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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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どんな言い訳をするかはどうでもいいことだ

「ごめんなさい」


 ぐーりぐり。私を膝に乗せたまま背中に頭をこすり付ける人に声をかける。


「許さない」


 許してもらえなかった。


「替わって、野生の人」

「はい。どうぞ、ナカタ」


 野生の人は私を二人がけソファの隣に下ろし、席を立った。空いた場所にはギャルの人が座る。

 ぐーりぐり。ギャルは私に横から抱きつき、肩の辺りに頭をこすり付け始めた。


「ごめんなさい」

「許さない」


 許してもらえなかった。



 トントン、とノック音がして、タイタが応じる。

 ワゴンを押して入ってきたのはペータとメリーだった。彼らはテキパキと私達の前に昼食を配膳する。


「ミカ様」


 ジトリ。ペータの視線に既視感を覚える。あ、これ絶対叱られるやつ。


「離れたところから、見ておりました。……あんまりです。ザコル様や皆様が、あんなにお止めしていたのに」

「はい。反省しております」


 反省はしているのだが、いかんせん魔法をぶっ放していた時の記憶が曖昧だ。上っ面の謝罪を吐き続けるのにも嫌気がさしてきたところだが、彼らが納得するまでは謝り倒すしかない。


「とはいえ、あまり覚えていらっしゃらないのでしょう。弓を引く際のご様子に近いものを感じましたので」


 見透かされた。無念とばかりに溜め息をつく少年の肩を叩く人がある。


「ペータ。ミカの問題は根深いところにあります。本人が自覚したとしても今すぐに解決できるものではない。僕らはただ、その揺らぎにその場その場で対応していくしかないのです」

「ザコル様…」

「ですが、恨み言の一つや二つ、いえ、百や二百くらいは喜んで受け止めてくれるはずです。僕らの姫は非常に懐が深い」


 ザコルの言葉に、エビーとタイタ、そして部屋の隅にいる穴熊一号が頷く。ぬるり、壁からサゴシも出現し、うんうんと頷いた。


「まずは食事をどうぞ、ミカ。ペータとメリーもこの部屋での待機を命じます。このクソ姫はまたどこかに消えようとするかもしれませんしね。皆で見張、いえ、注意深く見守ることにしましょう」


 私を除くその場の全員の視線が私に集中する。


 かくして私は、二十六年の人生の中でも一番味のしないランチをいただくことになった。





 妙に静かに過ぎた昼食後。人々は順繰りに『恨み言』を吐き始めた。


「軽率に死にかけるのマジにやめろください。ねっ、姫様」


 にいいいい、サゴシの顔が怖いし気持ち悪い。


 気持ち悪いと感じるのは、彼の持つ強力な闇の力のせいだろう。さっきから半ば本気で洗脳しに来ている気がする。そして誰も止めない。全員があわよくば洗脳されろと思っていそうなのがさらに怖い。


「やっぱさ。異世界で過労でぶっ倒れかけるまで仕事してた時と根本が変わってねーんすよ、うちの姉貴はさあ」

「エビ君さりげにウチをディスりに絡めてくんのやめてー?」

「え? ギャル様のせいだなんて一言も言ってませんけどお?」

「エビー、カズ殿。味方同士で争うのはやめませんか。我ら、この方を現世に留めたいと願う気持ちは同じなのですから」


 ニコォ。タイタの笑顔も怖い。清々しいオーラの中にひとつまみの狂気。それが彼の持ち味でもあるのだが、敵に回した時の気分はこんな感じか…。


「ひめ」

 ボソボソ…。

(物申したい、という交信要請が複数来ている)


「えっ、複数来ている? って、バラしちゃっていいんですか」


 穴熊は基本的にザッシュの組としか交信していないという『てい』になっている。

 いくら女帝や騎士団長が権力を振りかざしてこちらの会話をロムっていたとしても、いち騎士団構成員でしかない穴熊からバラしにくるとは思っていなかった。


 ボソボソ…。

(あなた様にはどうせバレている、皆そう言う)


 バレているのがバレているとバレているらしい。なんとも複雑怪奇な状況だ。まあ、私は別にいいのだが相手方はそれでいいんだろうか。


「あの、叱られるのはやぶさかではないんですが、魔法を展開していた間の記憶があまりないんです」


 ボソボソ…。

(あなた様がどんな言い訳をするかはどうでもいいことだ)


 中身のない謝罪や言い訳をするしないに関わらず、物申されることは決定らしい。

 つまり、私が何を言っても誰も許すつもりはない、ということだ。






(お姉様の嘘つき、春になったらわたくしと揃いのドレスを着て踊ってくださるとおっしゃったのに。それまでにお帰りになってしまうことなどしないとお約束くださいましたのに)


「はいすみませんアメリア、でも、決して帰ろうとしたわけではなくてですね…」


 穴熊の声でお嬢様言葉を聴くのが未だに慣れない。


(いいか貴殿、無茶をして貴殿の妹やうちの弟を泣かせるのはやめろ。金輪際だ)


「はいすみませんザッシュお兄様。うちの妹とお宅の弟さんを泣かせるのは本意ではないです」


(お二人のおっしゃる通りだ。ザコル殿も言っていたことだが、いい加減に捨て身の考えは改めろ)


「はいすみませんハコネ兄さん。ただ、さっきも言ったんですがあまり記憶がなくてですね…」


(普段から人に施して自分を二の次にしているから無意識に身を捧げてしまうのだ。この機会に自分の人生について考えろ)

(そうよ、ザコルと老後の話でもしたらいいのだわ)

(それがいい)


 どうしてみんな私に老後の話を勧めてくるんだろう。



「シュウ兄様、僕は泣いてなどいないのですが」


 私のセリフを聴いていたザコルが口を挟む。


(いいやザコル、お前は意外に泣き虫な奴だ、絶対に泣いた、間違いない)


 穴熊の言葉が理解できなかったザコルは首をかしげた。穴熊は独自の言語で喋るのをやめ、オースト語に切り替えた。


「絶対、泣いた。泣き虫」

「………………」


 ザコルの顔を覗き込もうとしたら睨まれた。エビーが吹いたのでかぎ針も飛んだ。


 くどくどくどくど。交信組を交え、皆の説教は何度もループし、そして何十分も続いた。


 世話の焼ける私の意識の根底に、深く深く言葉を刷り込むかのように。




つづく

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