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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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我らが女王の天下を宣言しに行くか!

「サンドおじさま…っ、マヨおばさま!!」

「イリヤ! 我が甥よ!」

「イリヤさん!」


 サンドは雪上に膝をつき、勢いよく走ってきたイリヤを受け止めた。そしてマヨと二人で抱き締める。


「僕、僕ね、いっぱい楽しいことあってね、やさしい町でね、やさしい家でね、それからそれから…っ、うっ、ふえっ、ふわあああああん」

「そうかそうか、泣くほどいいことがあったのか。よかったなあ。少し背が伸びたか?」

「お顔もふっくらしたかしら。きっと毎日ご馳走なのね。本当に良かった……」


 ぐす、とマヨが啜り上げ、サンドはわしゃわしゃとイリヤを撫でる。ミリナはそんな二人に何度も何度も感謝の言葉を述べた。


「あのね…っ、ミカさまがね、カクニをまいにち作ってくれたんです。そしたら母さまがとってもおげんきになりました!」

「ミカ様、は氷姫様のことかしら。カクニって…?」

「エビーはアップルパイのてんさいでね! エビーとタイタとサゴシはね、いっしょにおふろ入ってくれてね!」

「エビーとタイタとサゴシ?」


 おふろ…。私は、忍ぶこともなく普通についてきたサゴシの方を見遣る。サゴシは視線に気づいて頷いた。


「あのダイヤモンドダストに比べたら大したダメージじゃないです」

「そう…。まあ、体力に余裕があるならいいんだけど」


 サゴシは私の魔力が大量に込められたものに晒されると、彼が生きる糧としている闇の力が中和されて死にそうになるタイプの人である。実際、私が起こしたダイヤモンドダストをモロに浴びた後に、死ぬほど体調不良に陥っていた。

 だというのに、私が沸かした風呂に入ったり、私が魔法で作った料理を食べたりするのは大丈夫なんだろうか……と思ったがまあ、本人が大したダメージじゃないというのなら自己責任だ。


「先生とおじいさまともおふろいっしょに入ったの、ザラおばあさまはね、ご本をよんでくれてね」

「先生?」

「先生というのは僕のことです。サンド兄様」


 ずい、突然横にやってきた人をサンドとマヨが見上げる。


「お? 誰……ああ、お前か。なんだ、あの変な服はやめたのか」

「変な、とは灰黒の謎服のことですか。別にやめたわけじゃないですが、テイラー伯のご子息がこの服を贈ってくださったので着ています。マヨ義姉上も、お久しぶりです」

「……? あ、ザハリ様ですね! お久しぶりです!」

「違います、ザコルです」

「えっザコル様!? 喋っ!? あの変な服はやめたんですか!?」

「別にやめ……はい、やめました」


 説明が面倒になったらしい。


「先にお伝えしておきますが、本日をもってこの里はほぼミリナ姉上の支配下に置かれました」

「はぁっ!? 私の支配下!? またそのようなご冗談を」


 キュルルウ!


「ミリューったら、冗談よ冗談、落ち着いて」

「ふーむ、まあ妥当だな。よし、我らが女王の天下を宣言しに行くか!」

「サンド様まで!? もうっ、あちらにはお義父様とお義母様もいらっしゃるのにっ、あまり失礼なことは」


 キュルルー!!


『グルアアアアアアアアアアア!!』


 ミリューの呼びかけで、他の魔獣達が一斉に雄叫びを上げた。というか『我らが女王おおお!!』と叫んでいる。


「ほら、あいつらは最初っからその気だぞ義姉上」

「なんてこと…」


 ミリナも魔獣達の本気度をやっと察したか、ふらりと後ずさった。私はそんな彼女の背に手を当てる。


「さあさあミリナ様、あっちへどうぞ。人間どもが女王のお言葉を待っております」

「ミカ様!? あっ、ちょっ、待っ」


 ぐいぐいぐい。


「ザコル様、この方がミカ様ですか!? 氷姫様で聖女様の!?」

「はいマヨ義姉上。僕がテイラー伯から護衛を任されたのはこの方で間違いないです」

「かわいい…!! こんなに可憐な方だったの!? 新聞を見て、もっと女傑のような方を想像していたのに!」


 止めてくださいマヨ様ー!! とミリナが叫んでいるが、マヨは私の周りをぐるぐる回るので忙しい。


「ほうほうザコルが手籠にしたと噂のお方か」

「サンド兄様! ミカの前で下品な表現は慎んでください。僕達は決して一線越えたりは」

「怪しいなあ。呼び捨てている上、無口のくせに必死になって否定なんぞして」

「違うと言っているでしょう! これだからサンド兄様は!」

「おいサンド、あまり揶揄うとぶっ飛ばされるぞ」


 ぬっ、もう一人会話に入ってきた。


「………おいザコル、今度こそ誰だ?」

「ジーロ兄様ですよ」

「ジロ兄!? あの、ツルギ山と同化していた!?」

「ああよかった、サンドは俺が領に戻って山にいるのを知っていたか。イアンのばかがな、俺が領を出てったっきり戻っていないはずだと言うのだ。果たしてそうだっただろうかと俺も不安になってなあ」

「はあ? あいつ、自分の婚儀に呼んだ兄弟のことも覚えてないのか。泥団子のような風体ではあったが一応出席はしていただろうに。ところでどうして寝巻き姿でいるのだジロ兄。それに…独創的な髪型だな。面白いじゃないか」


 ジーロの髪は、寝癖でとんでもないことになっていた。


「寝込んでいたところを叩き起こされたので着の身着のままで駆けつけた。しかし、お前に面白いなどと言われると一層不安になるな」

「俺の感性を信じろジロ兄」

「くふふっ、やっぱりジーロおじさまはサンドおじさまと仲良しです! それにおげんきです! よかったあ」

「はは、お前が手を握ってくれたおかげだ、イリヤ」


 いーこいーこ。


「ジーロおじさま、あとで僕がかみをきれいにしてさしあげます。僕、まじゅうの子たちのブラッシングもおてつだいしてるんですよ!」

「そうかそうか、お前は本当にかわいい奴だ。ぜひとも俺達でミリナ姉上を盛り立ててやろうな」

「はいジーロおじさま!」

「何をイリヤと仲良くなっているんだジロ兄、イリヤは俺の甥だぞ!」

「お前の甥は俺の甥だろうが。思考回路まで面白いことになったのかサンド」

「イリヤ、おかしな兄様達は放っておいて、姉上達を追いかけましょう」

「はい先生!」


 すたこらさっさー。


「こらザコル、俺を置いていくな」

「イリヤを連れていくな、だろうがジロ兄。ザコルお前、どうしてイリヤに先生などと呼ばれている?」

「シータイの子供達が僕を『ドングリ先生』と呼んでいたからです」

『なんだその面白い理由は!!』


 面白いことが好きらしい兄弟の声が見事にハモった。




つづく

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