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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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小悪魔気取りですか

 翌朝。

 まだ暗いうちにペータが私の部屋を訪れた。



「おはようございます。お約束通り、林檎ジャムとヨーグルト、グラスをお持ちいたしました」

「おはようペータくん。ありがとう。そこに置いてくれる?」


 私はローテーブルを指し示す。ペータがお盆から手際よく瓶や器などを並べ始めた。私が頼んだのはジャムとヨーグルトだけだったが、気を利かせてくれたのか蜂蜜も用意されていた。


「おはようございますペータ。寝られましたか」

「はい。お気遣いありがとうございます、ザコル様。始末自体は初めてではありませんから。…教わったのは、あのゴミ達からでしたが」

「そうですか」


 ザコルは、ペータが人の始末をするのが初めてだった場合を想定して『寝られたか』と声をかけた。こういう時になるべく『殺し』などの直接的な言葉を使わないのは、そういうお作法なのか、一応非戦闘員の区分にある私に対する配慮なのか。


 ペータの言うゴミの一人、つまり元執事長は当然だが、ペータも含む若い男性使用人達の指導も行なっていた。捕まったもう一人の男性使用人も比較的年長者だったので、指導側に回ることもあったのだろう。ペータにとって、ゴミたる彼らはかつての師でもあったということだ。


 そんな師達の始末を遂行したことによる彼の精神的ショックを慮るのは、始末を命じた本人である私の仕事ではない。私はザコルに目配せで礼を伝え、ザコルもまた小さく頷いてくれた。


「ねえ、ペータくんてさ、前に『まだ闇に堕ち切ってない』とか言ってたことあるよね。もしや、いわゆる闇の力について詳しい?」

「詳しい? まさか!」


 ペータは首を横に振った。


「…ですが、紛らわしい物言いをしたかもしれません。証明するすべはございませんが、魔法的な力としての闇の力については昨日初めて知りました。僕らサカシータの公僕の間では、影の職に入ることを『闇に堕ちる』とか『闇に入る』と表現するのです。影になった者は、自分を『光の存在』と区別するようになるものですから」

「光の存在?」

「言葉のあやです。明るくて皆に好かれ、陽の当たる道をゆく人をそのように表現しているだけで、魔法的な意味は特にありません」


 陽キャと自分を区別する陰キャみたいなことだろうか。影になる=闇に堕ちる=陰キャになる=陽キャを別世界の生き物だと思うようになる、そんなロジックか。いや、影になるとみんなもれなく陰キャになるってこと…?


「僕ら『闇堕ち』から見れば、ミカ様は多くの人に慕われる聖女、まさに光の存在であらせられます。僕にはあのダイヤモンドダストの輝きがその『光』の集大成のように感じられたのです。そのため『闇を灼き切る』ものだと表現いたしました」

「なるほど…」


 私が陽キャ的な存在かどうかはさておき。

 特に魔法的な意味がないというのなら、まさに厨二病的な意味で『闇』という言葉を使っていたわけだ。サゴシやメリーが受けたダイヤモンドダストショックも、ペータとしては百パーセント精神的なものだと考えていたのだろう。


