表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/569

来る朝④ 旅の続きだ

「わたくし、実は落胤ですの」

「らくいん?」

「ええ落胤です。王妃殿下の元侍女セーラ・シュライバーと国王陛下の間に生まれた隠し子なのですわ」



 えええええええええええええ!?



 わたくしはサーマル含む同志達の盛り上がりが一段落したところで、本題を告げた。



「そうなのだ! この可憐な生き物は私の片割れだったらしいのだ!」

「ですから、片割れではなく腹違いの年子だと何度申し上げれば」

「まままま、待て待て待てそれ以上は」

「そうだよっ、こんな外で明かすような話じゃないだろ!? 大丈夫なのかい!?」

「もう隠すのはやめましたから問題ありませんわ」


 わたくしの身を案じてくれる民ににこりと笑みを返す。

 それから、生い立ちについて簡単に説明した。



「マジかよ、この町どんだけ大物が集まってんだ…」

「ある意味知らされてなくて幸せだったかもな…」

 バットと三人衆が遠い目をする。


「なるほど、オリヴァー会長とはイトコ同士でいらしたというわけですな」

「道理でお顔立ちに違う系統が感じられるわけです」

「しかしどちらもビスクドールに変わりないですぞ。今日もお美しい!」

 同志達は興奮しているようでも冷静だ。


「もうドールや少女などという年齢ではございませんのよ。皆様を騙しているようで心苦しかったですわ」

「年齢なんて気にすることないよ。大体、年齢不詳の美少女なんて今更だろ」

「むしろ歳下でよかったぜ」


 皆、ミカやコマという存在に慣れきっているので年齢詐称については反応が薄い。


「アメリ様、どうして俺達に?」

「もちろん、護衛や加勢をしろなどという話ではありません。ですが、今後も必ずご迷惑はおかけすることになりますわ。皆様は特に、この領界および国境を護る現役の戦士様でいらっしゃいますから」

「それはまあ…」

 男達は顔を見合わせる。

「いずれ第一子爵夫人様や町長様からお話があるかと思います。ですが、なるべくお顔を合わせてご挨拶したいと思いましたの。皆様には、この町で楽しく安全に過ごさせていただいたご恩がありますから」

「そんなの、あたし達だって楽しかったよ! それに、あんなに支援物資をいただいたんだもの。こっちこそご恩に報いるのは当たり前じゃないか!」

「その通りです。テイラーの騎士様方にも大変お世話になっておりますもの!」

 女達はわたくしの手を取らんばかりに言い募る。

「騎士達、いえ氷姫護衛隊に雑用や露払いを手伝わせるようにおっしゃったのはミカお姉様ですわ。宿泊費と鍛錬参加費くらいは体で払うべきだと。そうね、ハコネ」

「ええ。ホッター殿の考えです。ただ、かえって皆様との関わりが増え、親切にしていただく場面が増える結果になったかと。隊員達も鍛えられましたし、非常に有意義に過ごさせていただいたこと、感謝に堪えません」

 ハコネは彼らに一礼してみせる。

「施されたならば、それ相応の礼を尽くすべきというのが我が敬愛するお姉様のお考えですわ。例え王族でも、これからはそうあるべきだとわたくしは思うのです」

「アメリ…! それは素晴らしい考えだな!?」

 サーマルが感激したように言った。





「アメリ様! 俺ら、あんたがこの国を何とかしてくれるっていうなら、絶対に味方するぜ!」

「話してくれて、嬉しかったですよ!」


 落胤と知ってなお態度を崩さないでいてくれる親切な戦士達にお礼を言い、その場を後にする。


「次は門の方へ向かうわ」

 騎士と侍女が黙って一礼する。

「アメリ、全員に挨拶して回るのか?」

「ええ。なるべく多くの方に。この町、いえこの領の民は一人残らず『番犬』なのです。彼らなくしてこの国はない。殿下も今はご存知のはず」

「ああ。山犬殿や黒水晶殿の言う通りだった。この地の民は謙虚だ。物言わぬ戦士達に、私達がどれだけ甘えてきたのかを思い知った。この町だけでも必ず全員に挨拶しよう。こういう機会はきっと二度とない」


