表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

259/571

俺、一人じゃない…!

「ジーロ、どうか頑張ってくれ…!」

「ジーロ様、どうかお願いいたします!!」


 よーし、と気合を入れたジーロにオーレンとミリナが声援を送る。どんだけ私に尋問させたくないんだろうか。


「いきじごく、まだですか?」

「もう少し待ってあげてちょうだい、これが終わったらきっと再開してくれるわ」


 焦れるイリヤをザラミーアが宥めている。どんだけ生き地獄が観たいんだろうか。


 イアンは相変わらずやめろ殺せと叫んでいる。心なしか私に尋問されそうになった時よりも必死に見える。

 ジーロは想像力を膨らませるためか、何やらブツブツとつぶやき出した。


「イアンは穢れているイアンは穢れているイアンは穢れている」

「実感がこもっていますねジーロ兄様」

「黙っていろザコル、集中できんだろうが」

「すみません」


 ブツブツブツ…。


「そうだ思い出したぞあれは十歳の頃だったか俺が拾って育てていた野うさぎをあろうことか丸焼きにして食べ……違う、これはイアンじゃない、母だ」


「まあリア様ったら…」

「リアらしいなあ、意外にうっかりしてるんだ」


 親達は突然の思い出話にほっこりしている。


「ジーロおじさまかわいそう…」

「そうねえ流石に…」


 イリヤとミリナは少年ジーロに同情している。


「そうだ母はひどい、ではなくあれだ、イアンめ、デリーが俺のために編んでくれたマフラーを勝手に持ち出した挙句泥だらけに」

「それは浄化するほどの罪ですか?」

「何だとザコル俺のデリーへの愛を馬鹿にするな 三日三晩は泣いたし本気で殺してやろうかと思っ」

「はあすみません次どうぞ」


 その後、ブツブツとイアンおよびイーリアへの恨み節をつぶやき続けたジーロの手の平に、ピリッと電気のような光が走った。


「お?」

「やっべマジか」

 うぉう!


 サゴシと穴熊達が急いで退避する。牢の中で避けようと身を翻すイアンにザコルが何かを投げつける。ぐう、とイアンが足を押さえて動きを止めた。私はザコルの手を引いて部屋の隅へと走る。次の瞬間、ジーロの手の平から光があふれ出した。


「ぐあああああああああ」


 光を浴びたイアンが断末魔のような叫びを上げてのたうち回る。


「イアン様!!」


 ミリナが格子を掴んだ。


「わあ、いきじごくだあ!」


 イリヤは目を輝かせている。


「苦しんでいる…? どういうことだ、成功したんじゃないのか!? ジーロ、一旦止めてくれ!」

「そんなことを言われても止まらんのだ父上!! ホッタ殿、どこだホッタ殿、どうすればいい!?」


 キョロキョロ、光を制御できなくなったジーロが私を探している。私は部屋の隅から叫んだ。


「分かりませんが止めてください! 昏倒するかも!」

「昏倒だと!? 止まれ止まれ止まれええええ!!」


 ジーロが必死になって手を閉じ合わせて叫ぶと光の奔流は止まった。ガクッとジーロは膝をつく。


「ジーロ大丈夫かい!?」

「ジーロさん!」


 オーレンとザラミーアがジーロに駆け寄る。ジーロはハッとして顔を上げた。


「…ザラミーア。ますます毒が抜けてないか」

「えっ」

「唐突にそう感じたのだ。あなたこそ大丈夫か。ホッタ殿、ザコル、ザラミーアが!」


 はいはい、と私達は再び牢の前に戻ってくる。


「ジョジー!」


 私は、以前、ミイから闇の力について詳しいと聞いていた猿型魔獣を呼んだ。


 キキィ?

 なにですか?


「ジョジー、前にミイに話を通してくれるよう頼んだんだけど、聞いてるかな」


 キキ。キキ、キキ、キキキィ。

 うんです。ミカ、闇、鍛えたいってききました。


「それはまた今度お願いするね。この方、ミリナ様のお母様になられる方なんだけど、私のダイヤモンドダストや今の浄化のとばっちりで闇の力を消耗してるんじゃないかと思うんだ。サゴちゃんの時はザコルから移譲したけれど、この方にも同じようにすれば元のように力が戻るかな」


