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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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意外とテレビっ子なんだねえ

 ぽくぽくとゆったり進むこと数時間。


 樹々の生い茂るエリアを抜け、視界の開けた場所で休憩をとる。昨夜までの吹雪で新たに積もったせいだろう、辺りはどこまでも水平な雪原が広がっていた。

 早朝は無風だったが少し風が出てきた。あちこちで新雪が粉となって舞い上がり、陽光にきらめいている。


「ほら、あれもダイヤモンドダストと同じようなものじゃないですか。ねえザコル」

「絶対に違います」


 ピシャリと言い返された。


「今朝のは本当にすごかったねえ。まるでスノードームの中にでも入っちゃったみたいな気分だったよ。あんな密度の細氷、君は見たことあるかいザラミーア」

「そうですわねえ、私の生家はさらに北にありますから、ここよりは細氷にまみえる機会は多かったですけれど」

「ほら! やっぱり寒い地域ならありふれた現象なんじゃ…」

「ありふれているですって? まさか。あんなふうに光の洪水のような細氷に全身が包まれるような経験は生まれて初めてよ!! いいかしらミカ。細氷というのはもっと静かで繊細な現象なんですからね、あんな宮殿のシャンデリアもかくやという派手な現象ではないのよ!」

「そうですか…」


 ザラミーアの祖国サイカは、北海道やロシアに相当する寒冷地帯を含む大国だ。そんな国の人が言うのならば事実なのだろう。


「おかしいなあ…。ダイヤモンドダストっていう言葉はやたらに有名だし、毎年ニュースの小ネタで流れるくらいだから季節の風物詩くらいのものかと思ってたのに…」


 完全に初雪観測や桜の開花宣言と同列に考えていた。見かけるのはレアだとしても、SSR級とまでは聞いてない。


「なるほど、君は本物の細氷、ダイヤモンドダストを直に見たことはないんだね? いいかいミカさん。テレビのニュースっていうのは珍しいから取り上げるんだよ。君は真面目そうなのに、意外とテレビっ子なんだねえ。ははっ」


 テレビっ子…。私はむしろテレビ離れが顕著な世代なのだが、情報化社会の弊害という意味ではオーレンの指摘は正しい。それに、子供の頃は祖母がテレビ好きで常につけっぱなしにしていたので、実はテレビっ子だったのかもしれない。


「知ったような顔でミカを語らないでもらえますか父上。もう麻袋に帰ってください」

「なっ、なんでそんなひどいことが言えるの!? ねえザラミーア、君の息子がひどいんだけど!?」

「そうですわね、あなたの息子ですわ」


 ザラミーアはいかにも適当な返事をし、イリヤと一緒になって雪玉を投げるミリナの方に視線を移した。

 彼らはエビーとタイタ、そして魔獣達を相手に雪合戦に興じている。新雪なので雪玉がうまく固まらず双方苦戦しているようだが、元気だ。


「ミリナさんまでやる気になってしまったのかしら…」


 ザラミーアはいわゆる非戦闘員のはずだが、あの雪合戦を単なる遊びだとは思っていないらしい。やはりここは脳筋の里である。


「今度一緒に鍛錬をしましょうって約束したんですよ」

「そう。それは確かに、生半可な覚悟では臨めないわね…」


 一緒に体操しようというだけなのにどうしてそんな覚悟が必要なのだろうか。


 ザコルが、イリヤとミリナに新しい武器をと熱く語ると、ザラミーアは二つ返事で頷き、子爵邸に着き次第武器屋に連絡を入れましょうと意気込んだ。

 完全に蚊帳の外にされているオーレンが気になってフォローしようとしたら、家族以外の人間がいる場所になどどうせついて来られないから話すだけ無駄、とザラミーアにもザコルにも言われてしまった。


「ミカさんは本当にいい子だね…。でも妻と息子の言う通りなんだ。山に引きこもってばかりいたせいか、人見知りは年々ひどくなる一方で」


 しゅん、とうなだれるオーレン。よし、話題を変えよう。


「ええと…。あ、サカシータ一族同士での私闘は禁止って昨日初めて知りました。鍛錬イベントを開いても、サカシータ兄弟同士では手合わせしてくれないのはどうしてだろうって思ってたんです。そういうルールだったんですね」

「ああ。うちの一族同士で手合わせなんかしたら周辺が無事で済まないからね」


 サカシータ一族同士ではないが、ザコル対コマ&ミリューの怪獣大戦争によってボコボコの滅茶苦茶になった放牧場を思い出す。あれをならすのは大変な作業だ。本来、重機が出ないといけないレベルで。


「何もないところならまだいいけど、町や道や城壁を巻き込むと大損害だろう? 数年前、ザッシュとロットが喧嘩した時なんかもうひどいことになったよ」


 あの二人、手が出るほどの喧嘩をしたことがあるのか…。意外と言えば意外だ。ザッシュもロットも、いくら言い合ったとしても力任せに脅すことだけはしない印象だった。まあ、若さゆえの過ちか。


「みんなザコルみたいに冷静ならいいんだけどね…」


 冷静…。殺気やドングリや雪玉で脅すのは冷静のうちに入るんだろうか。ああ、本当の争いになる前に力の差を思い知らせているという見方をすれば、一応冷静? な平和主義と言えなくもないか。


「子爵様、おたくの息子さん、ミカさんがからむといっこも冷静じゃねーすよ。大暴走も大暴走、誰も手ぇつけられねーっす」

「うるさいエビー」


 ヒュンヒュン、早速雪玉が飛ぶ。通常運転だ。


「はは、平和だねえ。今度から喧嘩するなら雪合戦でってルールも付け加えようかな」


 雪玉はレーザービームもかくやという速さで飛んでいるが、普通の吹雪を小雨扱いしているオーレンからすれば遊びにしか見えないようだ。ザラミーアとはまた違った脳筋フィルターをお持ちである。