「殿下…! ご立派になられて」

 くる、サーマルがグレイ兄弟を振り返る。


「いいか。私を褒めるのはしばらく禁止だ」

『え』

「どうやら私は影響を受けやすいらしいのだ。褒められればすぐ調子に乗る。だが、正直に言って褒められた立場でないことくらいは理解した。なので、お前達もアメリを見習って私に厳しくしろ!」


 えええええ、と困惑するグレイ兄弟に、カッツォ達が小さく吹き出した。



 ◇ ◇ ◇



「うまくやってるかな…」


 私は荷馬車の上で独りごちる。


 ミイミイ!

「そうね、ヤバそうなのは叩いたもんね。魔力が高いのに弱そうにしてる…って、確かに滅茶苦茶怪しいわ。教えてくれてありがと、ミイ」

 ミイ!

 ミイはグンと胸を張ってみせた。


 コマやシシの話を聞く限り、魔力の高さというのはどうやらほぼ遺伝で決まるらしい。稀に突然変異みたいなのがあったとしても、先祖返りのようなパターンが多いようだ。


 サカシータでは魔力の高い平民も珍しくない。

 この土地の人は出稼ぎに行ってもUターンしてくる人が多いらしいので、渡り人を含む先祖から受け継いだ血の保持が平民間でもうまくいっているのだろう。

 しかし都会の、階級意識が辺境よりも強い王都は違う。しがらみとプライドに縛られた貴族が平民が交わることは稀だろうし、土地柄、他所からの流入も多い。

 魔獣達に聞いても、武人の家系でもない新興貴族や平民で、魔力の高い人間なんてのはほとんど見たことがないそうだ。

 ということはやはり、魔力の高い人間というのは、基本的に先祖に渡り人がいたであろう貴族か、その関係者が多いということになる。


 そんな人間がみすぼらしい格好で難民に混じり、さも生まれた時から不幸でしたみたいな顔で嘆いているのは明らかに不自然だ。

 ミイが指摘してくれたのでドングリを投げつけておいたら、周りが察したように拘束してくれた。


 …やはり、残してきたアメリア達が心配だ。

 難民にかなりの曲者が混じっていそうなこともあるが、彼女らが今後どうするつもりなのか、近くで見守ってやれないのがもどかしい。

 町にいる民は彼女の味方をしてくれるだろう。受けた恩は徹底的に返す人達だ。

 しかし彼の方はどうだろう。余計なことを言ったりすれば拳の一発や二発はくらうかもしれない。人前に出る立場だし、歯が折れたりなどしないといいが…。


「今のサモンならば大丈夫でしょう」

 私と同じく荷馬車の上に座ったザコルがそう言った。


「…はい。そうですね、信じましょう」




 第二王子、サーマル・オースト。

 以前と比べたら格段に話が通じるようになったし、真面目に従僕見習いの仕事に取り組んでもいた。歴史の学び直しのため、私のところに質問に来たこともあった。マージにもよく教えを乞うていたようだ。

 勉強しにくる幼児達を毎回『よく来た!』と歓迎し、甲斐甲斐しく文字や簡単な計算を教えてもいた。幼児達もすっかり彼に懐いたし、親達も黙認してくれているようだった。

 料理長やエビーとは歳や立場を超えた友情を育んでいる。もはや過去の彼とは別人だ。


 かつて彼がしでかした所業がどのようなものか、私も全てを知っているわけではない。

 無知や偏見をひけらかすようにあちこちで問題発言を繰り返し、女を取っ替え引っ替えしたというのは問題ではある。相手の女達に下心があろうがなかろうが、彼の方が身分が高いのは事実だ。立場の弱い令嬢相手に、無理強いしたと取られても仕方がない。

 ただ実際は、令嬢を一方的にどうにかできるほどの影響力を彼は持ち合わせていなかったようだ。

 モンペ代表シシが『むしろ暴行罪で捕えるべき』だと言うくらい、サーマルは王族としてはあり得ないくらい立場が弱かった。現王妃が産んだ唯一の王子であるにも関わらずだ。

 まあ、立場が弱いという自覚さえなかったのが彼らしいといえば彼らしいところだが。


 そんなサーマルに、女にだらしなくした以上の悪事を働けただろうかとは思う。知らぬうちに事件に巻き込まれていた可能性はあるが、あの様子では巻き込む方も苦労したことだろう。

