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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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私も混ぜて欲しいと言っているのですよ

「ミカ様。私、二桁、三桁の足し算・引き算は理解できたかと思います」


 造花の試作に夢中になっていると、ミリナが話しかけてきた。


「えっ、もうですか。流石ですね。他は…」


 生徒達の様子を伺えば、ザコルがイリヤのフォローをしつつ自分の反復練習もし、執務メイド達は互いに掛け算問題を出題し合って取り組んでいた。その確かめ算もソロバンでしてみている様子だ。なんて意欲的で模範的な生徒達だろうか。


「すみません、みんなを放置するような形になってしまって」

「最初の説明が分かり易かったので問題ありませんわ。私の方は反復は宿題とさせていただき、そちらの作業に加わってもよろしいでしょうか」

「もちろんですミリナ様。どうぞどうぞ」


 ミリナは私が試作していた花を見ながら席につく。


「……見事な出来かとは思いますが、少々工程が複雑なのではないでしょうか」

「やっぱりそう思います?」


 花弁一つ一つを縫ってギャザーを寄せ、立体的に重ね合わせて芯に縫い付けた、真っ白な薔薇。


「ミカ様ったら、美的センスがないだなんてご謙遜を」

「私、見たまま忠実に作ることは割とできるんです。デフォルメができなくって…」

「デフォルメ、ですか」

「形を省略できない、といいますか、可愛らしくできない、といいますか。あ、氷の忍者像は普通に忠実に再現しようと思ったのにできませんでした。愛が強すぎたのかも」

「あっ」


 ザコルが手元を狂わせたらしく、なぜかこちらを恨めしげに見た。ミリナがクスクスと笑う。


 ティスに貰った例のブツは、着替えで一人になった隙にこっそりと見たが素晴らしい出来だった。何かスケッチ的なものをくれるのだと思っていたのに、どこをどう見ても完成された油絵だった。創作能力がレベチすぎて白目である。ティスおそろしい子…!


 絵の具のにおいでザコルにバレるのではと思ったが、今のところ詮索はされていない。私が一人で楽しんでいるうちは見逃してくれるつもりなのかもしれない。優しい。


「ふへへえ」

「今日は特にご機嫌ですねミカ様。外はあんな猛吹雪ですのに」


 吹雪で外に出られない日も、みんながいるから楽しいのだ。


「凄い風なんでしょうけど、建物の中にいると案外静かですよね。石の壁が分厚いから、遮音性も高いんでしょうか」

「言われてみれば。シータイのお屋敷で猛吹雪に見舞われた時はかなりの轟音でしたものね」


 ミリナは私の了解をとってシーツにハサミを入れ、四、五枚くらいの長方形を切り出した。それを重ねて折りたたむようにしてから真ん中を縫って綴じ、切りっぱなしの布の角を丸く斜めに、いわゆるバイアスの角度で切った。


「これをね、一枚一枚剥がして立てていくのですよ」

「あ、薄紙の花の原理!」


 よくお祭りや学校のイベントで飾られる、薄紙を重ねて蛇腹に折ってゴムなどで縛り、一枚一枚ふんわりと剥がして作るあの花と同じ仕組みだ。

 ミリナの手の中に一つのコサージュがコロンと生まれる。あっという間だ。


「わあ、簡単! これなら子供にもできますね!」

「私が子供の頃、嫁ぐ前に亡くなった母が作り方を教えてくれたのです。髪や人形に飾ったりして遊んだのよ、懐かしいわ」


 私も彼女を真似て長方形の布を切り出して重ね、角をカットしてから布を一枚一枚剥がして立てていく。

 コロン、私の手の中にもふわふわの白い花が生まれた。


「かわいい! すぐできる! どんな布でも作れる! これでいきましょう!」

「まあ、ご決断が早いわ。あまり厚地の布ですと上手くいかないこともありますよ」

「なるほど、厚地すぎると蛇腹に折って縫うのも大変かもしれないですね、でもまあ、何かには使えるでしょう」

「厚地布用に、違う作り方を考えてもいいかもしれませんね。形も色々あった方が楽しいでしょうし」


 ミリナと話し合って、ハギレの買取は、ミリナが教えてくれたコサージュレシピを参考に、縦二十センチ横十センチ四方以上の大きさであれば色や種類を問わず買い取る、買い取り金額は布の質に関わらず重さで決定し、その場で支払う、と決めた。





