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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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何と縁深い、ロマンだなあ

「というわけでなあ、俺は父上がよく分からん異世界からの生まれ変わりであることは察していたわけだ。そういった立場の者を『転生者』と呼んでいる民族がマサラン国の原住民にいてな。その者の言動を聞く限り、あちらが崇めているのはまた違う世界か、同じ世界でもニホン以外の国からの『転生者』であったようだが…。まさか、父上の前世と同じ世界、同じ国からの渡り人が現れるとは。面白い偶然もあったものだ」



 閑話休題。

 ジーロは若い時分に家を飛び出し、諸国を三年ほど練り歩いた経験をサクッと語って聴かせてくれた。


 その三年の間に彼の興味をひいたのは、各地にある様々な信仰、所伝、風習など、正史には残らないが民の間に連綿と受け継がれるものの全て、その深みであった。そこには特殊な血の継承、囲い込みなども含まれる。

 旅から戻った彼は、故郷にゆかりある山とそこに住まう山の民が守る血や信仰、言い伝え、受け継がれる工芸の技などに改めて目を向けた。現在はその研究と保護をライフワークとし、人生を捧げる決意をしているそうだ。


「それを言うなら、サカシータの先祖もミカやナカタと同じ民族だという話です、ジーロ兄様。根拠はこのミカがいくらでも説明してくれます」

「ほう、そうなのか。では俺達の身にもそのニホン人の血は流れているわけか? 何と縁深い、ロマンだなあ」


 彼は自分の手の平をグーパーとし、感慨深げに見つめた。



「それでだ。なあ、どう呼べばいい、暫定散髪師よ。おま……いや、貴殿の故郷が我が領の発祥にゆかりを持つことは理解した。しかし、貴殿個人はまだこの世界で縁を結び始めたばかりで、まだどこの文化や信仰にも属さない存在とも言えるのだ。本人も含め、誰もが貴殿という存在を正しく捉えきれていないうちから型や枠にはめる真似はしたくない。人の信望を背負う『聖女』とは、そういう型や枠の最たるものだと俺は思うのでな…」


 伝わるだろうか、と彼は私の顔を伺う。

 彼は別に宗教上の理由で『聖女』と呼びたくないと言ったわけではないらしい。むしろ逆で、安易に信仰を集めて身動きが取れなくなるようではいけないと、私の身を案じてくれたらしかった。

 そう考える根拠、前提としてわざわざ自分の半生を語ってくれたのだ。


「ありがとうございますジーロ様。そうですね、個人的には散髪師でも料理人でもいいんですが、ご配慮くださるということなら普通に名前で呼んでくださればと思います。これ以上新しいあだ名を増やされてはややこしくなりますので」

「はは、確かにな。では」


 ちら、ジーロはザコルの方をチラリと伺った。


「ホッタ殿と呼ばせていただこう。それがいい」


 私を苗字呼びする人は、テイラー第二騎士団団長ハコネに続き二人目である。

 …もしや、ハコネもザコルに気を使って『ホッター殿』と呼び続けているんだろうか。


「ジーロ兄様、そこの無神経な父を排して当主に立ってはどうですか」


 分かりやすく兄への敬愛心を沸き立たせる弟である。


「ザコルお前、さっきと言っている事が違うぞ。いいか、俺はダメだ。資質の問題以前に領よりも山を優先する立場であり、そういう風に生きることを選んだ者だ。何かあった時に自領の民よりも山の民を優先するのはもちろん、場合によっては人よりも山に残る遺跡なんかを優先するような者が領主に相応しいと思うか?」

「それは…」

「だが、こうした役回りも番犬一族として誰かがやらねばならんことだ。今の所、ツルギの番犬に俺以上の適任はいない」


 よって俺がサカシータ家当主を継ぐことはない、と彼は整然と語った。



「しくしくしく」

「オーレン様あ、口でしくしく言ってたって説得力ねーんすよお。大してこたえてませんよね?」

「だってだって」

「はいはい、ジーロ様は立派すね、流石は子爵様の息子さんっす」

「やっぱそうかな!? でもそしたら僕要らない…!?」

「………………」


 そんなことないよ、とでも言って欲しげなオーレンに、さっきから散々「そんなことねーっす立派な当主様っす」と言い続けてきたエビーもついに面倒くさそうな顔になった。



 うぉう。


「穴熊隊長さん、何でしょう」


 ボソボソ…。

(姫よ、どんな策を考えてきた。早く聞きたい)


「あ、はい。…オーレン様の話はいいんですかね? 一応呼ばれた立場なんですけど」


 ボソボソ。

(キリがない)


