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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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君が損得なんて概念、持ち合わせているとは思えないなあ

 ザク、ザク、ドシャッ。

 重々しい音をたて、二人の人間が雪上に跪いた。

 蹲っていたエビーも立ち上がり、タイタと共に私の両脇に立ち直す。


 私は跪いた一人の顔を見て、ザコルの腕から身を乗り出した。


「オーレン様、みんなは…」

「ああ。魔獣達を調べたけれど、どの子も異常なかったよ。さっきまでのことが、嘘みたいに…」

「……っ」


 はあぁぁー……。吸い詰めていた息を吐き出す。


「よかった。ちゃんと効いたというか、あれで足りたんですね。あー、やっとホッとできました。よかった……」


 誰も死なずに済んだ。


 安心したら力が抜けてしまった。ザコルがガッチリ抱いてくれているので、遠慮なく胸に身体を預ける。


「ミカ」

「あ、大丈夫です、気が抜けただけなんで」


 へらりと笑ってみせたが、ザコルには切なそうな顔をされてしまった。


「そんなに不安だったのかい」


「ええ、そりゃ…。ダイヤモンドダストの量は足りたのかな、とか、ダイヤモンドダストを浴びることで魔力不足と、体内に蓄積した穢れ? 的なやつまで全部解消するって、実はミイが言ってるだけだったからそれもまた不安だったんです。あーよかっ」


 ぺちっ。ミイに頭をはたかれたので「ごめんごめん」と謝った。


「不安が残る方法に全力を注いだのかい? 本当に、君って子は…………」

「全く信じてなかったわけではないです。闇が中和できるのは判ってましたからね。まあ他に方法もなかったし、やるしかない、やれるだけやって損はない、って思って」

「はは、君が損得なんて概念、持ち合わせているとは思えないなあ」

「父上?」


 軽口を叩くオーレンをザコルが睨む。


「解ってる。……本当に、ありがとうミカさん。ありがとう…っ」


 笑顔をくしゃりと歪め、オーレンは静かに泣き崩れた。


「氷姫殿、貴重な魔法を魔獣達に惜しみなく使ってくださったこと、深く、深く礼を言う。同時に、一瞬でも貴殿を軽んじた非礼をお詫び申し上げる」


 二人のうちのもう一人、サカシータ家三男サンドはそう言って深々と首を垂れた。


「…えっ、私、軽んじられてました? 全く覚えがないんですけど」

「あなたはまた…。覚えがないだなんて嘘でしょう。ロクな挨拶もなく軽口を叩かれていたでしょうが」


 ザコルはそう言ってサンドのことも睨みつける。


「軽口ってどれのことですか。手籠?」

「その口で下卑たことを言うな」


 私まで睨まれた。訊いただけなのに。


 サンドは私を軽んじたというか、単にどんな人物か探っていただけだろう。軽口に対する反応を見れば、性格の一端くらいは掴める。

 私という人物に関してコマから事前情報くらいもらっていただろうが、それだけで『氷姫』なる怪しい人物の全てを見極めることは不可能だ。そんな人物に大事な魔獣達とミリナの交渉を預けなければならなかったのだから、当然と言えば当然の行動である。


「父上よ、この場に子爵邸の戦力を全て集め、女王の舞台を整えさせたのは誰だ」

「もちろん、そこのミカさんだ。時が来たらば自分が間に入り、必ず女王の立場を『分からせる』と」


 サンドはオーレンに向けていた視線を私に戻す。


「そうか、やはり貴殿が…。やけにうまくいったと思っていたのだ」

「そう大したことはしてませんよ。この度、私も女王のしもべに加えてもらったんです。我らが女王に逆らうなんて全く無意味で無駄なことですからね。あらかじめ人間の皆さんには弁えていただいた、というだけです」


 もし魔獣達が、この土地が『ミリナの自由にならない』と判断してしまった場合、彼らはこの地を『制圧』する気でいただろう。サンドとマヨは到着早々、それを止めるつもりでいたはずだ。魔獣軍団とサカシータ一族が戦った場合どちらが勝つのかは判りかねるが、周辺が無事で済まないことだけは確かである。


 なので、私はあらかじめ、子爵邸が『既に白旗を上げている』状態で魔獣達を迎えられるよう、作戦を立ててオーレン達に提案していた。その後、オーレンから子爵邸内の騎士や使用人に作戦の仔細が伝えられ、いつでも実行可能な体制が整ったのがつい二日前のこと。ジーロがこの邸に来た日だ。


 作戦名はコード・エム。エムはもちろんミリナのエムである。こっちの世界にアルファベットとか無いけど。


 当の女王であるミリナがその計画の趣旨というか、自らの影響力を全く理解してくれなかったのは不安要素ではあったが、最終的には彼女も『覚醒』してくれたし、計画自体はうまくいったと思う。


 ただ、古参の魔獣達が瀕死であったことは想定外だった。彼らはオーレンを始め、サカシータの人達が再会を渇望していた存在だ。ミリナがこの領に馴染む上でもきっと欠かせない存在にもなるだろう。彼らが生きてくれて本当によかったと思う。


 ちなみに、コード・エムはこれで終わりではない。まだまだ序章である。


「なるほど。もう一つ疑問がある。俺達が来るのを事前に察知していたな? 何かカラクリがあるのか」

「それは追々。私よりもオーレン様からお聞きになった方がいいかもしれません」


 サンドは再び父の方をチラ見する。


「ちゃんと話すよ、君にも」

「そうか、それはよかった。シュウからは、聖女に頼めば洗いざらい聴けると言われていてなあ、これ以上借りを作るのはどうかと思っていたのだ」

「………………」


 脅しだろうか、脅しだな。私が代わりに脅すことになっているのは引っかかるが。


「コホン、今更ですが、自己紹介をよろしいでしょうか。さっきまでは挨拶どころじゃなかったので。ザコル、降ろしてください」

「嫌です。女王の命令ですし」

「降ろしてくださいって、もう大丈夫ですから」

「嫌と言ったら嫌です」

「そのままで構わない、楽にしていてくれ」


 サンドが口を挟んだ。


「じゃあ、せめて縦にしてください。横だと話しづらいです」

「たった今、力が抜けたところでは?」

「もう大丈夫と言ったら大丈夫です」


 渋々、ザコルは横抱きから縦抱きに直してくれた。


 手を握りづらくなったのか、ジーロはザコルの背後に移動してまた私の手を握り直した。イリヤはザコルの前側から私の手を握ったまま離さない。もうずっと不思議な絵面である。


「お初にお目にかかります。私はミカ・ホッタ。異世界の日本という国よりこちらの世界に召喚され、現在はテイラー伯の庇護を受ける身でございます。そのテイラー伯セオドア様のご指示により、この冬は貴領、サカシータで過ごさせていただく予定となっております。どうぞ、よろしくお願い申し上げます」


 抱き上げられている上に手もふさがれているので目礼だけする。


「我が名はサンド・サカシータ。サカシータ子爵がオーレンと第一夫人イーリアの第三子にして、王宮魔法陣技師の補佐を拝命する者だ。…まあ、王宮魔法陣技師とかいう役職はなくなったも同然なので、俺も今はただの無職無官男だな。妻のマヨともども、よろしくお願い申し上げる」


 サンドは再び頭を下げた。




つづく

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