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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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せいぜい私の側でいい子にしてること

「壁になりたいという願いは叶いましたね、辺境エリア統括者殿」

「ああ、藪に潜むのもいいけれど壁は格別だよ執行人殿。しかもここは何と言ってもあのサカシータ子爵邸!! ツルギ山を約四百年も外敵から守ったという難攻不落の城!! その石壁の一つに僕は今なりきっている…!!」

「ええ、ええ、全く語るに尽きぬ壁です。ではそろそろザコル殿もお待ちですし、紅茶もお淹れいたしますから同席なさっては」

「どど同席!? ああして抱き合って微笑み合っているお二人に至近距離で対峙しろと!? 魂が浄化されて一片も残らないに決まってる!!」

「あのお二人ならば浄化で滅するというより、抜けない沼に魂ごと落としてくださいますよ。ご安心を」

「何が安心!? どこに安心する要素が!? というか僕は随分前から沼にハマって動けなくなってるよ!?」

「俺もです。ご安心を」

「だから何が安心なんだ!!」



 壁相手に雑な会話を繰り広げるタイタを横目に入れつつ、私はザラミーアにそっと切り出した。


「ザラミーア様、何かお話があったのでは」

「ええ。この邸の不手際について、交渉の席につくつもりでした」

「あー…」


 邸の不手際を当主陣と交渉する、先ほど私が言い出したことだった。不手際とは、シータイの元使用人と執事長が、私に治癒能力があるとイアンに勘付かせてしまった件である。


「それは別に」

「交渉はいたします。せっかくミカがする気になったのですから」

「あれはペータの負担を軽くしたいがための言葉のあやと言いますかしかも関係者全員檻の中で特に実害はな…はい、すみません交渉しましょう」


 結局ザラミーアの圧に負けた。ザコルの顔を見たら満足げに頷いている。何か交換条件でものませたいのかもしれない。


「交渉の前に一つ報告があります。実は、罪人同士がどう情報交換したかは未だ定かではありません。私としては、元従僕や元メイドが関わった可能性も無きにしも非ず、と考えておりました。ですが、ミカはそうお考えでないようですね」

「それであの子達を連れて来たんですね。でもまあ、そうですね、仮にあの子達に害意があったとしても、既に囚われている『罪人様』を焚き付けるメリットは無きに等しいかな、と思いますので」


 もしもペータやメリーを疑うとなると、あの二人の世話を実質請け負っているサゴシの監督手腕も問うことになる。サゴシに害意があるならともかく、彼があの二人の動きを見逃すだろうか。正面切っての実力はもしかしたらメリーあたりが一番かもしれないが、影としてのキャリアやテクニックはサゴシの方が断然上だろう。


「おっしゃる通りね。ですが、側に置き続けることは私個人として反対しておきます。これまでの『粗相』からして明らかですが、あれらはまだまだ未熟で、判断を間違うこともあるのです。他ならぬあなたの身辺を護らせるに足るとは思えないわ」

「まあ、育成も含めて預けていただいたと思っていますよ。元々、彼らの命乞いをしたのは私ですから。責任持って最後まで面倒を見ます」


 せめて、彼らが周りの信用を得られるようになるまでは。とはいえ優秀な子達だ。私は居場所となれればそれでいい。


「もう、お人が好いわねえ」

「私も周りに恵まれたくちですから……」


 そこまで言って、私は部屋の隅に控える少女の方を振り返る。しまった。


「メリー、おいで」

「は」


 私はザコルの膝から降りて立った。ザッ、メリーはそんな私の足元に跪く。


「発言をお許し下さいますでしょうか、ミカ様」

「うん。どうぞ」

「今のお話、拝聴いたしました。面倒を見てくださるおつもりでいると」

「まあね、でも君は実力があるからね。護衛や鍛錬の相手としては充分頼りになると思ってるよ」

「ですが奥様のご懸念はもっともかと。己の未熟さは誰よりも自覚しております。姉のことも、結局言い出しづら…いえ、報告義務を怠っておりましたし」

「言えなかった理由はさっき聴いたし納得したじゃない」

「しかしこれ以上、神たるミカ様のご負担になるのは…!」

「私は神ではないのだよ」

「いいえ神です! 本来、矮小で愚鈍な私がお仕えするようなレベルにない尊きお方で」

「…あのさ、君はもう、私のものなわけよ」


 ひゅ、とメリーが息を飲んで私を見上げる。

 あまり過激なことを言うつもりはなかった。がしかし、世話をするなどと言って気を遣わせたのは私の責任だ。


「今なら庇ってあげられる、そう約束したね」


 メリーが私を拐い、しかしメリー自身も共犯の青年に裏切られたあの時。私はそうメリーに約束し、彼女を味方に引き込んだ。


「…はい。ですが、あの時は、ミカ様ご自身もそう約束せざるをえない状況だったのでは、ございませんか…」


 言っていて自分でしゅんとうつむくメリー。こうして感情を露わにするところは、ちゃんと十五歳に見える。

 …ああ、こんな顔をさせるくらいなら、狂信者でいてくれた方が全然いい。神でもなんでも演じ切ろう。やっと腹が決まった気がする。


「私、その場しのぎの約束はしない主義なんだよ」

「ミカ様がご自身の正義を貫くお方であることは承知しております。ですが、私もやはり罪人で」

「罪人だろうがなんだろうが、君は私の味方になった。もう離してあげないから」


 くい、彼女の顎を指先で持ち上げる。


「ひょぇ」

「せいぜい私の側でいい子にしてること。解った?」

「わ、わわかましたた」


 メリーの動きがカクカクになった。あれ、これって神様じゃなくて女王様か…?


「コホン。でさ、君のお姉さんだけど、これ以上の詮索はしない。私がどうにかしてあげる義理もないからね。それでいい?」

「そ、それはもちろんでございます! ぜひとも御身をご優先ください!!」


 いや、どんだけメリーの姉は危険人物なんだろうか。未経験なのでよく知らないが、妊娠出産とは体力を消耗するものじゃないんだろうか。それを二度も経験し、おまけに地下に収容されていては間違いなく体力は衰えているだろう。私の身に限って言えば、そう警戒することもないような気もするのだが…。

 まあ、家族が面会謝絶だというのを無理に押し切るつもりは元よりない。


「たださ、子供達に関してはザコルだけでも接触を許してあげてくれない? どういう風に育ってるかは知らないけれど、公平は期したいはずだから」

「承知いたしました。本来、ザコル様はもちろん、ミカ様がお望みであれば私がお止めする理由はございません。どうぞお心のままに」

「いいんだよ、止めたって。君も私の護衛の一人なんだからね。懸念があれば隠さず言いなさい。これも命令だよ」

「はっ」


 メリーは子供達に会うことに関してはそれ以上意見を言うことはなかった。護衛として、子供達に会うだけなら危険はない、と判断したのだろう。


「ねえメリー、ペータの様子見てきてくれない? 必要があれば後始末も手伝ってやって」

「仰せのままに」


 シュッ。彼女は実に影らしく、その場で跳び上がって消えた。




つづく

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