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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ついに忍ばなくなった……?

 じ…っ。


 ザコルがこっちを見つめている。やらかした自覚はあるが後悔はない。


「えっと、顎クイはザコルの真似ですよ。ペータくん相手にやってましたよね」


 後悔はないが思わず弁解してしまった。


「僕は意図的に堕とそうとしてやったわけではありません」

「結果が同じなら同罪じゃ…」

「恥を忍んで言いますが、僕にも『せいぜい私の側でいい子にしてること』と言ってくれませんか」

「えっ、ついに忍ばなくなった……?」

「恥は忍んでいます」

「そっちは忍んだらダメな方」


 コホン。ザラミーアが咳払いする。


「もっ、申し訳ありませんザラミーア様」

「いいえ、ミカが謝る必要はないわ。むしろ息子が申し訳ないとはこちらのセリフよ」


 はああ、とザラミーアは自身の眉間を揉んだ。そして私に着席を促した。

 交渉とやらはまだ続いているんだろうか。忘れてくれて全然構わないのに。


「で、ホッタ殿は『この邸の不手際』を何と引き換えに許してやるつもりだ」

「へっ、ジーロ様」

「なんだか知んないけど弱み握ったらしいじゃない。せいぜい法外なモノ請求してやんなさいよ」

「ロット様まで」


 忘れさせんぞとばかりに援護射撃が飛んできてしまった。


「当然のようにミカの味方をするのね、うちの息子達は」


 ぷく。ザラミーアが頬を膨らませる。かわいい。私はあっちの味方をしたい。ぜひともこの話、うやむやに……


「だってザラ母様、しょうがないじゃないの。あの元メイドの扱い見てたら解るでしょ、この子ったらとんでもないお人好しなのよ。どーせ今だってどうやったら話がうやむやになるかってフル回転で考えてるに決まってるわ!」


 なんでバレたんだろう。


「この場でちゃんとさせとかないと、いい加減こっちは『借り』まみれになるわよ。ザラ母様が借りを借りとも思わないなら別だけれど?」

「見くびらないでちょうだい。大体、借りまみれなのはあなたでしょう? ロットさん」

「うっ、そっ、そうよっ、だからミカにこれ以上借りとか作らせたくないのよっ!」

「私だって作りたいなんて思っていないわ。何を勘違いなさっているのか知らないけれど、私だってミカの味方役がしたいのにずるいと思っただけよ!」


 味方が入り乱れている…。私達は一体何と争っているのだろう。


「そうよ私だって、私だって…っ、ミカが欲しがるならこの邸ごとくれてやればいいって言いたかったわ!!」

「ははは、豪気だなあザラミーア。もらっておけホッタ殿、望み通り話をうやむやにできるぞ」

「いえ邸ごとはちょっと」


 物件は流石に手に余る。というかこの邸をもらったりなどしたらここの当主になったも同然では、いや、それが狙いか?


 私はうーんと考える。とりあえず家土地以外のものでお願いしたい。金銭もいらない。かといって物では相当な品でなければ納得してくれなさそうだ。一つ、考えていたことはあるのだが、当主不在? のまま請求していいんだろうか。


「あのかたまりに忖度する必要はありません。文句があれば口を出すくらいの能力はあるはずです」

「ザコル……」


 ザコルは、かたまり、もといカーテンをかぶって気配を消しているオーレンと、その上にちょこんと座ってブイブイとピースサインをかましているギャルの方を指差した。あれ、口を出そうにも動けないんじゃ…。


「うーん、一応あれでも同席している? ことにはなるんでしょうか…。コホン。では、あちらの『かたまり』様の能力に関する秘密を『私達』で共有する許可を請求いたします。私の秘密は実質サカシータ家で共有されていますから、それでおあいこってことで」

「いいわ、とすぐにでも言ってあげたいところですが『私達』の範囲を教えてくださるかしら」

「はい。テイラーから来た騎士二人と影一人、それから元従僕と元メイドの二人。それから、穴熊さん達はもう既に知っていそうですが、一応数に入れてもらいましょう」

「穴熊を…」


 視界の端でロットがにやりと口角を上げた気がした。


「おいそれだけでいいのか。察する限り、貴殿の抱える秘密の漏洩があの『かたまり』の能力の開示くらいで釣り合うとは思えん。そうだな、俺は今日行った場所のことも堂々と議論したい。共有を請求しろ」

