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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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僕らにも知る権利くらいはあるということです

「俺は『当主候補』ではないのだが?」



 弟についてくるように言われたものの、不服そうというか、納得しきれていなさそうな兄だ。


 ジーロ、イリヤ、そして私の三人は塔の入り口ではなく、本邸の建物の中をザコルの案内で歩いていた。恐らく、地下通路につながる場所がどこかにあるのだろう。


「ジーロ兄様は生まれた順番、血筋、能力、実績において充分に『当主候補』でしょう。本人が強く『ツルギの番犬』であることを望んでいたから実質外れていただけです」

「それを言ったらザコル、お前も候補になるだろうが、長年、命がけで稼いだ大金をこの地に捧げてきた。あの金がなくては領は立ち行かんかっただろう。実力的にも、兄弟の誰よりサカシータ一族の長に相応しい」


 バチ、次男と八男は目線を絡ませる。


「まあ、そんなわけで、僕らにも知る権利くらいはあるということです。継ぐかどうかは別として」

「ふん、なるほど、知らねば何事も判断はできぬしな。継ぐかどうかは別として」


 どんだけ継ぎたくないんだ…。

 ジーロは続けて「巻き込まれてやるか仕方ない」とつぶやいた。継ぎたくない者同士、弟だけをこの家の『深部』とやらにやったのでは、フェアでないと思ったのかもしれない。


 イリヤが不安そうな様子でザコルの深緑マントを引っ張った。


「あの、先生、僕…」

「イリヤも当然、将来の候補の一人ですよ。ですが別に大人しく継いでやる必要などありませんからね。仮に望む結果にならなくとも、嫌なものは嫌だと意思表示するのは大事だと僕は思っています。受け入れるにしても条件が良くなるかもしれませんし」


 ゴネろとは言っているが逃げろとは決して言っていない。つい『逃げてー』と言いたくなるのは人間のさがだ。


「僕をつれていって、先生はおこられませんか?」

「そんなことを君が心配する必要はありません。この世には『子供のすることだから』という魔法のような言葉が存在するんです。なので、止められなかった僕も怒られることはありません」

「ふむ、真面目に悪さをしろと言うだけあって、いちいち屁理屈めいていて最高だなザコル」

「流石はジーロ兄様、気が合いますね。イリヤ、君は今後も、自分が子供であることを最大限に生かして『悪さ』をすればいいんですよ」


 ジーロとザコルは有望な甥を見下ろし、揃ってニヤリと微笑った。大人げない。


「あのー…」


 私は無理な体勢のまま、そろりと挙手した。


「私は間違いなく『当主候補』とかじゃないただの余所者かと思うんですが」


 私もあの騎士四人の茶会の方に参加した方がいいかな、などと考えていたら、すかさずザコルに「ミカはこっちです」と小脇に抱えられてしまった。


「ミカは以前、義母から『領内でも邸でも自由に調べるがいい』と言われていたでしょう」

「ああ、そういえばそんなことを言われた気もしますけど…」


 しかし言われたのは確か、水害発生直後の混乱期だ。そんな時の口約束などイーリア自身も覚えているかどうか。


「何だ、確かにそう言われたのならいいではないか。おま…貴殿がどこに入り込もうが全て母の責任になる。もし事後になって母が文句を言ってきたら俺が受けて立ってやろう。存分に調べ尽くすがいいさ。むしろもっとやれ」


 はっはっは、とジーロは愉快そうに声を上げて笑った。どんだけ母に一泡食わせたいんだ…。


「確認なんですけど、うちの影三人も向こうにいるんですよね?」

「はい。この件の関係者になりますから。ただし、三人とも目や耳を覆われた状態で連れられていきました。僕には無駄だということでしてくれなかったんですが…」


 目隠し耳栓をされてみたかったのだろうか。しかしザコルの人並外れた五感であれば、少々多少覆ったところで自分の向かう先や居場所くらい把握できてしまうだろう。確かに無駄だ。


「安心してください。ミカにもそんな拘束めいた処置を施すつもりはありません」


 どうやらもう開き直って、私をガッツリ巻き込むつもりでいるらしい。

 地下で何を見てきたのか。私に見せたいものでもあったのだろうか。




 ザコルが私達を連れて行ったのは、オーレンの執務室だった。そして、窓際にあった執務机を雑に蹴る。がこん、と机は移動し、その下に階段が現れた。階段は当然、床下に向かって延びている。


「……ここ、二階ですよね?」

「ええ。この執務室の真下にはリネン室があるのですが、入ってみれば判ります。不自然に狭く、そして窓がない。窓近くに相当する空間に、地下へと続く隠し階段が設けられているのです」

「へえ、すごいですね。二階から地下に行けるなんて考えもしませんでした」

「僕は地下からこの階段を見つけました。通るのは初めてですが、つながるのはこの執務室だろうと思っていたんです」


 ザコルは恐らく、塔の上階から地下に出入りして調べたのだろう。ここに来たのは答え合わせというか、確認のためでもあったのか。


「ここは、第一、第二夫人と、一部の腹心部下しか出入りしていないと思います。シュウ兄様やロット兄様は入ったことがあるかもしれませんが」

「はっはっは、シュウには秘密を持ったまま逃げられたなあ」

「さあ、そんな秘密は秘密でなくしてしまいましょう」


 ザコルは小脇に抱えた私を床に降ろし、その辺にかけられていたランプを手に取って火を入れた。




つづく

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