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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ミカ触るな警察

 前回の続き。ロットが私の服を掴んでいるせいで、部屋に不穏な空気が流れ出した。


 だが周りよりも私に直接指摘される方がロットも落ち込みそうだし、ロットがザラミーアに怒られるネタを増やす気がする。と、ここまで考えてゼロコンマ二秒。結論は出なかった。


 そうこうしているうちに私とロットの間にいくつもの手が差し込まれる。ああ遅かった、ミカ触るな警察がいっぱい……




『ロット兄様、そろそろミカを離してください』




「へっ」


 馴染みのある気配と声が二つ重なって、ハウリングを起こしたような感覚。まるで、双子が同時に同じセリフを言った時のような…。



「…えっ、今の声、一方はマネジ殿すか?」

「は、マネジ殿!?」


 差し込まれた手は、ザコルとエビーとタイタ、ロット警戒中のイリヤ、そしてなぜかマネジの五人分だった。

 皆に目を丸くされたマネジがハッとする。


「……すっ、すすすすみません! しばらく猟犬様になりきっていたクセでつい!!」


 ぺこぺこぺこ、マネジが手を引っ込めて高速で頭を下げる


「やっべ、今の似てるとかそういう次元じゃなかったすよ!! まるで…」

「先生がふたりいるみたいでした!! エセ先生です!!」

「っすよねえ!!」


 エビーとイリヤがはしゃいでいる。


「マネジ!! それよ、その感覚よ、今の殺気、声、セリフ、今度こそ完璧にザコルだったわ…!! アンタに足りなかったのはそれなのよ!!」


 注意されたはずのロットまではしゃいでいる。


「そっ、そうでしょうか、今のは全く無意識に出たセリフで」

「無意識ですって? ふふ、恐ろしい子…!!」


 あれ、某先生の幻覚が…。ドングリ先生じゃない方の。


「ねえミカも今ザコルが二人いるって思ったでしょ!? 思ったでしょお!? ねえミカ!?」

「ミカ?」


 反応の薄い私をザコルが覗き込む。


「姉貴、固まってねえすか。よく見たらタイさんも」

「ミカさま、どうしたんですか」

「……な、なんでも、ない、えっと、えと」


 どうしよう、思ったより、というかかなり動揺している。

 そんな私の挙動不審を『不興』と取ったか、マネジが顔色を青くした。


「こ、ここ公式聖女様! 驚かせて申し訳ございませんといいますかご本人を呼び捨てにするとはなんたる不敬!! 処罰は如何様にもなさってください!!」


 ぺこぺこぺこぺこぺこぺこぺこぺこ。


「だ、だいじょぶ、です、ほんとびっくりしただけで、も、もー完璧2.5次元! すご、ねえタイタ、ふへ、へへへ……」

「そ、そうでござい、ますね、ミ、ミカ殿、あ、あまり大丈夫そうには、か、かくいう俺も、は、はは」


 ギクシャクギクシャクギクシャク。


「? ミカもタイタも一体何に動揺しているんですか。確かに再現度は高かったのでしょうが、君達ならむしろはしゃぐところでは」

『ふべえ』

「なぜ泣く!?」


 どぱ、と涙をあふれさせた私達にザコルが思わずといった感じで引いた。


「だだだって今完全に誤認したんです他ならぬザコルが目の前にいるのにどっちがどっちだか一瞬分かんなくなっちゃってそれが恐怖すぎてもうもうもう」

「お、俺もザコル殿以外の存在にここまで動揺したことに動揺していると申しますか全く混乱中で」

「落ち着いてください、ほら、僕は僕ですから、こっちを見て」


 私達はほぼ同時にザコルにロックオンした。


『ほんものだあうわあああああん』

「だからなぜ泣く!? タイタまで抱き付かないでくだ、ミカも頭に巻き付かな、ええい離れろ!!」


 わーわーわー……




「はあ、全く何なんだ…」


 もみくちゃにされて乱れた服や髪を直しながらザコルが独りごちる。


「改めて申し訳ございませんでした…。まさか、殺気を再現できただけでここまで動揺させてしまうとは。他の同志たちへの披露も考えた方がよさそうですね」

「そうかもしれませんね、僕にはよく分かりませんが……ミカ、落ち着きましたか?」

「はい、すみません」


 ザコルは呆れつつも、グズグズと泣く私を二人掛けのソファに座らせ、ずっとヨシヨシしてくれていた。やさしい。


「ミカ、アンタって、ザコルのことになると意味のわかんないことですぐ泣くわよねえ…。タイタもだけど」


 タイタの方はエビーとイリヤが宥めている。


「…………ロットさん。お覚悟はよろしいわね」


 急に、私達の向かいに座ったザラミーアが顔を上げた。私達をソファの後ろから覗き込んでいたロットが「ひゅ」と喉を鳴らす。


「ま、待って待って待って、な、何のことかしらザラ母様!」

