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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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222/571

駆除されたかったのよ。容赦なく

すみませんまた予約の日付が明日になってました

「命じたからにはちゃんと来てくださいよ。ザラミーア様にも言っておきますからね。丁度、ミリナ様にももっとママ友がいたらいいなと思ってたとこですし」


『ままとも?』


 ララとルル、双子姉妹が聞き慣れない言葉に首を傾げた。


 やっと椅子に座ってくれた二人だ。廊下にいたメイドに声をかけ、お茶を届けてもらった。


「子育てのことをおしゃべりできる相手、という意味です。ワンオペ育児は孤独との戦い、戦友とのランチは心の糧と聞きましたから」


 前職場のお姉さん達がそう言っていたので間違いない。


「ままとも、とは戦友のことなのですか。確かに、義姉上には同じ立場の戦友がいませんでしたね」

「でしょう? 今日はララ様ルル様が来るって聞いて、ミリナ様とっても嬉しそうだったんですよ。私、彼女には毎日楽しく過ごしてもらいたいんです!」

「…そうですね、義姉上のお力にもならなくては」


 ザコルがほのかに笑い、私の頭をいーこいーこと撫でる。


「と、徳が高すぎる…!」

「これが愛され義妹の境地…!」


 愛され義妹の境地って何だろう…。よく分からないが、ララとルルは吹っ切れた様子だ。気負ったものが少しでも解消されたならよかった。


「ミカ、後で部屋に戻って謎服に替えてきてもいいですか」

「あ、はい。いいで」

「あの! 格好が問題なのではありませんから! 不審者ルックなんてしなくていいですから!」


 ララの言葉にルルもこくこくと頷く。


「そうですか? しかしこの容姿が問題なのでは」

「ファンサのプロデュースが聖女様と知れたのでもう大丈夫です!」

「あの」


 一体何が大丈夫なんですかと突っ込もうと思ったところで、


『私達は公式のしもべです!』


 と双子は声を揃えた。


「あの」

「公式のしもべ、ですか。ミカは同志達に『公式聖女』なる二つ名をつけられています。それと同じようなものでしょうか」

「公式聖女…!!」

「何かしっくりきました!」

「あの!? 何がしっくり!? その二つ名過去最高に意味わかんないのに!!」


 ララとルルの言動が完全に『同志』だ。

 この二人、よく考えなくとも元ザハリファンか。あのお姉さん達とほぼ同じノリで生きてるってことだ。


「お話しできて良かったわ、私、異物が間に挟まるのは地雷なの!」

「それは私だって地雷よ。でも姉さんたらわざわざ挟まりに行ったわよね」

「駆除されたかったのよ。容赦なく」

「うううん…!! その気持ちも解っちゃう自分が本当に嫌だわ!」


 双子姉妹は二人でキャッキャと盛り上がり始めた。テンポが早くて何も突っ込めない。


『聖女様!』


 と思ったら急に話が飛んできた。


「あ、はい何でしょう。というかミカと呼んでくれませんか。何となく呼ばれ慣れちゃってますけど、別に聖女と自称しているわけではないので」

「そそ、そんな、お名前でお呼びして何かへの冒涜になりませんか」

「なるわけないでしょうよ。私を一体何だと思ってるんですか? うちの影っ娘じゃあるまいし…。所詮は異世界のド庶民、通りすがりの変な女ですよ」

「聖女様レベルで庶民!? 異世界って、凄いんですね…!」

「えっと、別に私は凄くないですけど、科学文明の話はみんな凄いって言ってくれますね。で、すみません。何でしたか」


 ララとルルはお互いに顔を見合わせ、姿勢を正して私に向き直る。


「せい…いえ、ミカ様。私達、お力になれることは何でもしますから、何でもおっしゃってください」

「えっ、そんな、遊びに来てくだされば私は充分で」

「お願いしますミカ様。これは、私達の贖罪でもあるのです」

「贖罪? どうしてお二人が私に?」

「私達はザハリ様のファンでした。しかも、強火業火気味な…」


 ララとルルはザコルの方をチラリと伺う。


「私達は本当に、ザコル様やご領主様達から一方的に親切にしていただけるような立場ではないんです」

「そんな罪悪感もあって、その…」

「ララ、ルル。僕は別に」


 姉妹は揃って首を横に振った。


「この先、私達母親まで皆様のお世話になっていいものかはまだ結論を出せませんが、とりあえず、何かしていただくだけではいけないと思いました。ですが私達がザコル様に直接何かというのは、やっぱり外聞がよろしくないと思ったんです」

