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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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灼き払え!

「……あれ、君、何か元気ない? もしかして、他も…?」


 泣いていたオーレンが顔を上げた。彼は玄武以外にも集まった魔獣達を見渡す。


「お義父様、それは多分」


 ミリナが説明する前に、玄武自身が話し出した。


 グウグウ…。


「えっと、王宮の魔力搾取に長年さらされてきた。魔獣が減ったことで負担も増えたので皆弱っている、だそうです」

「ええ、そうよね、ここに来たらもう安心ですからね、ゲンブ」


 オーレンが顔色を変える。


「魔力搾取だって? 何それ、僕、知らないよ!? ミリナさんとミカさんはどうして知ってるの!?」

「私はミカ様から教えていただきました。小さくて弱い子には、大きな子が魔力を分けてやって凌いでいたのだと。それから私の魔力も少しは役に立っていたそうです。ね、ミカ様」

「はい。私はミイと、サンド様の従であるゴウからも聞きました。王宮の魔獣宿舎にいると魔力を取られるって。それから王都で暮らしていた民も、魔力を搾取された痕跡があるから見れば判別できるって」


「なんだと、まさか、王都にはそんな機構が隠されていたっていうのか…!? どうして知らされてない、知っていたら決して君達を王都になんかやりはしなかったのに……子供達だって!!」


 グウグウ…。


「えっ、ワシはもう長くない?」

「は!? 玄武がそう言ってるのかい!? 君の寿命はまだ先のはずだろう玄武!!」


 グウグウ…。


「ミリナの望みを聞けた、ひと目この地とオーレンの顔を拝めた、冥土の土産には充分すぎる…って」

「そんな、どうして…!」

「ああ、ゲンブ、あなたもなのね…。会えてよかった、あなたがいてくれてどんなに心強かったことか。ゲンブ、本当に、本当にありがとう…っ」

「玄武…すまない、すまない…!」


 ミリナとオーレンが玄武に寄り添って泣き出した。


「おいゲンブ、しっかりしろ! ここにくれば皆助かるはずだとコマに聞いたから俺は…!」


 サンドも玄武に取り縋る。


 イリヤが「ゲンブさん、しんじゃうの…?」とか細い声でつぶやく。タイタが彼をサッと抱き寄せる。ザラミーアとマヨ、ジーロも慌てて駆け寄ってきた。


「待って、待ってください亀様、じゃなかった玄武様。私の魔力ならいくらでもあげますからすぐに食べて……えっ違う!?」


 グウグウ…。

 王都の魔力吸収陣は朽ちかけ、不完全である。あちこちによくない力の凝りができている。それに長年さらされてきた者はもはや戦えぬ。


「よくない力の凝りって…」


 グウグウ…。

 何匹かは既に逝った。ワシにもその時が今……。


「ちょっ、本当に待っ」


 ミイミイミイ!!


「はいはいはい!! お取り込み中すいませんミイちゃんが何か言ってます!!」


 ミイとエビーが挙手する。


「どうぞミイ!!」


 ミイミイ!

 浄化必要!


 ミイは小さな手で寝癖頭のジーロを指差した。


「浄化、か? でもジーロ様は参ってんぞ、代わりは…」


 エビーはタイタとイリヤの方に視線を走らせる。


 ミイミイミイ…

 赤毛とミリナの息子、まだ未熟、今じゃない。


「よく分からんけどダメってことか?」


 ミイ。ミイミイミイ! ミイミイミイ!!

 そう。だからミカのキラキラドーム! 呪い灼き切る!!


「もしかして、姐さんのアレか!」


 ミイ!!


 この白リスとチャラ男、相変わらずノリだけで通じてるな…。


「ねえミイ、一応訊くんだけど、また泥に水を差すような真似にならない? あるいは泥がその辺に流出する心配は…」


 ミイミイミイ!

 細かいこと気にするな!


「ううーん、まあ、体内に溜まった毒素くらいなら大した量じゃなさそうだからいいのかなあ…」


 私は玄武と他の『古参』魔獣を見渡す。玄武も含め、数匹はじわじわと気配が薄れてきている気がする。どうやら、本当に細かいことを気にしている場合ではなさそうだ。


「よっしゃ、昨日ので慣れたし魔力も満タン、今なら特大いけるよ!!」


 ミイミーイ!!

