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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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アンタ達元気でしょうね!?

 ドンドンガチャバターン!


「ミカあ!! ザコル!! アンタ達元気でしょうね!?」



 盛大な物音を立てて登場したのは、サカシータ騎士団団長、ロット・サカシータその人であった。ちなみに今は団長職を謹慎中だ。


「ロットさん!! ノックは」

「ちゃんとノックしたわよ! 先触れも出したし! お利口でしょ、ザラ母様!」


 にこーっ。子供のように褒めて褒めてと笑うロットにザラミーアが「うっ」と言葉を詰まらせる。


「ザラミーア負けないでよ、君は本当に息子達に甘いんだから…」


 オーレンの言葉にザラミーアが「んんっ」と咳払いして立て直した。


「先触れを出したのはお利口よ、でも、ノックしたら返事があるまで待つのよ、それくらいはお分かりでしょう?」

「だってだって楽しみだったんだもの! もーあたしシュウ兄のフリは飽きたわ! 父様、そこどいて!」

「ちょっ、ロッ」

「きゃーっミカ! 本物だわあ!! もーアンタってば、相変わらず見た目だけは最高にかわいいわねえ!」

「えっ、えっと」


 迫り来る大柄マッチョオネエ、もといロットの迫力に私は言葉が出てこなくなった。

 そんな私とロットの間に、エビーとタイタ、そしてメリーが身を差し入れる。メリーは黙って短剣の柄に手をかけた。…あ、私がお小遣いで買ってあげたやつだ。よかった使ってくれてて。


「ロット殿、ミカ殿がお困りです」


 ニコォ、タイタも笑顔で圧を強める。


「なっ、何よかわいいって褒めてるだけよっ」

「ロット姐さん落ち着いてくださいよ、ウチの姫はぐいぐい距離詰められるの実は苦手なんすから」

「え、そうなの? そうだったの…」


 しゅん。


「落ち込まないでください、別に嫌なわけじゃないですから。ロット様、お久しぶりですね。と言っても十日ぶりくらいですが」


 しゅた。ロットはすぐに立ち直った。


「たった十日でも寂しかったわよ! でも影武者の完成度が高すぎて、いないのにずっといたみたいな変な感覚もあるんだけど…」

「ふふっ、皆さんで仮装コンテストしたらしいですね。私部門でピッタが一位を取ったとか」

「そうなのよ、コマは別格すぎるけどピッタもなかなかのバケモンよ。他領の工作員にこれ以上花持たせてなるもんかって町民どもがマジになっちゃって、おかげでどこ行ってもミカの気配がすんのよ。どうなってんのよウチの関所町は!」

「あはは、私以外の影武者はどうですか、エビーが二十人くらいいるって聞いたんですけど」


 んふっ、堪えきれなかったのかミリナが小さく吹き出した。エビーが二十人は何度思い描いても笑うしかない。


「うーん、エビーは数ばっか多い割にみんな練度低いのよねえ。ザコルの影武者はマネジ以外やる気ないし、タイタは後援が強すぎて本人達が緊張しすぎだし……あ、そーよ。アンタんとこのあのキモチワルイ影! あの影の影武者やってる酔狂なヤツがいるんだけどそれがメッチャクチャ似てるのよお! 見せてやりたいわあ!」

「えっ、サゴシに似せてるんですか、それは酔狂っていうか本物のバケモノじゃ…」


 サゴシの掴みどころのなさはザコルの折り紙付きだ。普段は潜んでいるだけに、観察するだけでも大変な役どころである。


「もーね町民も避難民も同志も士気高すぎてドンドンレベル上がってるし、今のシータイなら国獲りもイケそーよ。ほーんとアンタってば人をヤル気にさせる天才よね田舎の関所町を何魔改造しちゃってくれてんのよアカイシの砦一つ一つに慰問してくんないかしら」


 べらべらべらべら…


「ぶはっ、ロット姐さんは相変わらずすねえ!」

「何よ本物のエビー、そーよ、アイツらこの軽さが表現できてないのよ。所詮田舎モンなのよねえ、どうしたって都会の若者になりきれないっていうか」

「いや、軽さに田舎や都会は関係ねーっつうかそれはどうでもいいんすけど、来たばっかでよくそんな喋り倒せますねえ、ザコルの兄貴の圧とか気になんねーんすか。メンタルがプリンからクッキーくらいに進化したんすか」