「お分かりにならない? あなた、うちの機密を何だと思っているのかしら?」

「な、何が? 機密? 何のことやら」

「もし本当に意味が解らないのであればもっと問題よ。再教育が必要なようですわね」


 ニコォォ。


「なっ何も知らないわ! 何も知らないわよおおおお」


 大きな図体でビビり散らす六男、サカシータ騎士団団長様である。いや、ビビり過ぎではなかろうか。

 そんなに怖気付くくらいならもっと考えて行動すればいいのに…。


「そんなに怖気付くくらいならもっと考えて行動しろロット」


 私の心の中を見透かしたように言ったのは、眠そうな顔のジーロだ。


「解らんのか、『来るのが早すぎ』なのだ。それでは『悪さ』したと白状しているようなものだろうが」


 ジーロはそう言って、はて、と首を傾げた。


「…俺が一日以上寝ていたわけでは、ないよな?」

「あ、大丈夫ですよ。数時間くらいしか寝てませんでした」

「おおそうか。急に不安になってしまった。倒れてから全く記憶がないのでなあ……ふぁ」


 ジーロは伸びをしながらまたあくびをした。


「来るのが早すぎ!? 悪さって何!? あたし悪さなんてしてませんけど!? てゆーかジロ兄倒れたの!?」

「そこは聞いていないのだな。まあ、あまり詳細を聞き出すのは難しいか……ふぁぁ。うん…」


 ごしごし。ジーロはまた目をこする。ザコルはそんな彼の背を押し、ベッドに座らせた。


「ジーロ兄様。少し横になってください。ナラ、まだ渡せそうですか」


 くうん…。

 先ほどジーロに魔力を分け与えていた魔獣のナラは、どこか申し訳なさそうに耳を垂れた。


「無理しないで、ナラ。君は自分で食べることもできるよね。補給して万全になったらまたジーロ様に分けてあげてくれない?」


 くうん!

 食べる!


「食べる、私が垂れ流してるのを食べる? それとも何か作ろうか?」

 くうん、くうん。

「牛乳ね、分かった。温めてあげるから待ってて」


 ナラは嬉しそうに私の後をついてきて、器に牛乳を注いで温めるのを見ていた。

 この子、シカ科だとばかり思っていたが実はイヌ科なんだろうか。元々ツノはないが、てっきり子鹿かメスだとばかり…。


「ナラ、魔力あげちゃったからお腹空いてたんだね、気づいてあげられなくてごめん」


 くんくん。

 だいじょぶ、魔力高い人間ばっかり。ちょっとはもらって食べてたよ。


「確かにねえ…」


 部屋の中を見渡す。サカシータ一族やその他貴族出身者、平民だけどどう見てもタダモノじゃない武器職人の息子など、そうそうたる顔ぶれである。比較的魔力が少なそうなのはエビーくらいだ。


 ミイミイ!

 あの金髪もちょっとは高い!


「? ああそっか。ふふ、ミイはエビーがお気に入りだもんね」


 わざわざフォローしに来るなんて。もしや、魔力の高い低いで差別するとでも思われたのだろうか。この世界ではそもそも魔力を感知出来る人間が少ないので魔力由来の差別は起きづらそうだが、そういう価値観が蔓延る世界もどこかにはあるんだろう。


「大丈夫。ミイが心配するようなことは考えてないよ」

「何すか、ミイちゃん、俺んこと気に入ってんの」


 ミイミイ!

 ノリでつーじる!


「ふは、俺らノリで言葉通じる仲だもんな」

「本当に何となく通じてるのがすごい」


 チャラ男と魔獣の友情の賜物だ。


「ジーロおじさま、僕が手をにぎってあげます!」

「おおイリヤ、そうかあ、お前も叔父想いだったのかあ…」

「俺もこちらで握りましょう。少しは回復なさるはずです」

「はは、タイタ殿まで。いつの間に俺はこんなに慕われていたのだ」

「ジーロ様、近しい質の魔力を持った人同士では、肌を触れ合わせると魔力を譲渡できるのだそうですよ」

「ミリナ姉上……ああ、そうだったのか」

「ミイ、タイタさんとイリヤがあげすぎてしまわないように見ていてちょうだい」


 ミイ!


「ジーロ様、よかったら蜂蜜牛乳をどうぞ。お昼から何も飲み食いしてないですよね、寝ちゃう前に少しでも口にしたほうがいいと思います」

「姉上、ホッタ殿も…。気遣い痛みいる。ふぁ…」

「ジーロ様、その格好じゃ寝にくいすよね、寝巻きと、清拭の用意も持ってくるよう頼んできましょーか」

「エビー、お願いします。ジーロ兄様、あと少し我慢を。厠は行っておきますか?」

「行く…」


 バタバタ。


「ねえ、誰か、本当に、あたし…っ」


 ガタ。

 ついにザラミーアが立ち上がった。ロットがサーッと顔色を悪くする。


「ロットさん。皆さんのお邪魔よ。ジーロさんがお休みになるの。あなたはこちらへいらっしゃい」


 ニコォォォォォ。


「…ひゃい」


 ロットは半ば連行されるような形でザラミーアと共に部屋を出ていった。




つづく

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