 さっすがミカー!!


「さっすが姐さんだぜー!!」


 ウェーイ! と白リスとチャラ男が拳を上げる。


「エビー、ミイ、よく分かりませんがアレならば今ここでやらなくとも」

「ザコル、それが」

「ミカさん、もしやアレをやる気かい!?」

「アレをですか? アレをすればこの子達は助かるのですか!?」

「アレとは何だ氷姫!!」


 オーレンとミリナとサンドが縋るような顔で私を見つめる。ザコルは言葉を引っ込めた。


「ミイが言うにはアレで助かるらしいです。せっかくですから、ミリナ様は私に号令出してくれませんか。灼き払え! って」

「私が!? なぜ!?」

「気分の問題です。あと私、魔獣枠なので」

「ああ、それでそこにいらしたのですね…」


 先ほどまでの私の立ち位置はミリナの脇、決して人間側ではない。


「ええ。テイラーに帰る日まではあなたのしもべですよ、女王様」

「…ふふっ、全くもう、ブレませんね、ミカ様は」


 ミリナが涙を拭って立ち上がる。


「サゴちゃん! 一分後に始めます! 被害受けそうな人を避難させて!」

「りょーかいでーす」


 キキキィ!

 ジョジーも手伝うです!


 忍者と猿は一緒に動き出した。大勢集まっていた穴熊達も散った。


「…時間がないのですね、ゲンブ」


 グウ。

 ザコルの言葉に玄武が頷く。


 そろそろ一分だ。闇の力を持っているっぽい人々が充分距離を取ったことを確認する。


「ミイ、魔獣の中に闇極振りの子や、闇の力を使う子はいないよね」


 ミイミイミイ…

 闇使いの魔獣は強くて危険なヤツばっかり、イアンやサンドの使う陣の制約じゃ喚べない。


「ふむ。では問題ないね。みんな、私を中心に集まって……」


 ぎゅ、と肩を抱かれる。


「ちょっと、何でまだいるんですか。ザコルも離れてくださいよ」

「せめてここにいます。僕は闇の力が惜しいわけではないので」

「そうですか……はい、分かりました」


 ツルギ山から太陽が顔を出し、朝の光が鋭く訓練場に差し込む。


「さあ皆さん、女王様の最初の命令ですよ! お願いしますミリナ様!」


 彼女はこくりと頷く。




「やっ、灼き払えぇっ!!」




 少し裏返った声に口角を上げつつ、私は陽の光を両手で掬いあげる。瞬く間に手から煌めきがあふれ出した。私はそのまま上空へと光の柱を打ち立てる。限界までいくと、ぱあっと煌めきは広範囲に散った。


 範囲に当たりをつけた私は、斜め上、放射状に魔力を放出していく。私の魔力にさらされた水蒸気が次々と凍り、新たな煌めきとなって宙に舞う。目の前に集まった古参の魔獣達はもちろん、それ以外の若い魔獣達の上にも煌めきは降り注いだ。


 グウゥ…!

 おお若いの、ワシのめしいた目の代わりに見ておくれ…!


 玄武がミイにババ様みたいなこと言ってる…。しかし、彼はめしいているのか。後でその目も治せるか試してみよう。魔獣相手なら口外の心配もないし、こっそり治癒の力を使ったとて誰にもバレるまい。


 前にヌマの町でダイヤモンドダストを発現させた時は半径二十メートルくらいのドームしか作れなかったが、今回は半径五十メートルはいけたのではないだろうか。広いし眩しいのでよく見えないが。


『いつか、ダイヤモンドダストを起こしてみたい』


 最初はただ、氷結魔法が使えるようになったからと、少しの好奇心と、よくしてくれた人達へのサービス精神から言い出したことだった。

 それがまさか、誰かの命を救うことにつながる日がやってくるなんて。やはり人生で無駄なことなど一つもないのだ。


 さて、これだけ集まった大型魔獣達の呪いを灼き切り、かつ魔力不足を補うような魔力量とはどれくらいなのだろう。それが判らない以上、出し惜しみしている場合ではない。


 私は空中の細氷密度をさらに上げるべく、魔力を四方八方に放出しまくった。




つづく

ザコル「嫌な予感しかしない」

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