いい加減に反省しろこのクソ姫が!
私はとりあえず、近くで泣いている人に話しかけてみることにした。
「あの、ミリナ様。私が悪かったので泣き止んでくださいませんか」
「なっ、何が悪かったとおっしゃるの!? 古参の子達を救うためにご自分の魔力のほとんどを差し出してくださった。私、世話係として、ミカ様には一生をかけて恩をお返ししていかなければなりません。…………でも、でもっ、でもでもでも!!」
「やっぱり文句が」
キッ、ミリナは顔を上げて私を見据えた。
「文句などありません!! でも、私…っ、ミカ様が消えてしまうかと思ってっ、本当の本当に怖かった…!! 途中で何度も何度も声をかけたのに全然やめてくださらなくてっ、かっ、体の全てを細氷に変えてしまうかと、本当に…っ」
ああああ、とミリナが嘆く。
「そうよそうよミリ姉の言う通りよこのおバカっ」
その横ではオネエも号泣していた。
「アンタ、ミリ姉やザコルが声かけても『足りない、足りない』『絶対助けるから』ってずーっとうわごとみたいに言ってたの覚えてないの!?」
「えっ、そんなこと言ってました? あー…ちょっと必死だったからなあ…」
「ちょっと必死とかそういう次元じゃないのよこのバカ娘っ!! ザコルが無理矢理止めてくれなかったら本気で消えちゃってたかもしんないのよ!? 実際ちょっと揺らいでるみたいに見えて本気で焦ったわよ!!」
「揺らいで見えた…?」
本当に存在が消えそうになったんだろうか。いや、単にダイヤモンドダストの密度が高くて視界が悪かったせい、という可能性もある。絶対に後者だろう。
ミリナはしゃくりあげ、そして「これは懺悔でございます」と語り始めた。
「…私、お恥ずかしながらこれまで、ミカ様には何か目的があったり、ご自分やテイラー家の利を見越して私達の世話や、慈善活動を引き受けられているのだと思っていたんです。でも、昨日今日のことで痛感したわ、あなたは本当に、本当に『聖女様』なのよ!! 目の前の者に慈悲を与えずにはいられないのだわ、あの細氷の『あたたかさ』に触れたら、それが思い知らされて……っ」
わっ、ミリナとロットは再び泣き出した。
「やだなー、私、そんなピュアピュアな存在じゃないですよ。ミリナ様の方がよっぽど献身的っていうか聖女様らしいじゃないですか。ていうかちっともあたたかくなんかないですよね、むしろ寒くないですか? 気温めちゃくちゃ下げちゃいましたし。あ、上着要ります?」
「要りません!! ミカ様こそ何か羽織られてください!! ご自分が倒れかけたのをお忘れなの!?」
「そうよそうよ自分の顔色も分かんないのアンタッ!! 真っ白よ真っ白ッ」
「真っ白? そうですか? 私は別に寒くないんですけど。ザコルとミリューには魔力返してもらいましたし、もう大丈夫ですよ」
ミリナはハッとして自分の肩にかけられたマントを取る。そして私に巻きつけた。
「ザコル様、今日はもうその方を地面に下ろしてはいけませんからね! 大丈夫と言われても絶対にです!」
「ええ、承知しました姉上」
ミリナは私ではなく私を抱き上げているザコルに言いつけた。
「あの、今日は鶏ガラスープと角煮を…」
「せんぱあい、いいですかぁ、次やりすぎたらイーリア様んとこに連れてきますからねぇ? また監禁されてもいいんですかぁー?」
「はいすみません」
いつの間に接近されたのか、ギャルが耳元でドスをきかせてきた。
「あ、ウチにそんなこと言う権利ないとか思ったっしょ、思ったっしょ?」
「思ってません」
一度私を過労で殺しかけたくせになんて思ってません。
「…っ、先輩がまた消えちゃったりしたら…っ、ウチ、マジで今度こそ死んでやるからぁ!!」
「いや、あんたも一度死んでこっちに来たみたいなもんじゃ……はいすいません何でもありません」
また魔力を枯渇させそうになったのは悪かったと思う。でもそれだけといえばそれだけだ。初めてでもないし、こういう時のためにザコルに魔力を渡しているのだから。大体、ジーロなんて昏倒していたじゃないか。どうして私ばかり怒られて……
「……で、ジーロ様とイリヤくんは、何を」
「手をつなげば魔力をやれるんだろう、俺の魔力でもなんでもやるから消えるんじゃない」
「僕のまりょくもあげますからきえないで!!」
二人は私の両手をガッチリとふさいでいた。
「魔力使い切ったところで消えたりしませんよ。あと、私、ジーロ様やイリヤくんの魔力とは相性が悪いみたいなんですが」
「ザコルだって俺と相性が悪いと知りながらそれでも手を握ってくれたぞ!」
「僕はミカさまがどっかにいかないようにつかまえてるんです!!」
私の手が他人に握られているのに止めないんだろうか、と私を抱いているザコルを見上げたら、
「あなたが一秒でも早く回復するなら誰の手でも構いません。……と言いますか、いい加減に反省しろこのクソ姫が!」
と、余計に怒られた。
つづく