 昼食は食堂に案内され、ミリナとイリヤ、同志村女子達とともに食卓を囲んだ。大人も子供も、久しぶりにシータイの話ができて楽しい時間になった。


 ザラミーアからは、昼からの執務は当分手伝わなくていいのでソロバン実習を優先するようにと言われた。

 午前中に一桁の足し算引き算を習った商会女子達は、次の段階、二桁の足し算引き算に挑戦中だ。ペースが速すぎる気がしないでもないが、期限が一週間しかないのでどんどん詰め込んでもらうしかない。


 しばらくすると、ザラミーアもソロバン塾を覗きにきた。彼女は、立ち上がって挨拶しようとする女子達を鷹揚に手で制しながら、優雅に入室してきた。


「イリヤさんは騎士のお二人とドージョーに行ったのね」

「はい。剣のお稽古の時間ですから」


 お勉強に疲れたらしいエビーも一緒に剣の型を見直すと言って、イリヤとタイタについていった。


「それで、ミカは何をしているの、ミリナさんも」

「私は教本のレイアウトを考えています。ミリナ様には茎をどうするか考えてもらっています」

「茎?」


 かくかくしかじか。ザラミーアにも造花作りの件を説明する。


「小遣い稼ぎをする子供に仕事を。なるほど、まさに慈善事業ね」


 ザラミーアの顔に、儲からなさそうね、と書いてある。


「儲けが出ても困りますから」

「あなたって、生粋の貴族令嬢のような世間知らずというわけでもないのに。不思議な子よねえ…」


 またしみじみと言われてしまった。


「お義母様。ミカ様は、周りを幸せにすることしか考えていらっしゃらないのですわ」

「ミリナ様ったら、違いますよ。今はテイラー伯から預かった小遣いを使い切ることしか考えてないです」

「不思議はそれよ。自分の手を動かして金を使おうだなんておかしな話でしょう? 全部人に任せてしまえばいいではないの」

「もっと言ってやってください母上」


 ピッタ達の質問を引き受けていたザコルがこちらを振り返る。ピッタ達も黙ってはいるがうんうんと頷いている。


「最終的には全部人任せにする予定ですよ。最初だけです、最初だけ」


 本音を言えば、自分で造花作りしてみたかったのもある。昔のアニメや漫画に出てくるような、ちゃぶ台の上でする内職にちょっとだけ憧れていたのだ。


 ふう、とザラミーアが自分の頬に手を当て、色っぽい溜め息をつく。


「ソロバンの実習と教本作成に関してはミカのお力を借りるしかないのでお任せしますけれど、慈善事業の方はこちらも協力させていただきます。物件探しと求人の件はお任せなさい」

「えっ、そんな、ザラミーア様のお仕事が増えてしまうじゃないですか、ザラミーア様こそお忙しいのに!」

「お楽しそうだから私も混ぜて欲しいと言っているのですよ」


 ふ、とザラミーアは妖艶な笑みを浮かべる。


 …ちょっと、溜め息からの微笑みの緩急にくらくらしてきた。

 やたらにスキンシップをかましてくるイーリアと違い、ザラミーアは無闇に人の肌に触れたりはしない。だが何というか、色気とか流し目とか何かそういうベクトルでこちらの脳を溶かしてくるタイプだ。


「あなたも、リア様に似た嗜好をお持ちね」


 ドキドキしてるのバレてる。


「コリー、少しいいかしら」

「はい母上」

「ミカ、少しだけ借りますわね」


 ザラミーアはザコルを伴って廊下に出ていった。何か話があるようだ。




つづく

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