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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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今日も人間だって信じてはもらえませんでした

 降り立った魔獣ミリューから、一組の母子が滑り降りてくる。


『お帰りなさいませミリナ様! イリヤ様!』


 ザッ、サカシータの騎士やメイドが一斉に腰を落とした。




「まあ、どうしましょう、ちょっと飛んできただけで大袈裟ですよ、お顔を上げてくださいな」


 まるで王族でも迎えたかのような挨拶に、ミリナがオロオロとしている。



「ミカさま! お元気になりましたか!? 僕ね、ミリューの『ぎょしゃ』をしたんですよ!」


 そんな仰々しい挨拶には構わず、こちらに走り寄ってきたイリヤは喜色満面だ。



「もう体調はバッチリだよイリヤくん。御者か、すごいね。どこまで行ってきたの」

「えっとね、えっとね……上のほう!! とおくにヌマとかシータイも見えました!」

「そっかあ。色々落ち着いたら遊びに行こうよ。連絡取ってさ」

「うん! ゴーシ兄さまもさそいたいなあ」


 キュルル…

 ミリナ、子、元気、感謝


 ミリューは私がイリヤの世話をしたものと思っているようだ。


「ううん、違うよミリュー。私だけが世話したんじゃないよ。イリヤくんがいい子だから、みんなが彼に優しくしたんだよ」

「ミリュー、ミカさまはね『けんそん』がおとくいなんだよ!」


 イリヤがミリューと私の間に割り込んできた。


「けんそんってね、ほんとうはすごいのに、すごくないよって言うことなんだ。ミカさまはいつも、僕がたのしくいられるようにかんがえてくださるよ。僕の知らないところでも、たくさんしんせつにしてくれているんだ。母さまも、シータイのメイドちょうも、それからザラおばあさまもそう言ってたからまちがいないよ!」


 ミリューが目を細める。イリヤが元気そうにしているのがよほど嬉しいのだろう。


 王都から脱出してきた時の彼を思えば、格段に笑うようになったし、自分の意見も堂々と言えるようにもなった。今の彼を見て喜ぶ気持ちは非常に理解できる。


「ふふ、イリヤくん、ありがとね」

「僕もミカさまにおれいをいいます! いつも、やさしくしてくれて、ありがとうございます!」


 私達はお互いにペコペコとし、笑い合った。


 キュルル。

 撫でる。


 ミリューが鼻先を押し付けてきた。


「撫でていいの? ありがとうミリュー。相変わらずすべすべで手触り最高だね」


 調子に乗って抱きついたら、ミリューも楽しそうに鼻先を上げ、私の足先はふわりと浮いた。まるで某ネコ型のバスの鼻先に持ち上げられる少女がごとしである。楽しい。


「おお、ミリューが心を開いておる」


 サンドは某ババ様みたいなことを言っている。


「サンったら何になりきっているの、それ。でもすごいわ氷姫様、ミリューのお友達になれるなんて!」


 マヨは何を見ても楽しそうだ。


「ふへへ、私達ミリナ様の下僕仲間ですからね」


 キュル、キュルルウ。

 ミカ、きょうだい。


「私がきょうだい? あ、親友的な? ふへ、嬉しいなあ」


 ピョコ、私の肩に白リスが現れた。


 ミイ…!?

 本当に…!?


 キュルルウ。

 きょうだい。


「? ねえ、親友的な話じゃないの?」


 ミイミイミイ、ミイミイミイ。

 ミリューは竜族、魔界の王者たる血族の姫。


「へえ、そうなんだ。大物だねえ」


 ミイミイ!?

 ミカもそう!?


「はあ? んなわけないっての、私は人間だって何度も言ってるでしょ」


 キュル、キュル。キュルウ。

 ミカ、隠す。黙る。


 ミイ、ミイミイ。ミイミイミイ。

 そう、分かった。ミイも黙ってる。


 こくん。リスと水竜は何やら重大なことのように頷き合った。


「ねえホント何の話? 私、日本から来たんだよ? 日本に魔獣とか魔界のナンタラはいないんだよ? 聴いてるかな」


 言い募ってみたものの結局また受け入れてもらえなかった。




 ミリューは竜族、魔界の王者たる血族の姫。

 ミイの言葉を信じるのなら、ミリューは魔界における王族の一人、みたいな感じの立場であるらしい。そんな大事なお姫様が幼体の頃に異世界に召喚されてしまうなんて、当時の魔界はさぞ大騒ぎだったことだろう。まあ、知らんのだけども。


 ミリューは魔獣軍団のリーダーである。古参の魔獣達まで若い彼女に従っているのは、シンプルに実力だろうと思っていたのだが違ったのだろうか。彼女がその実力に加え、竜族? だからリーダーを務めていたとすれば、彼らも血統というか身分を重視するということになる。意外だ。


 魔獣達の間で私が竜族の姫のきょうだい? みたいな話になっているとすると、実にややこしい話にな……………………らないか。あ、全然ならない。大丈夫だ。


 なぜなら当の王者の血族? たるミリューはミリナに忠誠を誓っている。つまり、ミリナのもとにおいて我らは等しく下僕。実力や血統がどうだろうとも関係ない。

 しかも魔獣の言葉は私にしか解らないし、ここは魔界ではない。私が密かに準王族か何かだと思われていたところで、お家騒動に巻き込まれるなどということもない。何も問題なかった。


 そんなことよりも、私自身が嘘をつかないことの方が重要かもしれない。

 魔獣達がそう扱うからと自分から王者の血族とやらを騙り、ひょんなことからそうでないとバレた場合、彼らを怒らせてしまう可能性があるからだ。

 なのでこれからもちょくちょく否定だけはしていこう。信じてくれるかはともかくとして。



「ミカ様、この子達、また失礼なことを言っていませんか」


 勝手に考え込んで勝手に納得していたら、ミリナがおずおずと声をかけてきた。


「え? いえ、それは全然。今日も人間だって信じてはもらえませんでしたけど、それだけです」

「まあ…。本当にどうして、私からも言い聞かせているのに」

「ミリナ様がお気になさることじゃないですよ。私が人間らしくないのが悪いんです」

「ふはは、ホッタ殿は全く寛容だなあ」


 ジーロに笑われた。


「ジーロおじさま、きのう僕がみつあみしたときのままですか?」

「ああ、せっかくイリヤが結んでくれたのを解くのがもったいなくてなあ」

「あとでやりなおしてさしあげます。くふふっ、ぼさぼさになっているもの」


 全く叔父想いの天使である。


 そう言われて改めてジーロを見てみれば、元々不恰好な三つ編みが寝乱れた、と言うに相応しい髪型ではあった。今日の彼は貴族の正装服ではなく、サカシータ騎士団の冬用団服を上下着こなしている。きっと高齢のデリーという侍女が丈などを直してくれたものだろう。


「おいイリヤ、俺のことも構えよ」

「サンドおじさま、みんなで雪がっせんをしませんか! ミカさまがかんがえたあそびなんです。みんなでやると、たのしくって、とーてきのれんしゅうにもなるんですよ!」

「ユキガッセンか、よく分からんがイリヤがやりたいのならやろう」

「やったあ! 先生、せんせーい!」


 イリヤは、ロットとマネジを戦わせ、かじりつくように観ているザコルに声をかけにいった。




つづく

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