「うん、まあ…。オーレン様と長い付き合いの穴熊さんがそう言うんじゃ仕方ありません。では、先に話してしまいましょう。タイタ」

「は」


 タイタに声をかけると、持参した封筒から何枚かの資料を取り出し、オーレン、ジーロ、穴熊、ザコルの前に置いた。その間に私はテイラーの蔵書を元に自作したオースト国内の地図をテーブルに出す。


「ここにうちの騎士を呼んでいい、ということは、話してもいい、という解釈でおりますが、問題があればおっしゃってください」


 私は目の前の穴熊隊長とオーレンの方を伺う。


「特になさそうなので、このまま進めさせていただきます」


 私は、穴熊の持つ特殊能力『感覚共有』を活用した、ある作戦の説明を開始した。








「感覚共有、か。これまた何と心躍…いや」


 コホン。紳士タイタが咳払いで心内を誤魔化す。彼はオタクだけあって、ファンタジーっぽいというかラノベっぽい展開が大好きだ。


 当然ではあるが、穴熊の能力を説明するだけでそこそこ時間を食ってしまった。これは長くなりそうだ。


「またやっべえ能力すねえ、そりゃ話すのに慎重にもなるわけだ」

「そんなわけでね、王都に向かったテイラー勢や、シータイやカリューの動向はほぼ時差なく把握できてます。いつもありがとうございます、穴熊さん達」


 うぉう。


 彼らを代表して穴熊隊長が返事した。今この瞬間もこの会議は彼らの間で共有されている。

 …そう、『聴かれている』のだ。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているという格言がごとく…。


「あのさ言っておくけれど、穴熊の能力だっていわゆる闇の力ってのに相当するんだよ」


 オーレンが口を挟む。


「え、そうなんですか。ああそっか、精神に関わるからか、なるほど」


 感覚共有とは彼らの氏族に受け継がれた能力で、仲間内約二十人でそれぞれの視覚や聴覚から得られる情報を共有しているというものだ。つまり精神同士をつなげる魔法であり、精神感応系魔法の一つに数えられるというわけだ。


「ザラミーアや末の双子の力もだけれど、穴熊の存在が公にバレたら、サイカ国だけじゃなくメイヤー教も乗り出してくる可能性があるし、それをネタに他の領から脅される可能性もある。そこのところ、前提としてちゃんと知っておいて欲しいんだよ」


 ここでまたメイヤー教が出てくるのか…。最近まで敵とも味方とも思っていなかっただけに意識から外れがちである。

 だが、メイヤー教はそんじょそこらの邪教と違い、国家規模の組織だ。気を引き締めていかなければ。


「ですから、父上はそうなっても徹底抗戦する構えなのでしょう? だったら何も問題ありません」

「また極端なことばかり言って。本国と隣国二つを全部敵に回せっていうの? いくら何でも」

「更地にしたいのであれば少しは協力しましょう」

「本気かいザコル。君はミカさんの側を片時も離れたくないんだろ?」

「それはそうですが、現状ここが脅かされるとミカの安全も脅かされますので」

「だからさ、そうならないように止めようって気は……ないんだね。何で、ああ分かった、分かったから」


 威圧よろしく闇の力を使おうとするザコルに、オーレンが言葉を引っ込める。


「ザコル。これは話し合いなんです。脅すのはルール違反ですよ。オーレン様のご意見も正しいんですからね。では、考えてきたプランの詳細についてご説明いたします。お手元の資料をご覧ください」


 皆が紙を手に取る。背後ではタイタが差し出した紙をエビーも一緒になって覗き込んだ。




「…とまあ、こんな感じです。実際には現場に行ってみないと判らないことも多いんですが」

「僕は概ねいいと思いますよ。ジーロ兄様はどう思われますか」

「どう、と言われてもな。父上、今更だが、俺は穴熊の能力を知ってしまって良かったのか」

「分かるだろ、ザッシュは穴熊を連れて既に領を出てしまったし、ロットはシータイで謹慎中、というか関所の護りを強化中だ。こっちにも動ける身内が欲しいんだよ」


 しかもザッシュは例の王女様、アメリア様とテイラーの騎士団長に話してしまっているし、とゴニョゴニョする父親に次男は溜め息つく。


「全く、邸に帰って早々人使いの荒い」

「そう言わずに頼むよジーロ」


 ふむ、とジーロは頷いた。


「頼りにされてしまっては致し方ない。では、身内として建設的な質問でもしてやるか。ホッタ殿。この作戦を遂行するにあたり、我が領の利点を聞きたい」

「はい。まずは…」


 想定していた質問だ。私はこの作戦の最終目標を話し出した。




つづく

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