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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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そうでしたね、のたうち回ってたんでした

「ミカ様ミカ様イアン様が!!」

「そうでしたね、のたうち回ってたんでした」


 みんなすっかり忘れていた…わけではないのだが、優先順位が人それぞれで後回しになっていたのだ。


「母さま、どうしてそれをしんぱいするんですか?」


 きゅうきゅう、ぐるるう…

 イリヤと魔獣達が心配そうというか、不満そうに半泣きのミリナを囲んでいる。

 見たところ、浄化の光で体調を崩した魔獣はいないようだ。牢の中に満ちていた闇は綺麗に消えている。


「で、どうしてイアン様は苦しんでるんですかねえ」

「ミカさま、これは、いきじごくじゃないんですか?」

「これは予想外だよ。浄化されたら正気になるだけだと思ったのに。まあ、何となく浄化されたくはなさそうだったけど。イアン様もザラミーア様や末の双子のように元々闇の力が強い方、ってわけじゃないんですよね、オーレン様」


 私は彼のお父さんに問いかける。


「ああ。この子はいい意味でバランスがいいというか、苦労する特性などは負わずに生まれてきた子だよ。手先が器用でね、絵や魔法陣を描くのが上手だった。人付き合いもソツがなくて、学び舎にたくさん友達もいた。弟達とはいつの間にか仲悪くなってたみたいだけど」


 父親というよりは担任の先生のようなコメントである。


「ツルギ山で戦ごっこしていた頃はまだ仲良しだったんでしょうか?」


 その問いには隣のザコルが答える。


「あれはリキヤ兄様がしようと言い出したんですよ。イアン兄様は渋々参加していた記憶があります。あれでも将来の男爵ですからね、機嫌を取っておきたかったのでは」

「そうだったか? 何だかんだでコイツも楽しんでいたぞ。最後は俺とお前ら双子でリッキーを人質にとってイアンを倒してやったなあ。あの悔しそうな顔、胸がすいたぞ」

「あの時、ザハリが山の民から服を強奪してきて、僕が代わりに洗濯して持っていったのですよ。長老様にまでバレていたようで先日また謝る羽目になりました」

「はは、お前は相変わらず律儀なヤツだ。サンドとザッシュの死闘もしつこかったなあ。誰も屍を拾ってやらんから、全部終わった後、俺とお前で背負って帰った。小さい弟に始末を任せて恥ずかしくないのかと俺が全員に説教を垂れて」

「君達、そんなことを山中でやっていたのかい。一族同士の私闘は禁止だよ?」

「その頃はまだ禁止でなかったはずだ。大体、父上は山犬殿…モナ男爵に連れ去られていて俺達のことは放置だったろうが。俺達もチッカの公営宿に招かれてはいたが、弟達が退屈してな。仕方なく連れ出したのだ」

「あの高級宿を壊したらどんな損害額になるか判りませんからね。あの戦ごっこ、ジーロ兄様と一緒で僕は楽しかったですよ」

「なんだなんだ、かわいいことを言うじゃないか、ザコル」

「ザコルは本当に兄様思いだねえ。あの、父様にももっと優しくしてくれていいんだよ?」

「そういえばあの三日後に母がまた…」

「義母上は全くしょうがありませんね」

「無視かい?」


 わいわい、父と次男と八男は完全に脱線して思い出話に花を咲かせ始めた。


「お願いです皆様! イアン様をお助けくださいませ!」


 そんな呑気な面々にミリナが詰め寄る。イアンはまだ呻きながら床に転がっていた。みんなが何となく私の方を見る。


「ミリナ様、私もお力になりたいところなんですが、浄化でさえも苦しがっているようでは、もう手立てが…」

「そんな…!」


 ぺたん、ミリナが床に座り込む。


「ふむ、姉上はどうしてそいつに慈悲をかけてやるのだ。仮に何か事情があったとしても、あなたやイリヤにしたことは何一つ許されることではないぞ」


 ジーロはそれとなくイリヤの肩に手を置いた。さっきは一度暴れたような雰囲気だったので、不測の事態に備えてだろう。


「僕はだいじょうぶです。僕はつよいもの。よわいじじょにムチでたたかれても、べつにいたくない。さいごも、母さまがどうなってもいいのって言われて、おとなしくしてただけです。こわいおもいしたのは母さまだもの。だから」


 ミリナはブンブンと首を横に振る。


「違うの! 逃げる機会はいくらでもあったわ、家を出てはとサンド様やマヨ様に散々言われても応じなかったのは私なのよ! この人がイリヤや魔獣の皆にした仕打ちを許すつもりはないけれど、私は、イリヤを巻き込んだ自分のことだって許すつもりはないの。私は『共犯者』としてこの人の話を聞かなければならないわ。ただ、まともに話をさせていただきたいだけなのよ!」


「…が…う…」

 ふと、呻き声に言葉が混じった気がした。私は牢の中の人に注目する。


 ザコルが口を開いた。


「姉上が逃げなかったのは、王宮に魔獣達がいたからでしょう。無官の平民は基本的に城の出入りを認められていません。家を出てしまえば、姉上が単独で王宮に上がることはほぼ不可能です。サンド兄様や僕を頼ってくれればその限りではなかったと思いますが…。姉上はお一人で抱え込みやすい性格のようですから」

「ええ、ええ、全て私の独りよがりが招いた結果なのです」

「ち、が……」

「いえ、僕はそんなことを言いたいのではなく、ただ、頼っていただけなかった僕らにも責任があるのではと」

「まさか! どうしてザコル様達に責任が!? 何もかも私が悪いのです! 申し上げました通り、私は共犯者で」

「ち、がう、ちがうちがうちがうちがうちがう……!!」


 がば、とイアンが身体を起こした。


「イアン様!!」

「共犯なんていない、俺が、俺だけが悪だ! 悪は俺なんだよ、悪であれと、そう…!」


 イアンはそこまで叫んでハッとしたように黙った。




つづく

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