「ありがとう、参考になったよ。また質問させてね」

「はい、何なりと。では、失礼いたします」

「うん。後でね」


 私達は林檎ヨーグルトフラッペを朝食にしたのち、ジーロの部屋に寄って、ぐっすり寝ているのを確認してから朝の鍛錬に向かった。






 訓練場の真ん中に、うちの影がドーンと構えて待っていた。今日の彼は忍ぶ気がないらしい。


「おはよサゴちゃん」

「姫様、ザコル殿。お二人は今日もかわいいですね」

「僕まで褒めてくれるのは相変わらず斬新ですね。君もかわいいですよ、サゴシ」

「好きになっちゃうじゃないですか」

「構いませんよ」

「………………」


 普通、ここは女子が褒められて彼ピが牽制する場面じゃないんだろうか。


「ぶっふぁ…っ」


 エビーが吹き出す


「姐さんのその目…っ」

「何で朝からヨソの男とイチャつく彼氏を見なきゃいけないのかなあ、って」


 じと…。ザコルを見つめたら、なぜかニヤリとされた。


「あまり褒められたことでないのは解っているのですが、その顔見たさに、つい」

「へえ、小悪魔気取りですか」


 私を嫉妬させて遊んでいるらしい。


「許してください、ミカ」

「別にいいですけど?」


 ぷい。そっぽを向いてみせると、いーこいーこと頭を撫でられる。



「…浄化」

「ひぇっ、やべ」


 タイタの睨みに、サゴシがシュッとエビーの背に隠れる。


「なんだ、タイさんも本気じゃないすね」

「ああ。当方、当て馬は地雷だったのだが、お二人の信頼関係がより際立つのであれば悪くないなと」


 タイタがサゴシに、にこ、と笑ってみせる。


「すんません節度は守らせていただきますすんません消さないで」

「はは、消すなどとはもったいない。そんなエコでないことはいたしませんよ当て馬殿」

「当て馬殿て」


 あの当て馬忍者、秘密結社幹部から公認されとる…。





 ぞろぞろ、訓練所に人が集まり始め、賑やかになってきた。


 ぎゅ、ぎゅぎゅ、と雪の軋む音、皆の白い息。

 淡紫色に染まり始めた空にはまだ星が輝いている。

 肺も凍りそうな程の気温の中で、私は叫ぶ。


「さあ、今日もはりきっていくよー!」


 皆がオーッと拳を突き上げた。






「こっちもだいぶ仕上がってんじゃない。流石はミカね、人をやる気にさせる天才だわあ」

『ロット様!』

「きゃー、ピッタ、ユーカ、カモミ、ルーシ、ティス! アンタ達も元気してたでしょうね!?」

「もちろんですよ! ロット様、どうしてこちらに!?」

「決まってんでしょ、アンタ達がいないとシータイも華がなくてつまんないんだものぉ」

「カズ様に言いつけますよ!」

「あらあ、厳しいわあ!」


 きゃっきゃ、うふふ。


 じと…。


「あらミカ、おはよう。何その顔」

「おはようございますロット様。女子と随分仲良くなったみたいじゃないですか」

「やあだ、嫉妬してんのお? アンタがシータイにいないのがいけないんじゃない」

「しょうがないじゃないですか! みんなが出ろって言うんですから。別に難民の相手くらいしたのに…」

「そう言いそうだから出されたんすよ姐さん」

「解ってるもん」


 ぶう。

 ミカ様かわいー、と女子達にいーこいーこされる。


「デレデレしてんわね…。ミカ、アンタ中身はエロジジイか何かなんじゃないの」

「さー、ロット様はあっちすよ。何女子に混じろうとしてんすか。ギャル様に言いつけますよ」

「ちょっ、まだ」


 迎えにきたエビーがロットを回収していった。


「ミカさま! たいそうからですか?」

「うん、じっくりやって体温めてから走ろっかイリヤくん。今日は新しい動きも取り入れまーす」

『はぁーい!』


 今日は女性陣の人数が多い。同志村女子と執務メイド達に加え、洗濯メイドや調理メイドからも数人ずつ参加している。洗濯と調理は本来忙しくしている時間帯だが、ここに参加しているのは休日組のようだ。

 もちろんミリナとイリヤ、ついでに魔獣達も参加者みたいな顔で並んでいる。隅の目立たないところにメリーもいた。


 ザコルが考えてくれた新しいプログラムを実演兼ねて取り組んでいく。

 大勢の前で体操するのも、以前は恥ずかしかったが今は慣れた。こういうのは、恥ずかしがらない方がカッコいいのだ。




つづく

ミカ「ギャルとギャルに椅子にされてた当主様はどうしたんですかねえ」

ザコ「気にする必要はありません」

当主「気にしなくていいけど気にしてよお!」

ギャ「ブイブイ(無言)」

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