何が睦み合いだ
タイトル変えました
サンドの妻であるマヨは、ザラミーアと共に離れたところにいた。ここからでは表情などはうかがい知れない。
「マヨ様って、もしかしてザラミーア様の元腹心の方なんでしょうか」
「なぜそう思う?」
「ザラミーア様が呼び捨てにされていましたし、アレも使えそうなので」
ザコルの母で闇の力を持っているというザラミーアは、サゴシと猿型魔獣のジョジーによってダイヤモンドダストから避難させられていた。そのジョジーがマヨのことも指差して引っ張っていったようなので、彼女も闇の力を有する人で間違いない。
ザラミーアはサカシータ家の『深部』にある例の魔法陣を、自分と数人で動かしていた、と話していた。おそらくだが、このサカシータ領では闇の力を持つ人間を密かに優遇、保護している。あの陣を動かせる人材も必要だし、闇の力も使いこなせれば強力な武器となりうるからだ。戦闘員や工作員を多く輩出する里ならではの価値観だろう。
闇の力の一種らしい『感覚共有』が使える穴熊達への待遇の良さと、オーレンがサゴシに『君、行く場がなくなったらぜひうちにおいでよ』なんて声をかけていたこともそれを裏付けている。
「アレ、か。うちにもそんな厄介なものがあるのだな、父上よ」
ギク。
「………………」
この、余計なことを言うまいと黙る癖。オーレンとザコルの共通点だな。
「大勢の人や魔獣を巻き込むようなものではないですよ。ちょっとメンテナンスは必要ですが」
そう私がフォローすると、サンドはふむ、と頷いた。
「つい最近異世界から喚ばれてきたという悲劇の姫は、俺達よりよほどこの世界に詳しいらしいな」
「魔獣達が教えてくれるだけです。黙ってるの大変なんですよ、これでも」
オーレンが黙ったまま私を見上げた。
「このホッタ殿は『何も知らない姫役』をしているつもりらしいぞ、これでも」
私の手を握ったままのジーロが口を挟むと、サンドは吹き出した。
「ふはははっ、何も知らない姫役と自分で言うのか。貴殿、損得を考えぬ聖人か、はたまたくわせ者か、一体どっちなんだ」
「面白い御仁だろう? 消えさせるのは実にもったいない」
「それで手を握っているのか、ジロ兄とイリヤは」
「はいそうです!」
とイリヤがいいお返事をする。
「こうしていれば少しは魔力を分けられるらしいぞ。サンド、お前も協力しろ」
「俺は妻があるので肌に触れるのは遠慮しておこう。さっき、ザコルとミリューには返してもらったと言っていたし、敢えて分けなくとも大丈夫なんじゃないのか?」
「ああ、確かにそう言っていたなホッタ殿。ミリュー殿はともかく、ザコルはどうやって……もしかしなくともアレか? アレで魔力をやったのか? どうなんだザコル」
「………………」
だんまり。
つんつん、ジーロの肩をつつく者がある。オネエ騎士団長、もといロットだ。
「ジロ兄、よく分かんないけど、ザコルとミカはアレで魔力をやりとりできるらしいのよ。よく分かんないけど! ねっ、カズ!」
「あ、はい。ウチはアメリアちゃんから聞きましたぁ。チュー…じゃなくてアレで魔力譲渡ぉ? ってのができるんだって。よく分かんないけどぉ」
「ふーむなるほどなあ、よく分からんが、手など握るよりアレの方が効率がいいのか?」
ジーロが私の口元を見た気がして、一瞬身体をこわばらせてしまった。
「安心しろホッタ殿。そんな真似をしたら弟に消されるのは俺だ」
見透かされた。ザコルが無反応なのが却って怖い。
「よく分かんないけどこの子達は魔力の相性が特別いいらしいわ! コマが言ってたもの!」
「ああ、よく分からんが俺とは相性が良くないらしい。俺はザコルとも相性が良くないらしいから矛盾はしないな」
よく分からんが、とジーロはまた付け足した。
「アレで譲渡するにしても相性が必要なのか、ホッタ殿」
「えっと、私もよく分からないんですが、ジーロ様と私では体液を介しても朝までかかる、って昨日ジーロ様が昏倒してる時に、ミイが…」
「ははは、朝までアレをし続けないといけないのかあ、それは熱烈だなあ」
ズズズ…。ついにザコルの気配が動いた。
「これ以上ミカとアレの話をしたら殺す」
遠慮忖度なしの殺気。しかし、ジーロとロットはなぜかほっこりとした顔になった。
「そうかそうか、殺されてしまうのかあ、それは大変だなあ」
「もうやーねえ、ジロ兄もやらないって言ってんじゃなーい、相変わらずミカが絡むと短気起こすんだからあ。うふふっ」
イライライラ。殺気はますます濃くなった。今気づいたが、ザコルが放つこの殺気って、闇の力によるものじゃないんだな…。
「何をザコルで遊んでいるんだお前ら、ザコルは俺の弟だぞ!」
「お前の弟は俺の弟だろうが」
「あたしの弟でもあんのよ、思考回路まで面白いことになってんじゃないわよサン兄」
「うるさいぞ、ザコルをいじって遊んでいいのは俺だけだ!」
「独り占めはよくないな、サンド」
お兄ちゃん達がザコルを巡って言い合いを始めた。なんだろう、ふふ、ほっこり。
「ほっこり、ですなあ…」
「ああ、ほっこりだ…」
「いいですなあ、兄弟の睦み合い…」
振り返ったら同志三人が雪に埋もれながらこっちを伺っていた。あれは潜んでいるつもりだろうか。
「何が睦み合いだ、ミカもその顔はやめろ、タイタも、姉上もです!」
「ぶふぉっ、イライラすんなよ兄貴、可愛がられてますねえ」
「っ、うるさいエビー!」
雪玉が飛んだ。
つづく