「誰がメンタルプリンよっ!!」


 メンタル豆腐、をこっちの世界ではメンタルプリンと表現するらしい。今知った。

 ちなみに、ロットが初手で私に迫った段階で、ザコルはずっと私を背後から抱き締めて拘束している。ゴゴゴゴ、という幻聴も添えて。


「自分でも変なこと言ってんのは解ってんのよ? でも、この遠慮忖度なしの殺気と独占欲、なんか逆に安心しちゃうのよねえ。やっぱりザコルはこうじゃなきゃ。マネジもこれだけは再現できないのよ、それ以外は完璧なんだけど」

「ロット兄様、影武者の話から離れていただけますか。まずは僕ら以外の方にご挨拶なさっては?」

「そーだったわ。あ、義姉様お元気になったのね! イリヤも……アンタ、相変わらずあたしにだけはゴミ見る目よねえ」

「イッ、イリヤ! ロット様、申し訳ありません!」


 胡乱な瞳でロットを見上げるイリヤに、ペコペコと頭を下げるミリナ。そんな二人にロットはカラカラと笑って手をパタパタ振った。


「やーねえあたしに謝る必要なんかないわよ、ていうか敬称も敬語も要らないわ! 義姉様はあのイアンのばかに代わってウチの長子やってくれるんでしょ? ミリナお姉様ってお呼びしてもいいかしら! あたし妹も欲しかったけどお姉様も欲しかったのよお!」

「お、お姉様、いえ、私、長子に代わろうなどとは決して」

「ていうか、ベッドに座ってる貴族? あれ誰よ、どっから迷い込んだのよ。あっ、もしかしてミリナお姉様に恋慕して王都から追ってきたどっかの子息とか!? きゃーっ、ロマンねえ!!」

「違いますっ!! ロット様、あの方は」

「…ははっ、ははははは!」


 ジーロは笑い出し、笑いすぎて目尻を拭った。


「ロットよ、相変わらずかしましいな。残念ながら俺は王都から姉上を追ってきたりはしていないぞ。というかそんな者がいたらシータイでモリヤが捕らえているのではないか?」

「…モリヤ? モリヤの知り合いってこと?」

「全く薄情なヤツだ。実の兄の顔を忘れようとは」

「兄? イアンのばかでもサンド兄様でもザイーゴでもないし……えっ、誰?」


 全く判っていない様子のロットの肩を、オーレンが叩く。


「ロット、ジーロだよ。流石に判るだろう」

「じーろ、ジーロ、……えっ、ジーロ? ジーロ!? ジーロって言った!? アレが!? ジーロ兄様!? はあああああああ!?」


 うーん、素晴らしいリアクションだ。


「嘘おっしゃい!! あの山に巣食う浮浪者か何かみたいなジーロ兄様があんなヒラヒラした服着るもんですか!!」

「これしかないので着ているだけだ。俺の唯一の部屋着は洗濯に出されてしまってなあ。明日はデリーが直してくれた騎士団の団服を着るぞ。ああ、きっとデリーにも心配させてしまったことだろう、後で顔を出しに行かねば。薔薇の一本でも持って」

「あ、ほんと。ジーロ兄様だわ」


 デリーという高齢の元乳母への愛を語り出したジーロに、ロットが急に納得した。


「ジーロ兄様ったら何を小綺麗にされてんのよ、よく世話なんか許したわね」

「今朝まで来客があったのでな、綺麗にしろとザコルがうるさかったのだ。それに腕のいい散髪師と髪結師がいてなあ、おかげでザラミーアも俺に惚れ直してくれた。当分はこの格好でいるつもりだ」

「当分と言わずずっとその格好でいてくれないかしら。私、そのオーレンとリア様のいいとこ取りをしたようなお顔が好きなのよ。三つ編みもお似合いね」

「そうか? 今朝もザコルが結ってくれたのだ。あの弟があんなにも兄想いだとはこの歳まで知らなかった。流石、愛情深いあなたの血筋だなザラミーア」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわねジーロさん」


 イチャイチャイチャイチャ。


「ちょっとちょっとちょっと、ザラといい感じになるのやめて!? 離れてよお!!」

「珍し、父様が嫉妬してるわ!」

「ジーロにザラを盗られたらリアに殺されるよおおお!!」

「あらそんな理由ならいいじゃない、あの母はいい加減ザラ母様に見限られたらいいんだわ。ジーロ兄様なら大事にしてくれるわよお」

「僕だって盗られたら嫌だよおおおおおお!!」

「はは、今頃素直になってもザラミーアは返してやらんぞ父上」


 オネエ一人が乱入しただけで、暗くなりかけていた部屋が一気にカオス空間となった。だがミリナも笑っているし、メリーの悲壮感もどこかへ行った。


 やはり、大真面目ばかりでは世の中は円滑に回らないのだな、と妙な悟りを得てしまった。




つづく

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