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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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絶対に嫌ときたか

「シュウ兄様は、ミカの下につけられた時点で自分が後継候補から外れたと認識していたようです。義母上は気に入ればテイラーに連れ帰ってもいいとまで言っていましたから」


 ザコルの証言にジーロが片眉を上げた。


「おい父上よ、母をここに呼んだ方が早いんじゃないのか。不在のまま真意を探っていたって不毛だろう」


 正論パンチを繰り出すジーロに、オーレンが首を横に振ってみせる。


「迎えなら何度も遣ったさ! だけど僕が反対するのを解っててザッシュの出領を黙認したリアが、今更僕からの招集になんて応じると思うかい。何なら自分もアメリア様について行くとか言ってゴネてたらしいし。大方、テイラー家を新しい政権の中枢に据えてやろうとか、国をひっくり返してやろうとか物騒なこと考えてるんだろう。全く、ザコルが国の悪口ばっかり言うからだよ?」


「人のせいにしないでくれますか。僕は悪口ではなく事実しか言いません。大体、父上こそ僕らのことを義母上に丸投げだったくせに、今更何を言っているんですか?」


「むぐ」


 正論パンチその二である。


「義母上はただ、シュウ兄様を自由にしてやりたかっただけかと思いますよ。領外の難所にトンネルを掘りたいだとか、夢物語を語っていたのでしょう」


 うぉう。穴熊隊長が頷く。


「それに、元はと言えばミカがアマギ山のトンネル建設の話を取ってきたせいです。全てはあそこから始まったのです」

「はあ? なんで私のせいなんですか、トンネルの専門家がいるってジーク伯兄弟、オンジ様マンジ様に売り込んだのはザコルでしょ? 私なんかただ酔っ払って演歌歌ってただけで」

「何だか既に懐かしいですね。ミカを拐ってきたと容疑をかけられたのはあれが最初でした」

「あのオンジ様が書いた手紙、オーレン様宛だったのにザッシュお兄様に渡したのザコルですよね? 背中押す気満々だったんじゃないですか?」

「ああ、やはり不審者という立場は魅力的だ。ミカというまばゆい光の陰に隠れて生きてゆきたい」

「ちょっと話聞いてます!? もーっ」


 ゆさゆさしてみたがちっとも揺れない。


 ぐふぉっ、ぐふぉっ。

 困っている私を見て穴熊隊長がウケている。


「こーの変態兄貴はよう、子供の目がねえとすぐ調子に乗んなあ」

「ザコル殿は以前から仲のよいお兄様のお幸せを切に願っていらっしゃったということだろう」

「そりゃ長えブラフっすね」


 後ろの騎士達の仮説が本当だとすれば、ザコルはジーク伯兄弟にザッシュを紹介しようとした時点で、領に縛られた兄を外に出してやろうと画策していたことになる。なぜか全部私のせいにしようとしているようだが。


「ふむ、うちの八男とはこんな奴だったのか。知らなかったな」

「真面目な子だと思ってたのに…」

「僕が真面目? どこがですか。好きなようにしか生きていませんよ。そういえば、ロット兄様も僕を『いい子ちゃん』だと思って『いい兄ちゃん』をしていたらしいんです。だから僕も優しくすることにしました」

「ああ、それでロットの分まで僕に文句を言うのか…」

「ええ。いい弟としての嗜みかと」


 ニコォ。魔王の微笑み、ではない。これは心から無邪気な微笑みだ。多分一つも悪いと思っていない。


「…心臓に悪い顔だね、引っ込めてくれないかな」

「人の顔を邪悪なもののように言わないでくれますか。ああ、名実ともに邪悪なものだったんでしたか、父上」

「むぐ…」

「僕は、知りませんでした」


 じわり、じわり。闇とおぼしき気配が徐々に濃くなっていく。


「う、きちーな、これ」

「じょ、浄化を…っ」


 エビーとタイタの呟きを聴いて、私は隣に座ったザコルの手を取った。


 さあっ、精神を蝕む気配が幾分か和らぐ。だが、全ては『中和』しきれていない気がする。恐らく、少し触るくらいでは浄化しきれないくらいの強さと質量のある力なのだ。


 オーレンがあからさまにホッと息を吐く。穴熊もさりげなく緊張を解いた。ジーロは眉を寄せる。


「おい、今のは」

「ミカ、どうして止めるんですか。まだ試している途中だというのに」

「お父様相手に試さないでください。というか、もう使いこなしてるんですか?」

「今までも尋問などでは無意識で使っていたんです。手本も見せてもらいましたから、この感覚か、と思い当たるものがありまして」

「どうせ試すならザラミーア様のお手伝いをして差し上げたらいいでしょう」

「ですから、長兄の尋問はあなたの護衛としても、テイラーの工作員としても任務外なので請ける筋合いがないんです。どうして僕がミカの側を離れてまであの兄の顔を見なければならないんですか? 絶対に嫌です」


