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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ある意味マナー上級者だなと思っただけですよ

 トントン。

 ノックが鳴って、タイタが応じるとメイドがワゴンを押して入ってくる。



「ミカ殿、牛乳と蜂蜜を手配させていただきました」

「混ぜて温めろってことですね分かります」


 私は浄化番長タイタの指示で温かい蜂蜜牛乳を作り、隣の人に差し出した。


「要りません」


 ぷい。


「へえ、じゃあオーレン様に」

「飲みます」


 ずずー。


「ちょっとザコル、そんなに音を立てたら行儀が悪いよ」

「はあ全く、来てくれて感謝しているだとか今更な上に何様なんでしょうか」

「むぐ」


 ずずずずずー。



 これは、わざと音を立てて飲んでるな…。アメリアのスパルタマナー教室で散々叩き込まれたはずなのに。


「ふふっ、マナー違反で文句言えるようになったなんて」

「馬鹿にしてるんですか」

「いいえ、ある意味マナー上級者だなと思っただけですよ」


 ほわり。変わらず仏頂面だが、ザコルの雰囲気がかなり和らいだ。甘いもので機嫌が治るとか女子かな…。


「ごめんよザコル。焼き鳥なんてサラリーマンの大好物だからさあ、つい調子に乗っちゃった」


 てへぺろ。


『父上…』


 空気を読まないお父さんを次男と反抗期の八男が再び睨む。


「まあまあ二人とも。オーレン様、塩味の焼き鳥ならいくらでも作れたんじゃないですか?」

「僕はタレ派なんだよ! リアに任せると串に刺すこともせずに丸焼きにしちゃうし! あと何でだか分からないんだけど、料理できる奴に任せても焼き鳥屋の塩焼き鳥にはならないんだよなあ…」

「下ごしらえの問題ですかね。お店のはお酒とか色々使って下味つけてるかもしれないです。あと、胡椒も欲しくなりそう」

「胡椒かあ…。胡椒は砂糖や蜂蜜以上に高くてねえ…」

「ですよねえ」


 ずずずずずずずずずずー。


 嫌味ったらしい啜り音が部屋に響き渡る。


「はいはい、ヤキトリの話はいいんで! ちっとも進まねえじゃねーすか!」

『はいすみません』


 ついに耐えきれなくなったツッコミ番長エビーに私とオーレンは揃って頭を下げた。

 私まで調子に乗ってしまったが、焼き鳥作りは楽しみだ。きっと皆にも喜んでもらえるだろう。


「おいそこの、女帝を焚き付けて兄の出奔を公認させた野生児よ」

「人聞きの悪い。ミカの手駒にするなどと言い出した時は止めましたよ」

「ふむ。それはそうなんだろうな、その心の狭さでは。まあいい、お前のその力のことだが、ザラミーアと同じ質のものだな、それにザハリとも…」


 次男はいわゆる『闇の力』を第二夫人と九男が持っていることを知っていた、あるいは感じ取っていたようだ。


 思えば、ザッシュやロットもこの力を『ザハリの十八番』と表現していた。

 どういう力か正しく知っているかどうかはさておき、九男が洗脳に関わるスキルを持っていることは、少なくとも在領の兄弟間では共通の認識だったということになる。


「そうらしいですね。僕はそんな力が自分や家族にあるとはこの歳まで知らずに生きてきましたが、先日たまたま知ってしまったんです。なので、そこの父を特殊魔法士隠匿罪で逮捕するかどうか検討中なのですが」


 特殊魔法士隠匿罪、なるほど、そういう罪状になるのか。

 強い力を持つ魔法士が見つかった場合、本人か保護者が国に届け出なければならないルールだというのは私も知っている。私も氷結魔法を発現させた時点で、テイラー伯爵セオドアを保護者として国宛てに報告を上げたとの説明は受けていた。

 闇の力、メイヤー教風にいうならさしずめ悪魔の力だろうか。そういった力を使う魔法士ともなると、上に『特殊』をつけて呼び分けるものらしい。


 …あれ、もしかしなくても、サゴシのことを公にすると不正として誰かが裁かれるような事態になる可能性が…?

 いや、問題は本人かテイラー家が国に彼の存在を報告しているかどうかだ。その辺り、後でサゴシ本人に確認するとしよう。


「逮捕、ふぅん、うちの八男はそういう権限も持っているのか。やらかしたなあ、父上。うちには保釈金を払う余裕などないぞ、どうする」

「逮捕前提で話を進めないでくれる!? 大体、これを大ごとにしたらザコル、君の立場だってどうなるか」

「今でさえ一部王族から『氷姫』を私欲で拐かしただの何だのと言いがかりをつけられているので今更です。それに父上の罪と僕の処遇は別問題ですから。ご心配なさらず」


 ニコォ。


「そんなあ…!」


 ぴえん。


「ふむ、父と八男の処遇は横に置いておくとして。その『氷姫』とやらも散髪師の異名だな。お前、こちらに来て一年も経たないうちにあだ名をつけられすぎじゃないのか」

「それは私も思います。氷姫はテイラー邸の使用人の皆さんがつけてくれた最初のあだ名ですよ。あの頃はまだ氷しか作れなくって」


 タン、ザコルがマグをローテーブルの上に音を立てて置く。もちろんわざとだ。


「なんだ、ザコル」

「ジーロ兄様、この人にはもう少し敬意を払ってくれますか。お前や散髪師呼ばわりは」

「私は別に何でも」


「つかやりたい放題の兄貴が言うなよなー」

「お前だって充分に気安いだろう、エビー」

「む、でもミカさんがそう呼んでくれって…」


 ジーロとザコル、ついでに後ろの騎士二人まで微妙な空気になった。

 お願いだから私のあだ名や呼び名なんかで揉めないでほしい。と言うかぶっちゃけ『女』とかでも全然いいのに。


「まあ、確かに散髪師はあんまりか。だが、俺は聖女とは呼ばんぞ」


 ジーロの言葉からは、悪意とまではいかないがはっきりと線引きしたい旨が伝わってくる。

 勝手な憶測になるが、彼は敬虔な山神教の信者か何かなのだろう。ぽっと出の怪しい女を聖なる者などと認めたくないとか、そんな思いでもあるに違いない。全く正しい感情である。


「ジーロ兄様」


 追求しようとするザコルを手で制す。


「構いません。私も聖女と呼ばれたいわけではないのでお好きになさってください」

「ですが」

「といいますか、だったら私を絶賛祀り上げキャンペーン中の山の民神官連合の皆さんを止めてくれませんかね? 私なんか下界どころか異界の穢れそのものだって若い子を説いてくださいよおおお!」


「急に縋ってくるな。…しかし、そうか、神官どもが祀り上げようとしているのか。それは厄介だな」


 ジーロは剃られて無くなった髭を撫でようとしたのか、持ち上げた手を顎下で彷徨わせて握った。




つづく

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