 サーマルは最近は声をかけてくる貴族も減って手紙も寄越さなくなったと言っていたので、一時下心を持って近づいていた貴族達は彼を見限り、他の勢力に与したと見るのが妥当だ。


「…ホムセン一派がいれば、サモンの立場もまた違ったのでしょうが」

「ザコルったらまた自分を責める気ですか? サモンくんだって今更、野心ギラギラのおじさん達に担がれたいなんて思いませんよ、きっと」


 確かに、現王妃を擁立したのは今はなきホムセン侯爵とその一派だ。彼らがまだ興成を誇っていたなら、サーマルを何が何でも王位につけ、後ろ盾として実権を握ろうと画策したことだろう。


「もしあの粛清がなければ、タイタはサモンの近衛だったかもしれませんね」

 御者として手綱を握るタイタが振り返る。

「まさか、恐れ多いことです。しかし、あの粛清があったからこそ俺は素晴らしい主様、職場に恵まれたのですよ。やはりあなた様は俺にとっての救世主なのです」

 つまり王子としてのサーマルの近衛はゴメンだと…。

「へへっ、サモン殿もきっとそう言いますよ。私は今が幸せだ! ってよく叫んでましたもん」

 荷馬車の中からエビーが幕をめくって顔をのぞかせる。

「今頃、まだただのサモンでいたいのだーって、我が儘言ってんじゃねーすか」

「ふふっ、目に浮かぶようだね」

 ザコルが空を見上げている。

「今夜か明日、吹雪くかもしれません」

「え、それは大変ですね。今日中に中央…領都には着かないですよね」


 雪道に加え荷が重いせいもあって、馬車はゆったりのんびりとしたスピードで進んでいる。

 先程やっと川を通り過ぎたというところだ。以前、鉄砲水でシリルとその父が流されそうになり、カリューを水没させかけたあの川である。


「はい、途中の町を頼ることになると思います」

「そこで何泊かするかもしれないってことですね。いつだったかシータイの次に行こうとしてた町ですよね。ほら、タイタが予定考えてくれてさ」

「はは、ミカ殿に道程の添削をしていただきましたね。随分と前のことのように感じます」

「実際、一ヶ月以上も前のことっしょ。通り過ぎるだけのつもりが随分長く居付いちまいましたねえ」


 そう、随分とかかったが、旅の続きだ。





「ミカ。あちらの薮の方はお願いします」

 ギャッ!

「はい。もう投げました」

 ガッ、グアッ、アギャッ!

「流石ですねミカ」

「ザコルも三発同時に当てるとか流石すぎます」


 私とザコルは相変わらず荷馬車の上に並んで座り、そこらに潜んでついてくる曲者に飛礫を投げつけている。

 穴熊の何人かとメリーが曲者を掃除しながらついてきているので、囮がてら彼らの仕事の手伝いをしているのだ。

 基本的にこっちの荷馬車を追ってきているような曲者は、氷姫と猟犬がこの『罪人護送車』に潜んでシータイを脱出したと予測している者達だ。目立つところに男女の二人組らしいのが乗っていれば、変装を見破ろうと顔や髪色を確かめに近づいてくる。曲者ホイホイである。


「荷馬車の中も楽しそうですねえ」

 私達が乗った荷馬車の中では、ミリナとイリヤとエビーでナゾナゾを出し合って遊んでいるようだ。エビーの大袈裟なリアクションに、イリヤがキャッキャと笑っている。

「荷馬車の中も、ということは、ミカは今楽しんでいるんですか」

「もちろんです。荷馬車の上に乗るのも楽しいし、ザコルと飛礫投げて遊ぶのも楽しいです」

「遊ぶ……?」


 ザコルの微妙な反応に、ははっとタイタが笑う。

 楽しいのは、ザコルが背中を預けてくれているからでもある。大した曲者でないからとはいえ、あっちの敵はお願い、と他ならぬザコルに頼んでもらえるなんて。鍛錬頑張ってよかったな、としみじみ思う。


