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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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君の敵は私の敵だよ

 私は今日ミイから聞いたことを段階を踏んで話していく。



 闇の力についてもザコルとサゴシの了解を得てこの二人に話すことにした。

 元々エビーとタイタには包み隠さず話したいと言っていたザコルはともかく、サゴシもすんなり了承したのは意外と言えば意外だった。


 サゴシとズッ友なエビーと違い、中途採用で騎士団に入ったタイタがサゴシの能力に通じているとは思えない。

 サゴシとは、アメリアいわく『最奥を担う隠密』、エビーいわく『テイラー家の闇』だ。その正体を詳しく知らされて、外部から来たタイタがどんな反応をするかは未知数である。



「闇の力ですか…。そのような魔法能力は初耳ですが、サゴシ殿はつまり魔法士であられたのですね」

「まあ、魔法士って言っても華々しい存在じゃないんであんま人に言えないんですよ。ほぼ禁忌みたいなもん、てかあっちゃならない存在みたいな…。そういや、タイさんって、神徒なんですか?」

「神徒、ですか?」


 ぱちくり。タイタが不思議そうな顔でサゴシに返す。


「神徒とは、メイヤー教における悪魔討伐の役割を担う方々、という認識で合っておりますか」

「はいそれで合ってます。なんか、ミイちゃんがタイさんのこと多分神徒だって言ったんですって」

「ミイ殿が俺を? はは、まさか。子供の頃に一応洗礼は受けておりますが、王都を出て以来、テイラー領内にある教会にさえ足を運ぶこともしていないような不信心者ですよ。心より信じる神は唯一神、深緑の猟犬殿一柱ですし」


 やはり彼はブレない。紛れもない猟犬教の狂信者、というか教祖だ。


「僕は神ではありません」

「いいえ神でしょう。どうして闇の力などという心踊るお力を今までお隠しになっておられたのですか。供給過多でもはや内臓を全て吐き出してしまいそうです」


 そして推しの新事実発覚に完全にはしゃいでいる。洗練された所作とセリフのギャップよ…。

 闇の力などという心踊るお力を祓ってやろうというお考えは欠片も無さそうだ。


「吐かないでください。僕も今日初めて知ったんです。しかも比較的強い力、なのですね、サゴシ」

「あ、はい。人に力を分けられるような能力者、俺は孤児院の院長くらいしか知らないんで」

「おお、闇専門の孤児院に、院長は強い闇の力保持者と…!」

「なんかカッケーっしょ、タイさん」

「ああエビー、不謹慎かもしれないが、正直魅力を感じてしまうな。まさに『カッケー』という言葉が相応しい」

「へへっ、タイさんは好きそうだと思ったぜ」


 タイタの反応は私達としては予想通りだったとはいえ、サゴシの方は多少なりとも緊張していたのだろう。弛緩したように机に頬杖をつく彼の肩を、隣に座ったエビーがポンポンと叩いた。


「そんで、ダイヤモンドダストのダメージで死にそうだったこのサゴシに、兄貴が闇の力分けてやったっつうことすか」

「はい。ミイが触っていれば分けられると言うので。手遅れになる前に処置ができたようでよかったです」

「へー、それが救命処置っつうことね」


 エビーの顔に『全然エッチじゃないつまらん』と書いてある。


「ザコル殿が御自らサゴシ殿の身に闇の力をお注ぎになったと…?」


 じわ…。何か闇の力とは別のオーラがタイタから立ちのぼる。こっちはエッチだと思っているらしい。


「やべ」


 ガタ、とサゴシが椅子を立ってエビーの後ろに引っ込んだ。


「サゴシ?」

「神徒ってガセじゃねーな。タイさん、すいませんけど俺が滅されそうなんであんまぶつけんでくれます?」

「あ、も、申し訳ありませんサゴシ殿。あまりに羨まし…いえ、そのような力を発した自覚はないのですが…」

「ですよねー。これは俺が気をつけるしかねーか…」


 サゴシはそう言って少し離れた椅子に座り直した。


「お前にも天敵とかいんだな、サゴシ」

「いるに決まってんだろ、マジもんのメイヤー教神徒なんて天敵中の天敵だぞ。あいつら孤児院の場所変えてもすぐ嗅ぎつけてきやがるし…あ、でもな、姫様のダイヤモンドダストに比べたら正直ナメクジだったわ。そうだ姫様、メイヤー教にも気をつけた方がいいですよ。山神教や邪教じゃないですけど、あんな力使えるって知られたら利用しようとするに決まってます」

「そっか、でも、私が闇の力鍛えたらむしろ敵認定なんじゃない? 言い寄られる前に解決するよ」


 というかこれ以上宗教のネタにされるのはゴメンなので絶対に解決させたい。


「いや、闇を鍛えるって話も待ってくださいよ、わざわざ敵対しなくても」

「なんで? 別に味方するつもりもないんだからそれでいいじゃん」

「あんま敵増やさん方がいいですよ姫様」

「君の敵は私の敵だよ」


 一瞬、サゴシが言葉を飲み込む。


 彼はいつの間にか私のことを『姫様』と呼ぶようになった。私を主家の一員であると認め、守るのに専念すると言い切ってもくれている。正直底の見えない面もあるが、口先だけの嘘や方便は言わないタイプだと私には感じられた。