 キキキキ。キキキキィ。キキ、キキキィ……

 戻るです。でもザコルも少ない。ジョジー、闇だけ、わけてあげるです。ミリナのママになるひと。特別です。


「ありがとう、ジョジー」


 ジョジーはぴょんとザラミーアの肩に乗った。そして頬に体を擦り付ける。


「まあ! ふわふわねえ!」

「おお、この魔獣殿がザラミーアの力になってくれるのか」


 ジョジーは肌と肌を合わせることで闇の力を移譲してくれるつもりのようだ。

 ミイによると体液を介する方法が一番効率的であるそうだが、肌を触れ合わせるだけでも低速充電くらいはされると解っている。


「かわいいわかわいいわ。それに何か心地いいわ。ジョジーとおっしゃるのね、お礼は何がいいかしら」

「嬉しそうだねザラ…。えっと、彼女は本当に消耗なんてしてるのかい?」

「俺が信じられないのか父上」

「いやそういうわけじゃないんだけどさ」


 いかにも元気そうなザラミーアに、オーレンは半信半疑な様子だ。


「ザラミーア様ご自身、尋問やこの陣を動かすのに調子が出ないとおっしゃっていましたよね。でもイアン様が暴れるからとなんとか振り絞ってらっしゃったはず。おそらくですが、ザラミーア様は闇以外の魔力もお持ちのようなので、命や体調には関わらないんだと思います」


 キキ、キキキィ……

 闇、自分の中で作るです。魔力使って。


「へえ、そうなんだ。ということは『闇の魔力』という言い方はおかしいってことだね。指摘ありがとう」


 闇も魔力の一種として最初から存在しているのかと思ったが、そうではないらしい。


「魔力を使って意図的に闇の力を作れるようにすることを『闇を鍛える』と表現してるのか…」


 キキキィ……

 闇だけじゃない、魔力使って、色んな力作れる。闇作るの、他のより、時間かかるです。


「ふーん、だから回復が遅いように感じるんだね」


 キキキィ……

 あの影は闇を糧に生きてるから、魔力を全部闇にしてる。仲間、いてよかったね。


「仲間?」


 影、もといサゴシの方を見ると、彼は穴熊達と仲良く手をつないでいた。今にもスキップでもしそうな笑顔だ。


「俺、一人じゃない…!」

「よかったねサゴちゃん、闇っぽい人がいっぱいいて…。そうだ、私がジーロ様に魔力を分けてあげることは可能?」


 キキキィ……

 あげられる。でもミカ、神徒の資質ない。光はあげられないです。


「光って言った? 浄化は『光の力』ってことになるのか。ふーん、でも魔力はあげられるんだ。魔力が枯渇しかけたら手でも握ってあげよう。光が闇みたいに中和でもされなければだけど」


 キキィ……

 だいじょぶです。親和性ない、光は中和されないから。


「光は中和されないんだ。あ、そっか、何か唐突に解った気がする。私の力は闇と親和性が高いってことか。だから光は中和できない的な」


 キキッ。キキキィ……

 ちがう。闇はとけやすい。


「えっ、違う? 融けやすい?」


 キキッ。キキィ…

 ちがう。闇は『溶けやすい』。誰の心にも、沁みていくです。光は溶けにくい。眩しいから。


「闇は心に沁みるから溶けやすく、光は眩しいから溶けにくい…。うーんすごく解るようなよく解らないような」

「何を哲学的な話をしている?」

「いえ、哲学の話ではないんですが。ジーロ様、魔法に目覚めた直後はうっかり魔力を使い切ったりして昏倒する可能性があるって、知り合いのお医者様が言ってました。体調に変化があったらおっしゃってくださいね。魔力をお分けしますから」

「気遣い痛みいる。今のところは平気だ。さっきは力が抜けるような感覚がしたが、光が止まって安堵したせいもあるだろう。…ああ、ザラミーアを祓ってしまわなくて本当に安堵しているんだ。浄化とは恐ろしい力だ。俺には特に、祓いたくない闇がたくさんあるのでな」

「ジーロさん…」


 ジーロはザラミーアを慈しむように眺めたのち、部屋の隅でサゴシと手をつなぐ穴熊達や、私の隣にいるザコルをも見遣った。


 光と闇、そして中和の話とはあまり関係ないかもしれないが、以前、コマが魔力の移譲現象は珍しいというか、魔力の高い人間と魔力を引き受けられる器を持った人間同士なら稀にあると言っていた気がする。ここには魔力の高い人間と引き受けられるような器を持った、しかも相性のいい人間が集まっているという解釈でいいんだろうか。


「ミカ。ミリナ姉上がさっきから呼んでいます」


 闇が祓われるのも恐れずというか、むしろ積極的に闇を中和しにきているザコルが私をちょいちょいとつついた。




つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