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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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一緒に怒られると約束しましたから

 私はとりあえず、穴熊から聞いたことの半分を一旦横に置くことにした。

 今回の目的はイリヤをミリナの元に届けることだ。それ以上でもそれ以下でもない。


 私はまずザコルにだけ軽く事情を説明することにし、ジーロとイリヤと穴熊に断って少し距離を取った。


「ザコル、念の為に、私の存在をなるべく気取られないように動いてもらいたいんですが。余計な騒ぎを起こしそうなので」

「別に、今日全員始末してもいいんですよ」


 ひょ…。声が出そうになって堪える。

 ザコルが全員と言ったら全員だ。当然、実兄イアンも含まれるに違いない。


 ザコルが私に迫る危機を解しているとは思えないと穴熊は言うが、ザコルはそもそも危機を危機とも思っていないのだ。曲がりなりにもサカシータ一族の出である兄ですら瞬殺できる自信があるんだろう。


 …というかイリヤの目の前で始末するつもりだろうか。ますます騒ぎなど起こせなくなったじゃないか。


「ザコルはある程度状況を把握してるんですよね。イアン様達に私の能力がバレている、ということですが」

「はい。あの男性使用人からです。あれは戦の後も町長屋敷に残っていましたから、ペータが地下牢に行く時にだけ頬に湿布を貼っていたことを知っていたんです」


 男性使用人はその後、私が体調不良で伏せっている間にペータが屋敷から姿を消したり、さらには影の真似事をするようになったのを見て、従僕少年が重大な秘密を抱えたことを悟った。

 そして今回の移動、ペータが私の影としてついてきたことで、秘密は私に関することだろうと確信した。


 男性使用人は牢の中でか護送中でかは知らないが、機を見て元執事長やイアンに情報を渡した。その話を聞いて、イアンは自分が従僕の一人に怪我を負わせたことを思い出した。


 シータイで起きた戦の終盤、ザコルを地下牢に先導してきたペータをイアンが人質に取ろうとし、間一髪ザコルが従僕を引き戻したことで、イアンの指先がペータの頬の肉を少し抉ってしまったのだ。怪我をした直後、ペータはザコルの背後にいた私に庇われている。


 その時の頬の怪我がもしも『なかったこと』になっているとしたら……。


 彼らの推測通り、渡り人に治癒能力かそれに準ずる力があるとした場合、価値の高い情報として王家や他国に売れる可能性がある。

 ここから脱出さえできれば、イアンは再び社交界に返り咲けるかもしれないし、元執事長や使用人もイアンの脱獄を世話したということで助けてもらえるかもしれない。

 そんなわけで彼らは、捕まってより未だかつてないくらい脱獄に意欲を燃やしている、ということのようだ。


「彼らにも後がない。長兄は自分が処刑まではされまいとタカを括っているようですが、残り二人は違う。ミカの秘密を握ったと知られれば、むしろ始末の時期が早まるだけと理解している。最後の悪あがきとしてイアン兄様を焚き付けているのです」

「なるほど…」


 話に聞く限り、治癒能力がバレた、ということ以上の複雑な事情はなさそうだ。問題はもう一つの方である。


「ザコルは私達と護送されてきたのとは別にもう一人、この『深部』に人がいるのは知っていますか」

「ええ。一人、声からして若い女がいるようですね。何をした罪人かは知りませんが」

「罪人ではないです。ただちょっとご乱心気味なようなので、刺激するのは慎重にした方がいいかなと思います」

「どういう者なのか、穴熊に聞いたのですね。話してはくれませんか」

「………………」

「解りました。あなたの存在を気取られぬように動きましょう」

「えっ」

「あなたが黙っているのには理由がある。さあ、行きましょう」


 ばさ、ザコルは自分のマントを外して私に寄越した。かぶっていろということらしい。





「話はついたか?」

「ええ」


 問いかけたジーロに、ザコルは頷いてみせる。


「この先に収容されている者達に、ミカが来ていると知られないように行動します」

「理由は?」

「理由など何でもいい。ミカはそう判断した」

「……そうか」


 私の指示は絶対、と言わんばかりのザコルに、これ以上何を言っても無駄だとばかりにジーロが引き下がる。


「ひめ。戻る」


 なおも心配してくれる穴熊に、私は首を横に振ってみせた。


「一緒に怒られると約束しましたから」


 私はイリヤの背に手を添える。


「ミカさま…」

「あと、うちの影っ子達……従僕くんとメイドちゃんのことも気がかりだからね。さあ、行きましょう」


 イリヤにはくれぐれも私の名を呼ばないようにと言い含め、私達は再び『深部』の奥へと進み始めた。





「来たね」


 どうしてそんなドヤ顔でいるのか、そういうところが息子達の反感を買うのではと思いつつ、私はオーレンの方に黙って一礼した。


「どうして…」

「母さま!!」


 愕然として手を口に当てるミリナにイリヤが駆け寄る。


「おケガはしていませんか。イヤなことをされていませんか」


 イリヤはミリナの体をギュッと抱き締め、そしてペタペタと見分するように触る。


 ミリナはザコルや私の方をキッと睨んだ。だが、私が人差し指を鼻先に立ててシイ、とすると、憮然とした表情ながら言葉を喉の奥に引っ込めてくれた。すいません文句やお叱りは後でいくらでも聞きますのでと心の中で謝り倒す。


「君一人じゃないなら、塔の上からじゃなくて執務室の方から来たんだろう、まさかあの迷路をこんなに早く抜けてくるとは思わなかったなあ。流石だね、ザコル」


 笑い混じりにそんなことを言う父をザコルは黙って睨む。


「そういうところだぞ、父上」

「ジーロはどうして来たのかな」

「これ以上、一人や二人に重圧をかけるのは良くないと思ってな」


 ジーロはザコルの隣に並び、共にオーレンを睨んだ。


「イリヤ、どうしておばあさまの言うことを聞けないの。待っているようにとおっしゃられたでしょう。私達のお味方だと、何度も説明したはずよ」

「母さまがお味方だといった、じじょやごえいは、ひとりも味方じゃなかった」

「…っ」


 信用できないと、幼い息子に真っ向から言われたミリナが言葉を失う。


「僕は、ビットにミ…えっと、あの人といっしょにいるようにっていわれて、あの人は、いっしょにおこられよう、っていってくれました。僕が母さまを守りたいってワガママをいったから」


 ミリナはイリヤの目線に合わせて膝をつく。そして彼の両手を取った。


「イリヤ、違うわ、私があなたを守らなくてはいけないのよ、そのためならどんな事もできるのよ。ね、母様を信じてちょうだい」


 イリヤは首を横に振る。


「……ドアも、かべも、ぜんぶこわしてたすけにいけばよかったって、おもってた」


 じわ、イリヤの瞳が潤む。


「母さまが、たおれていなくてよかった…っ」


 イリヤは目の前にあるミリナの頭をギュッと抱き締めた。




つづく

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