 絶対に嫌ときたか…。


「おい、散髪師…」

「では、ご褒美を用意しましょうか」

「カクニを山程作ってくれるんですか?」

「いいえ。新しい料理を試します」

「ほう?」


 ザコルの表情が変わる。


「さっきザラミーア様に確認したら、鹿肉のみならず鶏肉や卵もどっさり用意してくれたという話でしたよね。へそくりを全部はたいたとか。それでぜひ孫や子を喜ばせてやってと頼まれてしまいましたので…」

「何を作るんですか」

「まずは出汁巻き卵ですね」

「ダシマキ卵」

「甘い味付けにはするとして、出汁はどうしようかな…。ひとまずは砂糖と塩で作ってみるしかないですね。あればキノコとかで出汁を取ってみましょうか」

「甘い味付け、ダシ」

「それから、タレを作って焼き鳥をするのもいいかなと。丁度ネギもあるし、ねぎまも作れます」

「ネギマ」

「皮と、お肉が余ったらつくねも作ろっかな。炭があれば炭火で焼きたいなあ…」

「ツクネ」


 ガタッ、執務机の方に座っていたオーレンが立ち上がった。


「ミカさん!」

「何ですか父上。話に割り込まないで」


「炭、少ないけどあるよ! あと七輪も!」

「七輪!? 七輪てあの七輪ですか!? わあ流石ですオーレン様!」

「ねえ僕のお小遣いも出すからもっと鶏肉仕入れようよ! 僕もタレ味の焼き鳥食べたい! 他に必要なものがあれば言って!?」

「うーん、お醤油と言いたいところですが、それはなさそうですからねえ。とりあえずは蜂蜜と塩をベースにやってみますが、何かアイデアあります?」

「僕は前世も今世も料理はからっきしなんだよお、うどんは小麦粉を練るだけだから何となく形になったけどさ、スープは人任せだったし。ネギっぽい野菜を見つけて作らせてはみたもののみんなには不評で…」

「あれはエシャロット、いやエシャレット…? ですよね。ニンニクっぽい風味もするし、普通のネギよりも生食はキツいんじゃないでしょうか。加熱した方が受け入れられやすいと思いますよ」

「そっか加熱か! 君、あれを使って角煮や肉じゃがを作ってたんだってね、しかも好評だったとか。醤油もないのに、一体どうやって?」

「あはは、そんなの適当ですよ。ネギとワインと塩と林檎のすりおろしで味付けしました。角煮っていうか赤ワイン煮ですね。中田…じゃなかった、カズには焼肉のタレ味だって言われました」

「うわあ、僕、焼肉も好きだったよ! 新しい店ができるたびに若いのが行きたがるからよく連れて行ったなあ……まあ、財布代わりにされてただけかもしれないけど」

「財布代わり…あ、えっと、もしもあのネギがなかったらもっと味気なかったと思いますから、作っていてくださったことに感謝です!」

「嬉しいなあ、君が部下ならいくらでも気持ちよく奢ったのに。今更かもしれないけどね僕、今は君が来てくれたことに本っ当に感謝してるんだよ。その調子で僕の中途半端なアレコレを何とかしてくれ!」

「ふふっ、中途半端なアレコレ。ありがとうございますオーレン様、できることは精一杯させていただきますね。それにしても、知識があっても一人で形にするってやっぱり大変なんですねえ…」


 うんうん。


 ぽんぽん、後ろから肩を叩かれる。振り返るとエビーが首を小さく横に振っていた。


「おいそこな散髪師改め料理人よ」

「あ、はい」

「いや、祓魔師、祈祷師か? 父はいいからそこの悪霊化でもしそうな野生児を何とかしろ」

「あ、やば」


 ジーロ王の指摘に隣を見れば、ズモモモ、とでも音を発しそうな人が執務机の方を見つめていた。




つづく

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