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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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野生が餌付けされやんの

「さてさて。ザコル、あなたはザラミーア様のお手伝いに行って差し上げてください」

「なぜ!?」

「出汁巻き卵、いっぱい食べましたよね?」

「うっ」

「まあ、出汁巻きはイマイチな出来で申し訳なかったですが、明日は焼き鳥も作ってあげますから。サゴシ」

「はいはい、行きますよ猟犬殿」


 サゴシに引っ張られると、ザコルは渋々だが大人しく連れられて行った。


「意外にすんなり行きましたねえ…」

「ふふ、昨日約束したからね。彼、野生の真面目くんだから」

「ふはっ、野生の真面目くんて何すか」

「実に飼い慣らされているなあ…」


 吹き出すエビーに、呆れるジーロだ。


「ミカ殿の料理を質に取られたら従うしかないとご自分でもおっしゃっておられましたから。さて、ミカ殿はこれからどうなさいますか」

「まずソロバン塾に顔を出します。ピッタ達には課題だけ出して自習してもらう予定です。その次にゴーシくん達の見送りに行きます。今日は帰るって言ってたからね。ジーロ様はどうされます?」

「ザイーゴの使っていた強弓の在処に見当がついている。ゴーシが帰るのならば取ってこよう。威力が強いので持ち帰るのはマズい代物だが、あれを見ればまたこの邸に来ようと思えるはずだ」


 また来てほしいんだな、と私はにっこりする。


「……ゴーシがというか、あの母親達が変な遠慮をしそうだと思っただけだぞ。子供が行きたいといえば頼る理由にもなる。ゴーシも資質は申し分ないようだが、まだまだ経験不足というか荒削りだしな。俺やザコルがこの邸にいるうちに稽古をつけてやる方がいい。…この家の将来のためだ。だからやめろその聖母のような顔は!」


 にこにこ。ゴーシのことも、ララルルのことも気に入ったようだ。


「ジーロ様もミカさんのペースにのまれ始めてますねえ…」

「あの愚弟と同じにするんじゃない!」


 いいか俺は野生だ俺まで手懐けようとするのはやめろー!! と叫びながら彼は去っていった。




「何だかんだ言って、ジーロ様もダシマキめっちゃ食ってたかんな」


 野生が餌付けされやんの、とエビーが揶揄うように笑う。


「イマイチかと思ったけどそこそこウケてたんだね、あの出汁巻き卵」

「だから普通にうめえって言ったでしょうが、また作ってくださいよお」

「そうだね、出入りの業者がいるなら卵追加発注しとこっか。使い込んじゃったし」

「訊いときますよ」

「お願いね」


 市井の卵を買い占めない程度にね、と私はつけ加えた。






「リコかえらないいいい!!」


 玄関で少女の声がこだましている。


「今日は帰るって話したでしょ、ほら、繕いものの仕事もそろそろ納期が…」

「かえらないのおおおお!! きょうもおとまりしる、おっきなおふよ、はいるのおお!!」


 またお泊まりする、大きなお風呂入るの、と言っているんだろうか。二歳児との会話には少々のエスパー能力がいるものらしい。


「きっとまた来るから、今日はおうちに」

「おうちいかないのおおおおお!!」


 これは手強そうだ。私達はそんな彼女達を柱の陰から見守る。


「ふはっ、チリー…妹も二歳くらいん時はあんなんだったなあ」


 エビーが兄というか親みたいな顔で苦笑する。

 初めて名を聞いたが、エビーの妹はチリーというのか。定番中華だろうか。


「中華……ああ! 鶏ガラ!!」

「トリガラ?」


 盲点だった。そういえば鶏肉があるのだから鶏ガラで出汁が取れるじゃないか。和風ではなくなるが、中華出汁で作った出汁巻きもきっと美味しい。多分、天津飯の卵部分みたいなものになるはずだ。


 そういえばシータイで食べたうどんは鹿骨や牛骨から取る出汁を使っていた。あれなら邸の料理人に作り方を教えてもらえるかもしれない。鶏ガラスープの上手な取り方も知らないか聞いてみよう。


「ルル様とリコ様、お二人なのでしょうか」


 タイタが周りを伺う。


「そうだね、他に誰もいないのかな…」

「ミーカ!」

「あ、見つかっちゃった。ふふっ、リコはどうしてそんなに泣いてるの」


 私はザコルから借りたハンカチで彼女の涙や鼻水を拭いてやる。二歳児は泣き顔も可愛くてずるい。


「ミーカ、うたってはしるの、やる!」

「え、シャトルランのこと? 今から?」

「ミカ様! すみませんすみません聞いてやらなくて大丈」

「ミーカとはしるのおおおおおお!!」


 うわあああーん。ああもう、とルルが声を上げかける。


「リコ、見て見て。干し林檎だよ」

「りんご…?」


 私はシータイのポレック爺さん謹製の干し林檎が入った紙袋を彼女の前に差し出す。お土産に渡そうと思っていたものだ。


「りんご!」

「これを、お母さんに預けます」

「あっ」


 私は紙袋ごとルルに干し林檎を押し付けた。


「りんごー!!」

「馬車の中で食べてね。馬車、乗る?」

「のる! かーちゃ、いこ!」

「ミカ様、この度は大変お世話に、あ、カクニというお肉料理も美味しすぎて死ぬかと」

「ルルさん、リコが」

「あっ、待って待ってリコ!! お、お土産までっ、とにかくありがとうございましたぁー…」


 玄関から外に飛び出して行ったリコを追いかけてルルも走っていく。走りながらペコペコする器用な彼女に私は手を振った。


「良かった、ご出発できそうですね」

「うぉっ」


 ひょこ、どこからか執務メイドの数人が出てきてエビーが飛び上がった。


「ずっといたんですか?」

「ええ、去ったふりをしておりました。我が儘を言える相手がいては、母君のお言葉などお耳に入りませんからね」

「なるほど」


 お見送りの一人もいないのかと思っていたが、敢えて姿を隠していたらしい。現役騎士であるエビタイにさえ気配を察知されていないのはサカシータの使用人あるあるである。


「聖じょ…ミカ様は子供の扱いがお上手ですねえ」

「えっ、そうですかね?」

「あの年頃は、少し気が逸れればころりと機嫌が直ることが多いのです。お土産作戦は有効でしたわね」

「ふへへ。たまたまですよ。シータイで干し林檎をたくさんもらったのでお裾分けしたかったんです。元ザハリファンの人達にもらった大量の砂糖菓子もあったんですが…。何となく、あの子達にあげるのは色んな意味で問題な気がして」

「ああ…」


 ベテランの彼女は察したように眉を下げた。


「二歳の子に砂糖菓子は刺激も強そうですからね、賢明なご判断かと」

「どうしてザハリ様のファンの方に貢がれているのかの方が気になりますけれど」

「色々ありましてねえ…。ララさんとゴーシくんはどうしました?」

「ジーロ様と訓練場の方におられますよ。馬車もその近くに停めてあります」

「強弓は見つかったのかな。私達も見に行こっか」


 エビーとタイタが御意に、と一礼した。




つづく

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