 のんびりまったりと荷馬車は進み、途中小さな集落でオーレンやザラミーアが挨拶したりしつつ、夕方までには領都の門が見えるところにまでたどり着いた。


「ついに、ついに…!! 聖地サカシータの領都に足を踏み入れる時が…ッ!!」


 タイタは既に漢泣きしている。イリヤは御者席にいると目立つので荷馬車の中に引き入れた。


「兄貴、あそこがあの『タノモウ!』の門すか」

「タノモウ、で開くと言われている門はここではありません。子爵邸の門ですよ」

「タノモウのもんってなぁに、エビー」

「これから行く子爵邸の門すよイリヤ様。強くなりてえヤツが集まる門だって、全国でも有名な場所なんすよ」

「へええ…! すごい、僕、いれてもらえるかなあ!」

「へへっ、大歓迎に決まってっしょ」


 イリヤはウキウキソワソワしている。


「ザコル、結局このサカシータ領都の正式名称は何て言うんですか。スペルは書けるんですが、読み方が分からなくて」


 多分、ソメ…何とかと読むことまでは分かるのだが。相変わらず固有名詞の読み方はマスターできないでいる。


「ソメーバミャーコです」

「えっ、ソメー……ミャ…? 何て?」

「ソメーバミャーコです。言いづらいでしょう。領の人間は中央としか呼ばないので、ミカも中央と呼べばいいと思います」


 ソメーバミャーコ…。これまた変わった名前だ。読めるわけがない。てっきりソメイヨシノとか、日本にまつわる名前が付けられているかと思ったのに。

 いや、何かが訛ってソメーバミャーコになった可能性は残っている。またオーレンにも訊いてみよう。


 荷馬車の幌の隙間から少しだけ外を伺う。ゴゴゴ、ミシミシミシ、といかにも重厚な音とともに街の門が開く。まるで要塞のようなその街に、私達を乗せた荷馬車はゴトゴトと入って行った。




 時刻は日暮れ時、重い城門を開けて妙な荷馬車の一団が入ってきたというのに、街をゆく人達は一つも騒がず、しかしすれ違う際には目も合わせずにほんの少しだけ頭を下げながら通り過ぎていく。ただの荷馬車でないことは誰もが察しているようだ。


「なんて訓練された通行人達なの…」

「実際、この時間にここを歩く大人は全員現役の戦闘員のはずです。学び舎に通うような子供や、非戦闘員は外に出るなと厳命されていると思います」


 まるで映画やドラマのエキストラのごとく、私達があの門をくぐった瞬間から彼らの演技は始まっているらしい。すご。


「ミカも、街に出る時は目立つ行動は控えてください」

「分かってますよ」


 しばらくは私こそが聖女だ氷姫だと街の住民にはバレないよう行動しなければならない。

 いや、住民にはバレているかもしれないが、万が一曲者が混じっていた場合にバレないように行動しなければならない。間違っても、ド派手にスケートリンクを作ったりダイヤモンドダストを発生させたりしてはならない。それくらいはちゃんと解っている。


「街ではエセコマモード全開でいきますね!」

「それもやりすぎるとかえって目立ちますよ。本物のコマならば、無駄に注目を集めるようなヘマはしません」

「確かに…!」


 本物のコマがここにいたならば、街の民に目をつけられないよう、まるで空気のような立ち回りをするだろう。

 ここはシータイと違って人口も多い。他領の工作員という立場で、悪目立ちするリスクを冒すような真似は絶対にしない。


「兄貴はマネジさんのフリ頑張ってくださいよお」


 マネジのフリって何だろう…。そう言われてみると、彼らしい動きというのがよく分からない。


「マネジは僕がいると藪に隠れたりしますが、それ以外では常に僕の動きをなぞっているでしょう。だったら僕はこのままでいいんです」

「え、気づいてたんすか、あの人が兄貴に寄せてるって…」

「はい。どうせ他の同志にそう望まれたとか、そんな理由ではないですか。彼はきっと他の武器も使えるでしょうに、短剣術と肉弾戦にこだわるのもおそらく」

「すげ、俺、本人が言ってんの聞くまで全然気づかなかったっす。フツーにああいう人なんかと思ってました」

「あれは、潜入捜査などもかなりできるはずですよ」


 にんまり。ザコルが微笑う。

 そうだったのか、マネジはザコルに似ていると思っていたが、実は意図的に似せてもいたのか。ザコルはそこら辺も気づいた上でマネジを気に入っているらしい。

 本人に近いところで堂々と人真似してる方もしてる方だけど、なぜかそれを見て能力高いって喜んでる方も喜んでる方だな…。


「てか、ドン・セージの真似っつーのもよく分かんねーな。なんかジーク民はコマさんの所有物らしーんで、ミカさんの指図で動いてりゃいいってことすかね」

「ほら、普段と変わらないではないですか」

「確かに」

「いつ私がアゴで使っていると」

「アゴで使われたいと望んだのは僕らです」

「そーそー」


 ふふふっ、とおっとりした笑い声。


「本当に仲良しねえ、お姫様と護衛の関係には思えないわ」

「私達のお姫様はミリナ様ですからね」

「まあ」

「母さまがおひめさま、すてき。僕も母さまをまもる、ごえーになりますね!」

「あなたはいつだって母様の王子様よ、イリヤ」


 くふふ、とイリヤがくすぐったそうに笑った。




つづく

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