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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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迷路必勝法ですね

 地下は意外に暖かい。シータイの町長屋敷の地下牢でも思ったことだ。

 どこかに火元の一つくらいはあって暖められているかもしれないが、それでも地上部の廊下などと比べたらずっと空気がぬるく感じる。湿度も高いようだ。



「イリヤくん。大丈夫?」


 緊張からか口数の少ない少年の背に手を当てる。


「うん。だいじょうぶです。母さまはこの先にいるんでしょう?」

「うん、多分ね」


 ミリナもガッツリ巻き込まれている。あっちは完全に『当主候補』扱いされているな…。本人の意思とは関係なしに。


 地下空間はまるで巨大迷路のように複雑な構造だった。大きな部屋などはなく、細い通路が延々と続いている。何度も角を曲がったり扉をくぐったりしているうち、地上部で言えばどのあたりにいるのかなど見当もつかなくなってきた。

 ザコルは先程の隠し階段を地下から見つけて出入り口に当たりをつけていたらしいが、とんでもない空間認識能力だ。流石、ジーク領の樹海、通称『魔の森』を地図もコンパスもなくまっすぐ縦断できるだけある。


「この辺りからあの塔の真下に入るか?」

「そうですね。もうすぐ中心部です」


 ザコルだけかと思っていたが、ジーロにも人並外れた空間認識能力が備わっているらしい。流石、普段何の目印もない山中でサバイバル生活しているだけある。二人とも方向感覚などが野生動物並みなのだ。


「これ、自力で出られるのかなあ…」


 何度か出入りしていれば覚えられるかもしれないが、その前に何度も迷いそうだ。一人で入るのは危険かもしれない。


「壁に手を当てて進めば、時間はかかりますがいつかは出られますよ」

「迷路必勝法ですね」

「先生、このみちはなにかの絵ですか?」


 イリヤの言葉にザコルが振り返る。


「天才、でしょうか。やはり君は未来の当主にふさわしい!」

「先生、ゴーシ兄さまのほうがさきにうまれてます!」


 イリヤが釘を刺す。この子、まだ七歳なんだよな…。大人の言葉から継承の仕組みを理解し、そしてゴーシの存在を蔑ろにするなと怒っている。ザコルが期待するのも解る、やはり賢いのだ。


「ええ、ゴーシに限らず全ての孫世代をここに案内すると約束します。ゴーシは当主よりも戦闘で名を上げることの方に興味がありそうですが、何事も公平が一番ですからね」

「僕だってつよくなりたいです。先生みたいに!」

「ええ、ええ。鍛錬は裏切りません。いくらでも付き合いましょう」


 ザコルはイリヤを抱き上げ、いーこいーこと撫でる。いつもは喜ぶイリヤだが、なぜかぶすっとした表情になった。子供扱いされたのが気に入らなかったのだろうか。成長著しいな。


「絵か…。なるほどな」


 ジーロは何か得心したようにつぶやいた。






 しばらく行くと、崩れた壁を直す人影を発見した。五人ほどいる。


「あれ、穴熊さんだ」

「ひめ」

「ひめ」


 穴熊達はどよどよと顔を見合わせた。動揺させてしまったらしい。


「彼らは一部の腹心部下、ってことですね」

「ええ、穴熊はこの空間を保全するのに欠かせない存在ですから」

「空間というか『絵』を保持するのに必要ってことですね」

「その通りです」


 ぎゅ、穴熊の一人が私の外套を掴む。

 服の上からとはいえ、彼らが私に触れるのは珍しい、というか初めてだ。


「ぁぶなぃ」

「危ない?」


 ボソボソ…。

(どうして入ってきた。この領から出られなくなるぞ。それに、この先にはあなた様に害意のある者がいる)


「それは、収容されている人達のことですよね?」


 ボソボソ…。

(それもだ。あなた様の価値に気づいた。機を見て持ち出すつもりだ)


「価値…」


 ボソボソ…。

(あなた様の持つ稀有な力だ。従僕が気取られた。メイドも信用ならない。なにせ…)


「…えっ、えええ!?」

「ミカ、何を聞いたんですか」


 ぱくぱく、口に出せない。どうしよう、でも、この先に進めばいずれ判ってしまう。


 ボソボソ…。

(ザコル様はイアン様の房までしか入っていない。もう一人いるのは勘づいているようだが、それとは知らない)


 ボソボソ…。

(あなた様に迫る危険を解しているとは思えぬ。ここで止まれ。あの者の闇は深いぞ。何をやらかすか見当もつかぬが、ザコル様もあなた様も非情にはなりきれまい)


「闇……」


 ボソボソ…。

(この陣自体、長年吸い続けた魔が満ち満ちている。性質的に解放もできぬ。この分では数年のうちに…)


「穴熊さん達って、私のアレって浴びました?」


 ボソボソ…。

(アレのことか? 一人は浴びた。だが我らは一人ではない)


「えっと、穴熊同士で補充し合ってるから大丈夫的なことですか」


 うん、うん。穴熊達は皆で頷いた。


「この後やらかす可能性があるので退避してもらっていいですか。流石に五人はダメージ大きいですよね」

「だめ。我ら、ひめ、たのまれた」

「じゃあ一人だけ残ってください。後は退避。命令です」


 しぶしぶ…。数分の押し問答の末、穴熊は一人を残して私達が来た道を引き返していった。


「おい、何を聞いたんだ」

「ひょっ」


 ジーロに肩を叩かれて飛び上がる。


「えっと、えーっと、何て言えばいいんでしょうか! どうしよう!!」

「落ち着いてください。それから兄様も穴熊もミカを離してください」


 しぶしぶ…。私の服をずっと掴んでいた穴熊が手を離す。ジーロも私の肩から手を引いた。




つづく

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