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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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あ、これダメ男製造マシーンだ

「あの、皆様、私の話をしていませんでしたか、また、一体何を…」

「みんなで女王様を盛り立てて行こうって話をしておりました!」


 うんうん。マヨの元気なお返事に私とザコルとついでにエビーも頷く。

 当の女王、ミリナは渋い顔になった。


「お願いですからほどほどにしてくださいね? もうずっと居た堪れないんですから。…そういえば、ミカ様。今日はサゴシさん達、影の皆さんはいらっしゃらないのですね。穴熊さん達も…」

「あ、はい。昨日ここでぶっ放したばかりですから。別の場所での鍛錬を命じました」

「なるほど、そうでしたか」


 細氷、いわゆるダイヤモンドダストの欠片がまだこの辺り一帯に降り積もっている。ミイに訊いたところ私の魔力の残滓がまだ感じられるらしい。ただし含まれた魔力の多くは魔獣達が『食べた』そうなので、念の為だ。


 は、と私はマヨの方を見る。そう言えば、この人も昨日はザラミーアと共に避難させられていた。


「もしかして私の心配されていますか? 体調に障りはありませんから大丈夫ですよ」

「よかったです。もし調子が出ないな、なんてことがあれば相談してくださいね」

「はい。お気遣いありがとうございます氷姫様」


 おそらくだが、マヨは昨日、どうして避難させられたかくらいのことはザラミーアかオーレンに聞いているだろう。聞いていなくとも、あのダイヤモンドダストが自分に悪影響を及ぼす可能性がある、くらいには察してくれているはずだ。


「ミカ様、後でお時間をくださいませ。お話ししたいことがございます」


 ミリナの真剣な表情に、私は一も二もなく頷く。


「もちろんです。では、午後はいかがでしょう。イリヤくんはうちの騎士に預けますよね?」

「いえ。イリヤも同席させようと考えております。知らせないことがあの子のためと考えておりましたが、ただ不安にさせるだけだったとやっと気づいたのです。ミカ様、よろしければテイラー騎士のお二人や影の皆様にもご同席願います」


「承知いたしました」


 私は控えめに一礼した。





 午前中はソロバン塾を開講し、生徒達の学習の進捗確認のため、簡単なテストを行った。テストの内容自体は以前から頭にあったため、昨日タイタに人数分だけ書き写してもらってあった。


「皆様、素晴らしいです。満点の方が半数以上という結果になりました!」


 丸付けをしてくれたタイタ先生の言葉に、執務メイドと同志村女子達がワッと歓声を上げる。


「本当にすごいですよ。もう私が教えることないですね」

「でも、毎日使わないと忘れてしまいそうです」

「ああ、短期で詰め込んだもんね。反復用のドリルでも作ろうか」


 執務メイド達はともかく、同志村女子達がソロバンを実務でバリバリ使う機会は今の所多くない。帳簿付けの仕事がないわけではないだろうが、スタッフは他にもいるし、貴重な女性スタッフである彼女らには彼女らにしかできない仕事も多いためだ。


「父上め、便利なものがあるなら早く教えてくれればいいものを」

「メイドと顔を合わせるのが怖くて教えあぐねていたらしいぞ。ザラミーアには無駄遣いの象徴のように扱われ、自分用のソロバン以外はしまい込んでいたらしい」

「ふむ、そこに救世主の登場というわけだ」

「ミカが何でもできるからって何でもさせすぎじゃないの。どうせ講師代も受け取らないんでしょうし、借りまみれよ借りまみれ!」


 チャッチャカチャッチャカチャッチャカ。

 塾を見学にきた次男、三男、六男が三人してソロバンをリズミカルに振り鳴らしている。この家の人は、ソロバンを『珍妙な楽器』だと思っている節がある。


「堀田先輩、なんか塾の先生とか似合いますよねぇ、やってそー」

「そう? なんかありがとう。でも、みんな優秀すぎちゃって先生した実感ないんだよね。タイタとザコルなんか一度見ただけで覚えちゃって、なんなら途中から先生役代わってもらったし」

「一度で覚えるとかすご、ウチなんか教えてもらったことあるのに秒で忘れたんですけど」

「カズはやる気ないだけでしょ」


 この後輩ギャルは決しておバカではない。しかも負けず嫌いだ。やる気にさえなれば、意地でも習得するタイプだと私は思っている。


「マヨ様も一緒にいかがかしら?」

「やだもう、『様』なんてつけないでマヨって呼んでくださいよ。と言いますが、私みたいなおバカに計算なんか無理ですって。分かって言ってるんでしょう?」


 マヨがクスクスと笑う執務メイド達に文句を垂れる。


「マヨおばさま、だいじょうぶです! 僕がおしえてさしあげます! いっしょにやりましょう」

「そうですわマヨ様。私も初心者ですから、ぜひご一緒に」

「あ、えーと、イリヤ様、ミリナ様、マヨはですね…」


 しどろもどろ。マヨは助け舟を期待したのか、チラッと夫の顔を伺った。


「フッ、逃げ場がなくなったなマヨ。俺もやるからお前もやれ。道連れだ」

「はああああ本気!? 私だよ!? 計算なんて本当にダメで…っ」

「それを楽に、簡単にするための器具なんだろうコレは。面白い。お前まで使えるようになれば皆も驚くだろうなあ」


 くははは、と意地悪そうな顔でソロバンを上にかかげてみせるサンドだ。何となくイーリアが無茶振りする時の感じに似ている。


「お前もやったらどうだロット」


 ジーロがからかい混じりにロットをつつく。


「何言ってんのよ、マヨ姉と並んで醜態晒すだけよ」


 今、ナチュラルにマヨを『醜態』に並べたな…。


「ね、ザコルもそう思うでしょ?」

「はい。ロット兄様は剣だけをお持ちになればいいと思います。計算など、必要なら僕が代わりにしておきますので」

「ありがたいわあ、持つべきは優秀な弟ね!!」


 醜態を晒すだけ、と言って弟に即肯定されるのは気にならないのかな…。


「おい、あまりコイツを甘やかすなよザコル。お前、子供時分にも上の兄弟の宿題を肩代わりさせられてなかったか?」


 ぎくー。ロットが判りやすく硬直する。どうやら長男より長男らしい次男には悪行がバレていたらしい。しかし、宿題を押し付けられていた側のザコルはふるふると首を横に振った。


「僕としては、兄様達が親切で課題をくれるものと思っていのたで問題ありません。実は僕も机に向かうのはそれほど得意ではないのですが、なるべく早く暗号を扱えるようになりたいという思いだけで取り組んでいたんです。量があればあるほど鍛錬になるはずだと、課題をいただくたびに感謝していたくらいで」


「聴いたかロット、これが世間様から二つ名をもらう立派な人間の言うことだ。少しは見習わんか」


「いいのです、ジーロ兄様。ロット兄様のような武に愛された人に、物書き計算のような雑務を任せては領の、いえ国家レベルの損失でしょう? 僕が宿題を肩代わりすることで浮いた時間を、ロット兄様は剣に費やしたんですよ。将来的に今日のような素晴らしい手合わせを見せていただけると知れば、当時の僕はますます喜んで引き受けたに違いありません」


「ザコル……!」


 …あ、これダメ男製造マシーンだ。


 感激するロットに、皆が生ぬるい視線を送った。




つづく

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