「ジーロさん! もう、勝手に決めないでくれるかしら。流石に、あの場所の話を地上でするのは…」


 ザラミーアは窓際の『かたまり』を振り返る。かたまりは黙したままだ。


「いいではないか。あの場所のこともホッタ殿の提示する『私達』の半分以上には実質共有されている。今更許可したとてさして状況は変わるまい。なあ、ザコルよ」

「ええ、そうですねジーロ兄様」


 そんな秘密は秘密でなくしてしまいましょう。『深部』に侵入する際、ザコルが言った台詞が頭によぎる。

 彼は、意図的に影の三人やジーロを巻き込んで『深部』に突入した。彼なりの、真面目に悪さする、の一環だったのだろう。


「ザラミーアよ。どうせこの弟には何もかもバレているのだ。条件をつけて請求してくれるなど、むしろ慈悲以外の何物でもない。せめて色をつけて渡すくらいでないと、ロットの言う通り『借りまみれ』になるぞ」

「……そうね、全くもってあなたの言う通りだわ。ミカ、情報の開示だけでよろしいの、よろしくないわよね、もっと他にも」

 ぐいぐい。

「圧…。いえ、今は特にありません。あ、鶏ガラスープを作りたいので料理人をアドバイザーとしてお借りしてもいいでしょうか」

「スープですって? またあなたはそんな、何の利にもならないことを…」


 ザラミーアはそう言ってまた眉間を揉んだ。利にはなる。理想の出汁巻き卵に一歩近づける。


「使用人にはいくらでも用事を申し付けて構わないと言ったでしょう。というか、厨房はあなたが作った料理のことでもちきりだったわ。そのあなたが直々に助力をなどと言えば、誰もが喜んで応じるに決まっています」

「それはよかったです」


 シータイの町長屋敷の料理長もそんなノリで協力してくれたことを思い出す。この領の料理人はみな好奇心旺盛なんだろうか。初めて見る異国料理など、忌避感を示す人がいてもおかしくないのに。

 …あ、そうか、オーレンが色々作らせるから慣れているのか。


「ミカったらまた新しい料理作ってんのね、あたしにも味見させなさいよ!」

「ふふ、もちろんですよ。ロット様もこのお家のお子様ですからね、あの食材をいただく権利があります」


 肉類や卵は、ザラミーアが子や孫のために何か作ってやってくれと仕入れたものだ。


「エビー、エビー」

「何すか兄貴」

「君もパイかケーキを作ってください。僕が食べたいので」


 かわいいお願いしてる人いる。ウチのピだった。ほっこり。


「ふはっ、呼びつけたかと思えばそれかよ。じゃ、みんなでやりますかあ。ね、ミリナ様」

「えっ」


 エビーは先ほどから他人事のような顔で黙っているミリナの方を見て言った。


「イリヤ様もやりますよねえ」

「うん! やる!」

「ミリナ様も、そろそろ世話焼かれるのにゃ飽きたんじゃねーすか?」

「…っ、それは」


 へへっ、とエビーは笑ってみせる。イリヤは母の服の裾をちょいちょいと引っ張った。


「母さま、いっしょにおりょうりしましょう! ミカさまとエビーはてんさいなんです! シータイのりょうりちょーもいってました!」

「それは知っているわ、でも」

「僕、母さまに食べてもらうだけじゃなくって、いっしょに作りたかったんです! 母さま、おげんきになったもの、いいでしょう!?」

「うぐっ」


 イリヤの純粋無垢なるおねだり攻撃! 効果はばつぐんだ!


「ミカさま、いいですよね!?」

「もちろん。ミリナ様、もしよろしければ、角煮を一緒に作ってみませんか」

「えっ、あのカクニを!? いいのですか!? 実はとっても興味があったんです! あの美味しいお肉料理がどうやってできているのか!」

「ふふ、決まりですね」


 私は心のどこかで、ミリナのことを未だ病人扱いしていたのだろう。下僕だお姉様だなどと言って勝手に世話をしている気になっていたが、それこそが烏滸がましい考えだったのかもしれない。それでもしミリナに疎外感を感じさせていたとしたら、メリーに気を遣わせたのと同じく私の責任だ。


 これからは積極的に、というかやや強引にでも巻き込んでいくことにしよう、と心に決めた。


「あの、ミカ様? 私、今日はミカ様に随分と無理ばかり言って困らせましたわよね、これも『借り』だと思うのです。ですから、ぜひ私にも何か請求を」

「ミリナ様にお手伝いいただくならぜひレシピブックも作ってお渡ししたいなあ。ああお揃いのエプロンとか縫いたい! ユーカ達に生地も持ってきてるか後で訊きに行こ。ふふふ」

「あの、聴いていらっしゃいます? 私に何か請求を」

「姐さん、おい姐さん、聞いてんすか、ミリナ様が何か言ってますけど」

「一緒にお料理、ふへへへへへへへへ」

「ミカ様! あの!」

「聴いてねえな…」


 お姉様と一緒にお料理。なんと魅惑の響きだろう。

 明日はぜひ平和に過ごそう、決して尋問や呪いのことなどは考えまい。


 私はそう心に決めた。




つづく

ザコルとタイタ以外、壁になりきってるオタクのことを完全に忘れています

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