが逃亡騒ぎを起こしたという事件は記憶に新しい。その当時のロットの口癖は『あたしがぜーんぶお世話してあげるから!』である。


 ……そして。

 色々あって彼らの立場は逆転した。今はギャルがオネエを追い回す番だ。


 カズは頭を下げるロットを一瞥する。


「あは。だんちょーてばすぐ忘れちゃうんだからぁ。本来ウチの言うことになぁんにも逆らえない立場のくせにぃ」


 くね、ぴと。


「あ、あの、カズ、さん? 人前でのス、スキンシップはや、やめ」


 そんな気弱なセリフは聴こえていないかのように、カズは彼の腕にくっついたまま、あざとい角度で彼の顔を見上げた。


「うっ、かわいい……っ」


 束縛したくなるほど惚れ込んだ、彼いわく砂糖菓子かマフィンかという愛らしさ。しかしヘタレモード全開のロットには少々刺激が強すぎるようで。


「あは、かわいーのは団長だし。ウチ、こー見えてもフツーに仕事できる方なんですよ。だから、だんちょーが嫌いな仕事もぜーんぶ代わりにやってあげますね。…………だからぁ、他の人の世話とか絶対受けないで?」


 にこおおおおおお。


「ヒョ……」


 ロットが白目になった。


 私は冷え冷えとした微笑みを湛えたギャルの肩を叩く。


「ねえ。カズってさ、文字は読めてもまだ書けないんじゃないの?」


 私達に与えられた翻訳能力は、魔法的な力によって勝手に翻訳されて聴けたり読めたり話したりはできるものの、本当の意味で異世界語を理解させてくれるような代物ではない。文字はもちろん、文法や綴りなどもしっかり勉強しないと、自発的に文章を生み出すようなことはできないのだ。


「あ、勉強する暇もないくらい戦ってたのは知ってるよ」


 裕福なテイラー邸で勉強し放題だった私と違い、カズは召喚されてから多くの時間をアカイシの国境防衛に費やしていたはずだ。異世界に転移していきなり職を得て活躍しているなんて偉すぎる。


「ただ、どうやって戦闘以外の『仕事』をするつもりなのかと気になってさ」


 彼女は「んー」と人差し指を口元に当てて考え込む


「確かに文章とかはムリですけど、数字くらいは書けますよぉ。あとはイエスとノーと主な地名くらい書けたら結構仕事できるんじゃないですかぁ?」


 む、と私も考え込み、すぐに拳をポンと叩いた。


「確かに! 団長ともなれば自分で文章作成とかする機会は少ないか! 下から上がってくる書類に目を通してハンコかサインするだけみたいな仕事も多そう」

「うん、実際そーなんですよ。でもそーいうのですら団長すぐ溜めちゃうからぁ、タムじいがよくボヤいててぇ」


 タムじいというのは、ロットの目付けと補佐を行っているタムラという年配の騎士団員である。


「領内の地図とかは頭に入ってるしぃ、手紙とかは定型文用意しとけばいいしぃ、てかぶっちゃけタムじいの仕事手伝ったこともあるしぃ、ウチ、割といつでも替われると思いますぅ」


 ドドン。カズは任せろとばかりに胸を叩いてみせた。


「…なるほど、これは期待の大型新人様だな。騎士団長の仕事など取るに足らんと」


「もーサンド様てば、そんなこと言ってませんよぉ。騎士団長ってぇ、団員の士気あげる存在っていうか、命預けられる人みたいなイメージ大事じゃないですかぁ。ロット様はそーいう意味ではめちゃカッコイイってか有能なんですよぉ。一緒に戦ってるとちょーアガるっていうかぁ。野生の人の言うとおり、管理職の仕事なんかさせるのもったいなくないですか? 剣だけ持ってればいいって、マジでそれなって感じ」


「カズ……!」


 すぐに絆される団長である。確かに管理職はあまり向いているようには見えないが。


「だがカズ殿よ。そいつのためにも少しは厳しくだな。ビットも困っていたし…」


 ジーロも口を挟む。


「そーだった、ビットのおっちゃんの仕事も減らしてあげないとですよねぇ。ダイジョーブですよ、ちゃんと団長…ロット様が統制とってるみたいに見える感じにしとくんで」


 あっけらかんとそうのたまうカズに、ジーロは眉を寄せた。


「おい、本当に大丈夫なのかホッタ殿。堂々とウチの騎士団長を傀儡にするようなことを言っているが」

「まあ、裏切るようなことはないと思うので、それで仕事が回るならいいんじゃないかと個人的には思いますよ。あの子、意外に補佐とか裏方仕事の方が合ってるのかもしれないですね」


 営業とかさせるとその補佐となった者が酷い目に遭うが。

 カズが表に立って仕事を取ってくるなどしなければ大丈夫だ。多分。


「ね、だん…ロット様。ウチのために一生ダメ男でいて? 剣しか持てないロット様だぁい好き!」

「うっ、複雑だわ! 複雑だけどかわいいわ! ねえどうしたらいいのミカ!?」

「まあ、諦めていただいて」


 危機感を覚えるくらいならサインするだけの仕事くらい部下に任せず自分でやればいいのだ、などというおせっかいは言わない。私は後輩思いの先輩なのである。




つづく

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