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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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真面目に悪さをする気があるんですか?

「全く、真面目に悪さをする気があるんですか? あまりにうるさいので様子を見にきてしまったではないですか」



 うっかりなのかわざとなのか、またも雪にハマったその人は、何も無かったみたいな顔で雪を払いながらこちらへやってきた。


「ふへ、ザコルだあ」

「二時間ぶりくらいですね、ミカ」


 寂しかった、と飛びつこうとして思いとどまる。照れ屋な少年がそこにいたんだった。


「先生、僕、母さまをさがしにきました。おばあさまはわるくないです」


 そんな少年は、キッと強い眼差しでザコルを見据えた。


「そうですか。で、もしも僕がこの先には行かせないと言ったら君はどうしますか」

「えっ? えーとえーと、あ、そうだ、こ、このかべをはかいします!!」


 イリヤは急いで塔の外壁にピトッと貼り付いた。ザコルはふ、とほのかに笑った。


「勘がいいですね、イリヤ。そこを壊されると塔全体が傾いて修復不可能になると思います」

「えっ、そうなんですか!?」


 まさに壊すとマズい壁の一つだったようだが、イリヤは適当に近い場所を選んだだけだったのだろう。ザコルの言葉にギョッとして壁から少し離れた。


「倒壊しては危ないですし、色々と無事で済まないかもしれないので僕は脅しに屈するしかありません。ああ、仕方ないですねー困りましたー」

「ふふっ、棒読み」

「お前…。演技が壊滅的に下手だな…。一応『深緑の猟犬』は名の知れた工作員じゃないのか」

「工作員のくせに名が知られている時点で二流です。国外で付けられた二つ名もほとんど重戦士まがいのものばかりですし」


 フン、と不服そうに鼻を鳴らすザコル。


「そんで、歩く火薬庫の兄貴が案内してくれるんすか?」

「そうだな、これ以降は神のいかづち殿にお任せいたしましょう」


 エビーとタイタがイリヤの肩を押して差し出す。ザコルは眉を寄せた。


「タイタまで。嫌味のつもりですか?」

「ははっ、まさか。あなた様は一流の工作員であり斥候であり重戦士でもあるという、世界でも稀に見る、いや、歴史上においても唯一無二の英雄様でいらっしゃると、そう申し上げたいだけでございます」

「相変わらず大袈裟ですね」


 ザコルはふと近くの藪に目をやった。ガサッ、薮が揺れる。


「ローリ、カルダ。こっちへ」

「ひょええ…」


 小さな悲鳴とともに、マッチョ二人がぴょこりと顔を出す。


「まだ僕に慣れていないんですか?」

「まままっまだ一週間ももったた経ってないのののにご無理をををっ」


 ブブブブブブブブ…。

 二人は深緑の猟犬ファンの集い同志らしく、推しの視線を浴びてブレにブレていた。


「はあ、君達は一応、子爵邸側から付けられたミカの護衛騎士でしょう。いざという時に震えていて用が為せるのですか」

「えっ、護衛騎士? ただの『日報』担当じゃなくて?」

「四六時中ああして張り込んでいるんです。他の業務を免除でもされていなければできません」

「なるほど…。まあ、彼らある意味テイラーの息もかかった二人ですもんね。適任か」


 ファンの集いの会長はテイラー伯爵子息オリヴァーであり、会長に次ぐ地位にある幹部はここにいる騎士タイタである。タイタはその持ち前の記憶力で会員全ての顔と名前、身元を把握している。ローリとカルダも例外ではない。

 彼らを配置してくれたのは部隊長ビットによる配慮だろう。私達が信用を置きやすいように、ということだ。


「どういうことだ…」

「こういうことすよ」


 同志について一通り説明されたものの、イマイチ理解しきれていないらしいジーロにエビーがサクッと説明する。


「うーむ、秘密結社の手の者がうちの騎士団にまで入り込んでいるとは…」

「お宅の弟さんのファンってだけすけどねえ」


 コホン、ザコルが咳払いする。


「ローリ、カルダ。君達はしばらく護衛から外れてください。『当主候補』を深部へと案内します」

『はっ』


 ローリとカルダの二人は何らかのスイッチが入ったのか、震えを止めて騎士らしく胸に手を当てて一礼した。


「俺らもすよね、兄貴」


 エビーが自分とタイタを交互に指差す。


「ええ。申し訳ないですが君達もです。いい機会ですし、護衛騎士同士で交流を深めては?」


 ザコルは頭を下げるローリ達を目線で示した。


「四人で茶会でもしてろってことすか。…ふーん、いいすねえ。ローリ殿、カルダ殿。俺らからここまでの道程の話、聞きたくねえすか。ドーシャ殿の『日報』とやらに載らなかったエピソードもたんまりありますよ」


 エビーの言葉に、二人がバッと顔を上げた。


「これは…ッ、公式聖女様に並ぶ供給元『陽キャのエビー』殿からの直々のお誘いッ」

「ぶはっ、何だその雑な二つ名! 本名入っちゃってんじゃねーすか」

「名付けたのはドーシャ殿ですぞ。しかし、お誘いいただけるなど光栄の極み! 公式聖女様ファンの集いの元締めであり、猟犬ブートキャンプの発案者でもある陽キャ殿との直接交流の機会をいただけようとは!」

「陽キャ殿て」


 ぶふぉ、エビーはさらに吹き出した。

 いや、流石に『陽キャ殿』呼ばわりは失礼な気もするが、本人もウケているようなので突っ込むのは野暮か。自称コミュ障の同志達からすれば、陽キャはそれだけでキャラが立って見えるものなのかもしれない。


「執行人殿、よろしいのですよね?」

「もちろんですとも。他ならぬザコル殿からのご提案です。護衛として、ぜひ情報共有いたしましょう」

「ぐふふ護衛としてですな」


 かの集いでは会員同士の不公平、不平等をよしとしない。しかし護衛、つまり職務としての情報共有は抜け駆けには当たるまい、そんな意味でグフフと笑っているのだ。


 ちなみにエビーはこの機会にこの二人を探るつもりだろう。ローリとカルダはオースト国南方に位置する、カリー公爵領の出身と聞いている。


 テイラー伯爵とその隣のジーク伯爵はカリー公爵派に属していることになっている。また、かの公爵はザコルの後ろ盾を公言する貴族の一人で、深緑の猟犬の功績を国内で広めた人物でもある。

 そして現在、王都から逃れた国王と王妃を匿っているのもカリー公爵だ。


 エビーはこの二人が公爵の息のかかった者かどうかを確かめるつもりなのだ。そうでなくとも、公爵領の情報の一つくらいは手に入るだろう。




つづく

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