「だから、その、聖女様、ミカ様にならばと」


 …なるほど、難しいな。


 ララとルルははっきり言わないが……というか言えないか。かつてあなたの悪口を吹聴していました、だなんて。

 それで、ザコルへの償いのために、間接的ではあるが私の役に立てたらと……


「……何ていうか、みんな、ほんといい人ですよねえ」


 双子が『えっ?』と瞳を瞬いた。


「ミカがそれを言いますか?」

『ほんそれですよ!』


 ザコルの突っ込みに双子姉妹が強めに同調する。


「いやいやいや、さっきからお互いに、どう相手に良いことをしてやろうかって話しかしてないじゃないですか。見返りも求めてないでしょうし。全くとんでもないお人好し会議ですよね。というか元はといえばザハリ様が悪いんですし苦労したのもお互い様なんですから、細かいこと気にするのやめたらいいんじゃないですか」


 ブンブン、姉妹は再び首を横に振った。

 さっきから動きのシンクロ率が高くて感心するほどだ。これが双子か…。


「全然細かくなんてないですよ! ミリナ様にだって、ザコル様は親切すぎるから距離感には気をつけた方がいいって言われたんですから!」

「えっ、義姉上が」


 がーん、とばかりにザコルが顔色をなくす。


「それはまあ、周りにもよく言われてますよね。そんなつもりないのは解ってますけど、すぐ武器とか贈ろうとするから」

「武器を!? ……え、武器を? ミリナ様に?」


 プレゼントのチョイスにララが首を傾げた。


「なぜ武器かはともかく、高価な贈り物にはなりますよね、それは…」


 ルルは眉を寄せた。


「はい、解っています。あれは浅慮だったと反省しています。魔獣達にも勘違いをさせかけましたし」

『魔獣達?』

「魔獣達は、かつての戦友であるザコルを、ミリナ様の新しい伴侶に据えようとしてるんですよ」

『ええっ伴侶!?』


 姉妹の声がいちいちシンクロするの本当に面白い。


「そう伴侶……あ、そっか。だからミリナ様も慎重になってるんですね。彼ら、まだ諦めてないと思いますから」


 もしララとルルが不用意にザコルに接近すれば、魔獣達から『恋敵』と認定される可能性もゼロではない。万が一魔獣に敵と認定されたら、見るからに非戦闘員っぽいララとルルは子爵邸に近づくこともできなくなる恐れがある。


「はあ、あんなに否定しているのに…。相変わらず僕の意思は無視だな」


 がく、とザコルが分かりやすく肩を落とす。


「ミカ様がいらっしゃるのに、それでも魔獣達は諦めてくれないんですか?」

「彼ら、依然として私のことを魔獣の一匹だと思ってますから。所詮人間とは結ばれないとタカをくくっているんですよ」


 ふふっ、と笑うとザコルとララルルの三人に揃って眉を寄せられた。


「何がおかしいんですかミカ、もっと失礼だと言って強く否定すれ彼らも引くでしょう」

「ザコル様の言う通りですよ。ミカ様はどう見たって人間の女性なのに!」

「ミカ様は彼らと会話できるんですよね? どうして怒ってやらないんですか!」


 人間、自分より怒っている人を見ると冷静になるものだ、というのはザラミーアの至言である。


「ちゃんと否定もしてるし、たまには怒ってみせたりもしてますよ。本気にされてませんけど。でもね、このザコルは『ミカという生き物』が気に入っているそうなんです。だったら、私が魔獣か人間かなんて正直どうでもいいことでしょう?」


 にこ、とすればザコルがたじろぐ。


「…ひ、否定はしませんが! それでも、あなたへの無礼は正すべきで」

「ザコルは、私が明日、竜やリスの姿になったらどうします? 護衛をやめますか」

「やめません」

「ね、だからどう思われててもいいんですよ、あなた以外には特に。まあ、人間だっていう主張は定期でしていきますけどね」


 はわあああ、とララルルが気の抜けるような声を漏らした。


『これが正妻の余裕…!!』


「えっ、せっ、正妻、とか、そんなつもり」

「私達ごとき羽虫が外聞を気にするなんてとんだ身の程知らずでした!!」

「もっと、もっと当てられたい…!!」


 姉妹はシータイ在住の元ザハリファンを彷彿とさせるテンションで大盛り上がりし、私は正妻というパワーワードに頭を抱え、ザコルは顔を両手で覆ったまましばらく動かなくなった。




つづく

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