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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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俺の初恋だからな

「とまあ、茶番はこれくらいにしてだな」


 しれっ。何でもないかのように言い放った次男にオーレンが目を剥いた。


「茶番!? 君は本気だったろジーロ!!」

「そりゃあ。ザラミーアは俺の初恋だからな」

「ジーロさんたら。あなた相変わらずねえ」

「ええ!? 前から口説かれてたの!? 僕知らないんだけど!?」

「育児にちゃんと参加なさらないからですよ。仕方のないことですけどね」


 くすくす。


「ジーロさんが三歳の時に初めてしてくれたプロポーズはよく覚えているわ。それからというもの、家を出るまで毎日のようにしてくれたわね」

「三さいからまいにちプロポーズとか。すげーな」


 ゴーシが感心したような呆れたような顔でジーロを見上げる。


「甥よ、運命の出会いというのに年齢は関係ないぞ。この人だと思ったらすぐにでも手に入れる算段を考えろ、なりふり構うな。まあ、俺の場合は気づいた時点で既に人のもの、とりわけ第一夫人である実母のものでな、あれは手強い…」

「だから僕の奥さんでもあるって言ってるだろ!?」


 ほう、とザラミーアが溜め息をつく。


「今年の冬はいいことばかりだわ。かわいい孫や娘達が遊んでくださるし、いつもは私を放ったらかしの夫や息子達が熱烈に私を口説いてくださるし」

「ほ、放ったらかしのつもりは」

「私、オーレンの奥さんだったのね。知りませんでしたわ」

「知らないわけないだろ!? そりゃリアの方がずっと旦那らしいけどさあ!」

「ええ、あなたと私、二人で妻をしている気分ですものねえ」


 ほほほ、とザラミーアが笑う。


「サカシータ家はイーリア様が旦那でオーレン様が第一夫人だったんすね…」

「エビー君…。否定したいところだけど、リアだからね…。僕とは役者が違うんだよ。でもリアがいないうちは僕がザラを守らなきゃ」

「頼もしいわ、オーレン」


 くすくす。ザラミーアがとっても嬉しそうだ。


「さあさ、食堂に移動しましょう。遅くなったけれど夕食よ。ララ、ルル、お待たせして申し訳なかったわ。あなた達にはお部屋を用意させていますからね、夕食後に案内させます」

『ありがとうございます、奥様』


 他人行儀に頭を下げる姉妹にザラミーアは首を傾げてみせた。


「あら、あなた達は私を口説いてはくれないの?」

「い、いえ、間に挟まるのは地雷で…じゃなかった」

「私達、奥様と領主様が仲睦まじくしていらっしゃるのを眺めるだけで幸せなんです。それから、そこのお二人」


 ララとルルは、ザラミーアから最大限距離を取った位置にいるザコルとその脇に抱えられた私の方を見た。

 そして、揃って『ぶふうっ』と吹き出した


「つっ、ついさっき何人侍っても平気みたいなこと言ってたのに…っ」

「めちゃくちゃ遠くにいる…っ」

「うるさいです、ララ、ルル。それからナラの後ろに隠れている姉上も。笑っているのは判っているんですからね」

「…わ、笑ってなんかいませ…っ、くふっ」

「笑っているじゃないですか!」


 ザコルが口を押さえて震える義妹達と、魔獣ウォールの中にいるであろうミリナの方を睨む。


「なあに、あなた達随分と仲良くなったじゃないの、ずるいわ!」

「母上が放ったらかしにするからでしょう? 何を手間取っているんですか」

「そう思うなら手伝ってくれればいいでしょう! ここ数日、ずっと調子が出ないのよ。何ていうか、まるで毒気を抜かれたような感じで。私も歳かしらねえ…」


 ザコルはオーレンの方をチラリと見る。オーレンは小さく首を横に振った。


「ザラミーアは永遠に乙女だとも。毒があろうがなかろうが美しいぞ」

「まあまあジーロさん、その格好で言われると思わずときめいてしまうわ」

「む、こちらの方が好みか? 男は野趣溢れている方が好きなのかと思っていた。たまには身綺麗にしてみるものだな」

「ふふ、どんな格好でも私の大切な宝物に変わりないのよ。清潔にはしてほしいけれど」

「そこな魔法士よ、明日も風呂を沸かしてくれ」

「仰せのままに」


 野趣溢れる男を目指していたジーロは一転、身綺麗な貴公子を維持することにしたらしい。

 母…いや、恋の力は偉大である。


「まあ、冬の間だけでしょうね。春になったらすぐツルギ山に戻って野生化しますよ」

「やせーか? ジロ、やせーかしる?」

「はい、リコ。ジーロは野生化します」


 中高で習う不毛な英語構文みたいな受け答えだ。


「リコもミカとおなじの、やって!」

「脇に抱えてほしいということですか?」


 リコは私を抱えるのとは反対側の腕で胴を抱えてもらい、きゃっきゃと喜んだ。


「イリヤはいつまでセーフティゾーンにいるんですか」

「ふぇっ」


 燃え尽きたタイタの後ろでイリヤが飛び上がる。


「だ、だって、きゅうに、はずかしくなっちゃったんだもん…。タイタ、タイタ、そろそろおきてよお…」


 ゆさゆさ、イリヤがタイタをゆするが反応がない。彼が完全に心神喪失するのも何か久しぶりだ。そんな刺激的なこと言ったっけ、言ったか。初恋、だもんな…。供給してしまったか…。数日後にはシータイであいつら初恋同士らしいぞみたいな情報が流れるんだろうか、流れるんだろうな…。


「ごっ、ごめんねイリヤくん、大人が大人げなくて! あはは」


 赤面しそうになるのを誤魔化し、努めて明るい調子で言う。恥ずかしいのも心神喪失したいのもこっちだこの、などという大人げないセリフは飲み込んだ。


「でも、いつかはイリヤくんも」

「いつか!? ううん、僕ははずかしいからいい!」


 首を横にブンブン振る少年に思わず苦笑する。しっかりオーレンの孫だな。


 ただ、今までは色恋を意識さえしていなかったのだろうから、これも一つの成長なのだろう。素直に恋や恋バナを楽しめるようになるのはまだまだ先になるかもしれないが。






 夕食後、ゲスト達に風呂を勧めがてら、浴室で魔法の実演を行った。


 ザコルが大樽を傾け、私が魔法をかけてボフンと湯気が立つと歓声が上がる。鉄板芸のウケは今日も上々だ。


 本日の夜はオーレンに話す時間をもらっていたが、時間も遅くなったし流れるかも、と思っていたら、オーレンの方から招集連絡がきた。しかもテイラー騎士を連れてきていいという。



「サゴちゃんはどうする?」


 ぬるり、寝室の奥の方の壁からいきなり忍者が現れた。

 今どうやって潜んでたんだろう。壁紙に似た柄の風呂敷でも持っているんだろうか。


「俺は廊下で待機してます。何かあったら呼んでください」

「そう、分かった。君のことは基本的に話さない予定だけど、味方に闇極振りの子がいて、みたいな話はするかもしれない」

「それは構わないですけど、てかもうバレてません?」


 サゴシはザコルの方を見た。


「いえ、父が人の能力を鑑定できるということは判っていますが、どういう条件でそれを『視る』ことができるのかは僕も知らないんです。君のことはあちらにバレていないていでいきます」

「りょーかいです。てかバレてもこの領じゃ迫害とかされないと思うんで、お二人に任せます」


 ぬるり。そして忍者は壁に消えた。

 ちょっと近づいていってどこに消えたのか確かめたい気もする。




つづく

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