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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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294/573

兄様、いいでしょう?

繰り返しになりますが、エピソード292冒頭、千文字くらい追加しました。

エビーとザコルが不憫な目に遭っています。

気になる方はどうぞお読み直しください。

「この辺にしときましょ、決着つかないし」

「うん、模擬剣折って怒られるのダルいもんねー」


 彼らは急に息を合わせたかのように動きを止め、普通に喋り出した。息も上がっていないし、ついさっきまで戦っていたとはとても思えない。


「ロット兄様!」


 そんな二人に駆け寄る人が一人。


「あら、何よザコル」

「素晴らしかったです! やはり剣術では兄弟の中でロット兄様が一番ですね!」


 にこーっ。


「うぐっ、ちょ、ちょっ、タンマ…」

「兄様、兄様。僕に剣を教えてくれませんか。最近、色んな達人に長剣を教えてもらっているんです。ぜひ兄様の剣も学びたい」


 王宮近衛の流派を継ぐタイタ、テイラー式剣術の達人ハコネ、元サカシータ騎士団長モリヤ。シータイでは色んな剣の達人と長剣の手合わせを重ねてきたザコルである。

 彼は今まで長剣術は独学だった。独学ながら既に剣豪の域にあるとモリヤには評されていたが、その評価にあぐらをかかず、型や技を学びさらに上をめざそうというストイックさが実に彼らしい。


「兄様、いいでしょう?」


 必殺、上目遣い攻撃。


「ああああもーっ、分かったからその目で見るんじゃないわよ普通に教えてやるから模擬剣取って来なさいよっ」

「ありがとうございますロット兄様!」


 わーいやったー、とばかりに模擬戦用の剣を取りに行く英雄、深緑の猟犬様である。


「恐ろしや。猟犬様のあの笑顔は心神喪失必至の破壊力だ、ロット様もよくぞ耐えられた」

「辺境エリア統括者殿も経験がおありで?」

「手合わせをとおっしゃられた時や、武器を望まれた時に少々…」

「マネジ!」

「ヒョエ」


 光学迷彩みたいに雪に紛れていた白装束が跳び上がる。


「マネジも長剣は当然扱えますよね、僕では役不足ですから、ロット兄様と手合わせしてくれませんか。君の戦っているところが見たいんです。いいでしょう? マネジ」


 必殺、のぞき込み攻撃。


「うぐ…っ、しっ、心臓に負担が……!!」

「お気を確かに統括者殿!!」

「我らも団長様との手合わせが見とうございます統括者殿!! この剣をどうぞ」

「ローリ、カルダ、君達も今日こそは僕と手合わせしてくれますよね?」

『ヒョエ』


 屈強な騎士(同志)二人も跳び上がった。






 そんな様子に、ぐぬぬぬ、と唸る者達がいる。


「ザコルめ、本当に笑っているではないか! ずっとあの仏頂面でいればいいものを!」

「奥様がおっしゃったのは本当だったのねえ。ザコル様の表情が豊かになったって」


 なぜか憤るサンドの横でマヨはほっこりしている。ザコルが笑うようになったことはザラミーアから聞いていたらしい。


「ロットめ、ザコルがあんなに笑ってくれるなんてずるいではないか!」


 ジーロはなぜかロットに憤っている。


「何ですか二人とも子供みたいに嫉妬しちゃって」


 マヨは呆れて笑っている。

 サンドはジーロを訝しげな顔で伺った。


「ジロ兄はいつからザコルを可愛がるようになったのだ。お互い領を出ていたし、さほど接点もなかったろう」

「接点が少なかろうと歳離れた弟が可愛くなかったわけではないぞ。だがまあ、いつからといえば三日前だな。ザコルはなあ、俺の髪を大事に大事に梳かしてくれるし、寝込んだ時にはずっと手を握ってくれるのだ。しかも俺といると楽しいらしい。あの弟があんなに兄想いだったとは知らなくてなあ」


 フフン。ジーロが得意げに鼻の下を指でこする。


「いいかジロ兄、ザコルは以前から林檎をやるとちょっと笑うんだぞ、面白いだろう。これは俺しか知らないことだ!」


 ドヤア。サンドが得意げに胸を叩く。


「サン、それは私も知ってるわよ、よくうちの庭の林檎をもらいに来てたもの。決まってサンがいない時に来るのよねえー」

「なんだと…」


 ザコルの林檎好きを知る人がここに二人いた。ぐるん、サンドは私の方を振り返る。


「氷姫殿は知らないだろう!? あいつの好物は林檎と蜂蜜牛乳だ! 覚えておくといい!」

「あ、はい」


 それは嫌というほど知っている、などとは言い難い。一緒に蜂蜜牛乳を飲んだり、一緒に林檎を加工したりしていた同志村女子達も口をつぐんでいる。



 事情を知っていそうなメイド長が口を開こうとしたところで、ロットとマネジの手合わせが始まり、皆の興味が移った。


「おお、何だあの白装束は。また不可解に強いヤツが出てきたぞ。あれも渡り人なのか?」

「いいや、ザコルのファンで本職は武器職人だそうだ。説明を受けたろう、あの者達は、ザコルやサカシータ一族への憧れから自主的に鍛錬を積んでいて、個々人がやたらな練度を誇るらしい。シータイやカリューも彼らの支援でなんとか命を繋いだと」

「俺は長らくザコルの様子を伺っていたが、そんな者達に追いかけられていたとは初めて知ったぞ」

「ザコル自身も知ったのは最近だというので致し方あるまい。あの御仁らはな、手紙を持って何人もが交代で走り、こことテイラー邸を二日や三日で往復するらしい」

「二日や三日? 一般人だろう、それはすごい。俺達兄弟で競争してみたいな」

「はは、面白そうだ」


 テイラー領とサカシータ領の距離は、馬を使って十日以上の距離である。ちなみにテイラー領と王都は隣接しているので、ここからの距離は似たようなものだ。


 深緑の猟犬ファンの集いには『飛脚』という伝達専門の役割が存在する。脚の速い人間をよりすぐって手紙をやりとりするのだ。

 今はそんな『飛脚』の中でも精鋭がテイラー領とサカシータ領の間に常駐し、サカシータ領からは毎日朝夕二回の定期便を、テイラー領からは王都の様子などをこちらに報せる手紙を返事として届けてくれている。そのテイラー領からの手紙にはかなり高度な暗号が用いられており、専門家の手を借りないと全くチンプンカンプンだ。


 ブォン、バサッ、と突然大きな羽ばたき音がした。


「戻っていらしたわ」

「あ、姿が見えないと思ったら。お散歩に行ってたんですね」


 キュルウ!


 元気な鳴き声と共に、魔獣ミリューが訓練場へと降り立った。




つづく

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