「後ろの荷馬車も楽しそうですね」

「楽しそう……?」


 三台ある荷馬車のうち手前の一台には、なんと、先の戦への関与が疑われる執事長が収容されていた。いつの間に捕まえたんだろうか。私が寝込んでいる間とかだろうか。

 さらに、マージとサゴシとペータが捕まえたという、屋敷内をうろついていた『ネズミ』も収容されている。男性使用人の一人だった。彼は、マージの夫で元町長ドーランや執事長とともに何がしかの不正に手を染めていたらしい。


「煮るなり焼くなりお好きにって言われたのでサゴちゃんに任せましたけど、明らかに煮たり焼いたりした後でしたよね、彼ら」

「サゴシが尋問するなら、搾りカスくらいは出るかもしれません」

「ふふっ、期待されてますね、サゴちゃん」


 明らかに闇の気配が漏れ出ている荷馬車はペータが御者をしていた。彼はまだ十代前半だというのに、見事に二頭立てを操っている。

 この世界での御者ができる年齢の基準はよく分からないが、完璧な礼儀作法で従僕をやり、実戦も可能な実力を備え、隠密や御者までできる中学生、と考えれば凄いの一言である。


 その後ろの荷馬車は、もはや地下牢の主みたいになっていたイアン、ザラミーア、例の麻袋が乗っている。御者をするのはイーリアの側近の一人。こちらは変装ではなく本物の側近である。

 イアンは例によって鉄線やら何やらでがんじがらめにされた挙句、周到に簀巻きにされ、猿轡もかまされている。イーリアの側近と麻袋が同乗しているので、万が一暴れてもザラミーアに被害が及ぶことはないだろう。

 イアンが唸る横で、麻袋は延々とザラミーアから説教を受けているようだった。


「あの荷馬車にだけは乗りたくないですね…」

 ザコルのいかにも嫌そうな言い方に、私もタイタも吹き出した。

「っ、ふふ…っ、ていうか、どうしてまた麻袋に入っていらっしゃるんですかね。昨日、お風呂は入ったんですよね?」

「さあ。ドーシャの黒子装束のようなものなのでは」


 あれは覆面のつもりなのか。どうしても私を含む若い女子? とは顔を合わせたくないらしい。カズはアカイシの国境警備中に話をしたこともあるそうだが、あの様子でどうやって会話をしていたのかが気になる。


「ザッシュお兄様やロット様への理解が深いわけですねえ…」

 麻袋から出てこないのに比べれば、多少の女見知りやオネエ趣味なんて可愛い方だ。なんせ会話が成り立つ。

「そうですね、親があの調子ですから。…まあ、ミカになら心を開くと思いますよ、そのうち」

 また嫌そうな顔でのたまうザコルを、白装束の頭巾の上からいーこいーこと撫でておいた。



 そうして進んでいると、後ろから何かが雪上を滑る音と共に、カランカランと軽やかな鈴の音が聴こえてきた。

 サンタクロースでも来たのかと振り返れば、多数の犬をつないだ小さなソリが一台、男二人を乗せてこちらに迫っていた。


「えっ、犬ゾリ!? すごーい、初めて見た!! しかも速い!!」


 日本ではもちろんだが、シータイでも犬ゾリの実物もそれを扱う人も見たことがなかった。考えてみればこうして町の外を移動するために使う手段であって、町中をこれで移動するわけではない。見かけなくとも当然か。

 メリーや穴熊が止めないところを見るに、あの犬ゾリは味方なのだろう。


「…っていうか乗ってる人、明らかに白装束じゃないですか。何で同志が犬ゾリに乗ってやってきたんですかね」

 雪国迷彩でもある白装束は、もはや同志達のトレードマークと化していた。

「話があるのでしょう。エビー、後続の荷馬車に止まる旨を伝えてください」

「了解す! イリヤ様、また後で続きしよな」

「うん! 僕、ここでおとなしくまってる!」


 エビーは聞き分けのいいイリヤにニカッと笑顔を作り、馬車から飛び降りて後続の方へと駆けていった。




つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