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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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もういいかーい!!

「案内するわ、ミカ」

「待ってください、ザラミーア様」


 何かを決心したかのように踵を返すザラミーアの腕を私は掴んだ。


「私に明かして本当に大丈夫ですか、オーレン様のご意向は」


 いつの間にか姿を消した当主を私は目で探す。当然、目視できるようなところにはいない。


「これ以上、あなたに筋を通さないでいる方が問題です」

「待て、義母上よ」


 次に彼女を止めたのはジーロだった。ザラミーアと呼び捨てるのもやめ、真剣な表情で母の行手に回る。


「これに話さないと決めたのは父上でなくザコルだ。ここで案内などしたらテイラー方の方針に背くことになる。というか、むしろ父上の思うツボな気がするのだが」

「でも」


 サクサクサク、雪上を駆ける軽い音に、チャキッ、と剣の揺れる音。


「イリヤ様?」

「どしたんすか、そんな顔して」


 タイタとエビーが彼を心配そうに覗き込む。


「…あのね、さっきね、ぶたいちょーのビットに会ってね、僕に、せいじょさまたちといっしょにいるように、って言って行っちゃったんだ。また、何かおきてるの? 母さまももどってこないし」


 そうだ、姿が見えないのはミリナと魔獣達もだ。ゴーシ達の見送りにも出てこなかった。


「あの、ザラミーア様。ミリナ様に何か?」

「さっきは、ミリナさんも私を心配して一緒に来てくれたのよ…。安心してちょうだい、命の危険などはないわ」

「だが、ビットが動いたのだろう、父上も逃げたのかと思っていたが同じ場所へ向かったのかもしれん。義母上が外している間に何かあったのでは?」

「ええ、だから私は戻るわ。ザコルもいるから滅多なことはないはずだけれど。イリヤさん、心配要りませんからね。剣のお稽古を頑張ってちょうだい」


 笑顔を作ったザラミーアに、イリヤは首を横に振った。


「おばあさま、僕も行く。きのう大きな音を立ててあばれたのは、父さまなんでしょう? 母さまがあぶないなら僕は行く。ここはやさしい家だもの。僕が母さまをたすけに行くことを、ゆるしてくれるでしょう? ねえ、おばあさま」

「イリヤさん……でも、私はミリナさんとお約束したのよ、あなたを必ず守ってあげると。ミリナさんは全てあなたのために…」

「おばあさま、僕、何もいらないです。ふくも、ご本も、たべものもいりません。この剣もかえします。だから母さまをおそばで守らせて」

「イリヤさん、大丈夫よ、何も危険なんてないわ」

「しらないあいだに、また母さまがろうやの中でたおれていたらこまるんです。僕はもう、おへやでまってるなんてイヤなんだ、おこられても、ドアもかべもぜんぶこわしてたすけに行けばよかった。僕の母さまだ。僕がまもる。母さまのいるばしょにつれてってよおばあさま…!!」


 イリヤの目から涙がこぼれ落ちる。顔も紅潮し、息も荒くなる。しかし彼は目を逸らさない。


「イリヤさん、落ち着いてちょうだい、本当の本当に大丈夫なのよ」

「いやだ、母さまをかくさないで、母さまをかえして!!」


 ザラミーアの言葉は余計に彼を頑なにさせた。

 父親に似ているという理由で一度敵視されているジーロは何も言えないでいる。彼はエビーやタイタとともに、イリヤがザラミーアに手を出してしまわないよう、それとなく立ち位置を変えた。


「イリヤくん。じゃあ私と一緒に探しに行こっか」


 興奮していたイリヤがパッと私の方を向く。


「ミカさまと?」

「でもね、私も場所は知らないの。同じくザコルに大人しく待ってろって言われちゃったからね。彼と魔獣達が側にいる限りミリナ様には傷一つつかないだろうとは思うけど、それでも君が行きたいなら一緒に行くよ。ビットさんは、君に私達と一緒にいろって言ったんだよね」

「うん」

「ここはやさしい家だよ。皆が君とミリナ様を守るために、優しい言葉をかけてくれる家。ザラミーア様も、君の体と心を守りたいからここで待っててほしいって言ってくれてる。解るかな」

「……うん」

「ザラミーア様がイリヤくんや私を連れていくと、ザラミーア様がミリナ様やザコルに怒られちゃう。それも解るかな」


 イリヤは納得したくなかったのか無言になったものの、二回三回と同じ言葉を繰り返すと、黙ったままコクリと頷いた。


「でもね、私達は悪い子だからね。ザラミーア様に黙って探しに行くの。それならザラミーア様は怒られないでしょ。怒られたら私達で謝ろう。それでどうかな」


 イリヤの興奮が収まっていく。揺れていた瞳に力が灯る。


「…………うん、うん。そうする。僕、あやまります!」

「よしきた。ザラミーア様、先に行ってください。私達に追いつかれないように、早く」

「でも」

「早く行け義母上。この者どもの脚では一瞬だぞ」


 ザラミーアはジーロにもぐいぐいと押され、何度もこちらを振り返りながら建物の中へと戻っていった。


「ジーロ様は、壊してもいい壁とマズい壁を教えてくださいね」

「ははっ、破壊するのが前提か。剛気だなあ」

「だって、地下の行き方とか知りませんもん」

「ふむ、地下か。場所に心当たりはあるのだな。俺は身内だが当主候補ではない。こればかりは本気で知らんぞ」

「ザコルが地下通路があるって言ってたんですけど…。まあ、彼のことだから調べ尽くしたのかもしれないですね。仕事で出入りする場所は隅々まで確認しとくのが流儀らしいので」


 四六時中私と一緒にいるのに、いつ調べ尽くしたのかは知らないが。人を使ったか、深夜に起き出す術でも習得したのかもしれない。それか、ここで育っている間に知ったか…。


「そうか…。つくづく敵に回したくない弟だ。あいつ、あの実力でなければ今度こそ領から出してもらえんところだぞ」

「知らないふりで通すつもりだったんでしょうけどねえ。ザラミーア様が調子崩してるのは私のせいである可能性が高いので、私に負い目とか感じさせないように動いてくれたんだと思います」

「ザラミーアの調子が悪いのがお前のせい?」

「私、色々と規格外なんですよねえ。大したことではないので、また後で話します」


 ジーロは大らかで寛容な人だとは思うが、無駄に秘密を作るのは得策でない気がした。理解はしてくれると思うが、適当にはぐらかすような真似は不誠実と取るタイプに見える。


「さあ、そろそろ探しに行ってもいい頃かな。かくれんぼなら、もういいかーいって訊くところだけど」

「もういいかーい!!」


 イリヤが叫ぶ。当然『もういーよー』なんて返ってくることはなかった。




つづく

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