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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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漏電か水漏れみたいな

「どこどこどこ…っ、えっ、そこ右!? 行き止まりじゃん!」



 私はミイの小さな手を羅針盤に、暗く狭い通路を駆けていた。

 オーレン達はあの場に残ったようだ。あの状態のイアンとミリナ達を放置するわけにもいかないのでそれでいい。


「ミカ、右の方向に行きたいのなら、あそこの角を曲がって大きく回り込まないと行けません」

「え、この扉は」

「その扉、ぁかなぃ」

「開かない! また!? わああん全然着かないよおおおお」


 ミイミイ。ミイミイ、ミイミイ。

 まだるっこしい。ミカも空間を渡れ、きっとできる。


「無茶言わないでよ! こちとらちょっと魔法使えるだけのフツーの人間なんだから!」

「フツーの」

「ふつぅ、の」


 何か文句があるかと睨んでみせたが、ザコルと穴熊は何事もなかったように隣を駆けている。


 私はコホンと咳払いをする。


 煙になって空間を移動できるミイにとって、人間が作った壁など等しく空気だ。直線距離で移動するのが普通だという彼の中に、迷路を順路通りに進むなどという概念が存在するわけがない。

 この迷路を掌握しているザコルと穴熊がいなかったら、今頃どうなっていたことか。


 しかし、ミイが探し当てた場所が近づいてくると、否が応でもその存在を意識することになった。

 ぐわん、ぐわん、目の前の空間が歪むような感覚。立ちくらみを起こしかけ、ザコルに肩を支えられる。


「ミカ、ミカ。大丈夫ですか。この壁の向こうですか?」

「…はい。大丈夫です。行きましょう」

「早めに終わらせましょう」


 ザコルが私の手を引いて歩き出す。


 辿り着いた場所は、行き止まりを含むただの通路だった。だが、通路としては長らく使われていないことは見て判る。蜘蛛の巣が張り、煤が積もり、床には陶器製の甕や朽ちかけた木の箱や道具などが散乱していた。

 恐らく、いつの時代にか、行き止まりのスペースを利用して物置にでもしていたのだろう。執務室から先程の牢を直接目指すとしたら到底通らないエリアのようなので、忘れ去られられたまま何十年、いや百年以上経過している可能性もある。


「埃っぽいのはともかくとして…。なんていうか、魔が満ちてるっていうか、もはや瘴気…?」


 堆積した煤とゴミの向こうには、ザコルやサゴシが発する闇の力が濃縮して発酵でもしたような、そんな禍々しい圧が渦巻いていた。少なくとも私にはそう感じられた。


 ボソボソ…。

(確かに澱んでいる、ここだったか。我らも探し当てるまではできなかった。推測に過ぎないが、この辺りから力が逆流しているのでは。だから陣が止まらないのだ)


「なるほど…。ザコルは気が付きませんでしたか?」

「この場所の澱み、にですか。僕はあくまでも普通の人間ですので…」

「普通の…」


 思わずジト目になる。彼はコホンと咳払いをした。


「ですが、何となく嫌な気配はしますね」

「これが、何となくレベルですか…。闇に耐性があるからですかねえ。私は脳に直接くるような感じがしてくらくらするんですけど。そう、あの魔封じの香を嗅いだ時に似ているような…」


 溜まった闇の魔力が呪いのようなものに変容しつつあるとか、そんな感じだろうか。ここにコマか、魔力視認能力のあるシシがいれば別の感想をくれたかもしれないのに。歯痒い。


 ボソボソ…。

(我らもあなた様ほど鋭敏に感じ取れるわけではないが、ここだけ力の巡りが悪いのだけは判る。恐らく、ここがあるせいで『深部』全体に魔の気配を感じるのだ)


 穴熊はランプを持ち上げ、壁や床を検分する。


 ボソボソ…。

(壁に古い補修の跡がある。もしかしたら、その際に元の陣の構造に影響を及ぼした可能性がある)


「でも、陣は動いてたんですよね」


 ボソボソ…。

(そうだ。機能に大きな影響はなかったが、小さな亀裂のようなものができ、そこから魔力が漏れて溜まっていった、そういう不具合かもしれない)


「そんな漏電か水漏れみたいな」


 知らないうちに電気代や水道代が跳ね上がっているパターンか。恐ろしい。


「うーん、ザコルとサゴちゃんの魔力が純度が高過ぎて、いや、単純に強過ぎて、かな。そんなこんなでこの澱みのキャパを一気に超えちゃったみたいな感じでしょうか。流した魔力の一部がここから漏れ出てたんじゃ効率も悪くなってたでしょうねえ…。ミイ、どうすればいいと思う?」


 ミイミイ。ミイ、ミイミイ。

 わからない。これ、人間作ったもの。


「だよねえ。じゃあさ、この澱みをどうにかするにはどうしたらいいと思う? 穴熊さんは性質的に解放はできないって言うんだけど」


 確かにこんな瘴気を野に放つのはマズい気がする。私がダイヤモンドダストをぶっ放しただけで闇の眷属が死にそうになったこともあるし、慎重にいかないと。まあ、現状として野に放つやり方も分からないのだが…。


 ミイミイ。

 ミカが食べればいい。


「食べ…いや、ミカはあれを食べられないんだよ。その辺に漂ってる魔力とか食べたことないからさ。魔獣のみんなこそ食べられないの?」


 ミイミイ、ミイミイ。ミイミイミイミイミイミイ。

 ミイは闇の力、食べられない。ジョジーはたぶん、綺麗じゃないから食べたくないって言う。


「まあ、見るからにお腹壊しそうではあるね」


 私はどんよりと渦を巻くものに目をやる。正確には目で見ているのではないが、空間ごと禍々しく見える気がするので不思議だ。


「例えば、あれにダイヤモンドダストをぶつけたらどうなると思う?」


 ミイミイミイ、ミイミイ。

 ちょっとは中和されると思う、でも増えるだけ。


「薄まって量が増えるだけってやつね。そりゃそうか」


 泥に水を足したところで嵩が増えるだけ、道理である。


 ミイ、ミイミイ?

 他の魔獣、ここに呼ぶ?


「え、皆どこかにいるの? ミイが代表でミリナ様について来てるのかと思ってた」


 ミイによれば、魔獣達は迷路のあちこちにいるらしかった。


「……もしかして、みんなバラバラに追ってきて迷ってる…?」


 ミイミイ? ミイミイミイ。

 どうして迷う? 空間渡ればいいのに。


「みんなミイみたいには渡れないんだよ! ああもうどうすんの、この澱みを探したみたいに一匹一匹探すしか」


 いかにも骨の折れそうな作業である。全くこんな時に。


「ミカ、これは『浄化』できないんでしょうか」

「浄化? 私の魔力でですか? でも」

「いえ。タイタの『神徒』の力によってです」

「……神徒、ああ! そっか神徒! ミイ、できる!?」


 ミイミイ。ミイミイ。ミイミイミイミイ。

 できる。でも量が多すぎる。あの赤毛一人じゃ少ししかできない。


「そっか…。あ、神徒っぽい人、もう一人心当たりがあるよ」


 私達は今来た道を急いで引き返すことになった。




つづく

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