 この子も私がテイラーから預かった大事な若者の一人。彼が私を護る限り、私も彼を守る義務がある。


「…気持ちはありがたいですけど、俺みたいなのは本当に特殊なんですよ。持ってる魔力が闇しかないんです。幼い頃は精神も不安定になりがちで、問題起こすとか以前にまともに大人になれる奴も少ない。だからこそ人ならざる『悪魔』や『悪魔憑き』みたいに言われて、間引きの対象になるんです」


 先程タイタは神徒のことを、メイヤー教における悪魔討伐の役割を担う方々、と表現していた。

 どうやらオースト国界隈にいる神徒とやらは、普段から本物の悪魔を討伐しているのではなく、サゴシのような闇の力極振り、もしくは闇の傾向が高い者を探し出して間引くことを真に本業としている存在らしい。言い換えれば、子供を殺すことを生業としている輩、ということだ。


 もちろん、メイヤー教側にもそうする理由や正義はあるのだろうが、サゴシから聞く限りではどっちが『闇』だか分かったもんじゃないな、というのが正直な感想である。


「でも、姫様と猟犬殿は違うでしょう、あくまで闇も持ってる、ってだけだ」


 そんな外道から長年目の敵にされているらしい彼は、これ以上こちら側に来てくれるなとばかりに目に力を込めた。


 ミイによれば、私の魔力の傾向は『万物』なのだという。神徒の素質はないそうだが、闇を含む魔力要素を満遍なく持っている、ということらしい。私に触ることで闇の要素が中和されるということは、現在それ以外の要素が強いということになるのだろうか。

 ザコルの通常モードもおそらく『万物』に近く、強い闇の要素は普段奥底に眠っている状態なのだろう。


「猟犬殿は国内じゃアレな評価ですけど、メイヤー教の本拠地、公国じゃ『神のいかづち』って呼ばれて崇められてます。その猟犬殿が邪教やオースト王家から護ってる氷姫様のことだって、きっと今頃…。ほら、崇拝対象のスキャンダルって反動すごいじゃないですか。何も刺激することないですって」


 私が何か反応する前に、ふむ、とザコルが頷く。


「まあ、今敵を増やすことは合理的ではありませんね。ですが、別に僕もメイヤー教に過度に忖度する必要はないかと思います。僕はあくまで、第一王子殿下が取ってきた仕事の一環で公国の軍勢に数度加勢しただけの兵器の一つ。そんなかつての借り物とその連れに新たな力が発覚したところで、あちらがわざわざ討伐隊を組むメリットなどありません」

「そんなの分かんないじゃないですか、宗教の奴らってすげー理不尽で非合理なこと平気でしますよ」


 今までに理不尽な思いを散々してきたのであろうサゴシが食い下がる。


「ええ、知っています。ですがそれで最終兵器たる僕に喧嘩を挑んでくるというのなら、望み通り『いかづち』を再現してやるまでだ。どうせあちらも僕を同じ人間などとは思っていやしません。僕が人として慈悲をかけてやる理由があるとでも?」


 ザコルからも殺気じみた気が立ちのぼる。サゴシはそれには怯むことなく、黙ったままザコルを見つめ返した。ザコルはサゴシのために怒っているのだと思うが、そのサゴシにも譲れない考えがあるようだ。


「それに、ミカの方は闇を鍛えたとしても制御できる気がします。この女は、単なる水温の魔法を短期間で闇を灼き切るほどの精度にまで高めた、いい意味での『化け物』ですから」

「わ、ザコルに褒め言葉の『化け物』いただきました!」


 ほくほく。


「問題は僕ですよ。今まで制御していたらしいですが、完全に無意識です。そんなものは制御とは呼ばない。サゴシ、申し訳ありませんが、僕に稽古をつけてくれませんか」

「え、俺が猟犬殿に? でも、力の強さでいったらそっちのが上ですし、そのままで不都合ないならそれでも」

「制御できているとは言えない力の危うさは、君の方がよく知っているでしょう。今の僕は、昔と違って心動かされることも多いですし」

「毎日毎時毎分毎秒姐さんに振り回されてっかんな。危ねえ危ねえ」

「うるさいエビー」


 かぎ針が飛ぶ。


「完全に個人的な依頼なので謝礼もします。ペータを怖がらせたままなのも気になりますし」

「あー…。あいつ、俺に耐性つけられてなきゃ今頃完全に操り人形でしたからね」


 ペータが姿を現さなくなった理由が今はっきりした。やはり、鍛錬の時にザコルにさわさわされ過ぎたせいだったのだ。


「丁度いい実験台がいるんですよ。君も遊んでみませんか」

「実験台? 誰か拷問でもするんですか?」

「拷問とは人聞きの悪い。ただいくつか質問させてもらうだけです。タイタも付き合ってくださいね」

「お、俺もですか。しかし、闇の力の稽古をなさるのでは」

「君の力もまた未知数でしょう。同席すれば気づくことの一つや二つはあるはずだ」


 ちょいちょい、エビーが私の方に身を乗り出す。


「誰をやっちまおうって話すか」

「多分イアン様かな。尋問が難航してるんだって」

「へえ、あの人、まだそんな秘密とか抱えてたんすね。ご愁傷様っす」


 南無三。私はエビーと一緒に合掌する。


「ミカはジョジーから指導を受けてください」

「はい。私の方は攻撃目的じゃなくて防御目的ってことでお願いしようと思ってます」

「それがいいでしょう」


 ザコルの方は完全に攻撃手段に組み込もうと考えているようだ。そりゃそうだ。合理主義で克己心の塊のような彼が、新しい学びの機会を逃すはずがない。




つづく

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